Long Story(SFC)-長い話-

揺籃の森のむこうへ -epilogue1-



―――そして、物語は冒頭に戻る。

 

 

「すごく好きなひとのこと考えてたの」

 

あたしは、何も知らないガウリイに告げた。自分の気持ちを。

あの世界にいたときからあたしは想ってたことだったから。多分、もう元には戻れないだろうと。

この世界に戻ってきても、前のあたしには戻れない。一緒にいるだけなんて冗談じゃない。

―――――ガウリイと一緒になりたい。彼にあたしをそういう目で見て欲しい。あの時みたいに。

 

…少し度胸が要った。何しろこっちのガウリイは何にも考えてない。

何も知らない。あのガウリイと一緒だとわかってるものの、本当にそうか少し不安ではあったし。

でも言わなきゃ始まらない。向こうからなんて今は待ってられない。

そう考えて―――あたしは切り出した。まずは、今、どうにもならない恋をしていることを。

 

言って彼の顔を見つめる。彼の顔色はみるみる変わっていった。

「……相手は、どんな、やつなんだ」

絶句してた彼がしばしして言った声はとても固かった。

冗談でないのはあたしの様子ですぐわかったらしい。まさか今更自分に急激な恋をするとは思ってないのだろう。絶望に満ちた顔。

それにあたしは申し訳ないが、心の中で安心した。

 

―――ああ、あの(・・)()のガウリイだ、と思ったのだ。

あたしがいなくなったかと思ったと、隠し部屋に来たときの。

やっぱり――――ガウリイなのだ。当たり前なのだけど、未来の彼が言った通り。

ちゃんとつながってる。

 

「…それ訊いてどーするつもり?」

あたしは訊く。なるたけ抑揚のない口調で。

「そんな顔して。あたしに惚れてた―――とでも言うつもり?」

 

挑発的な言い方をしてるのはもちろんわざと。

追いつめられないとおそらく彼は本音を言ってくれない。それは未来の彼が証言している。現状に甘えているから。

 

あたしの問いに、再び絶句するガウリイ。

しばし黙って、けれどすぐに首を横に振る。

「過去形じゃない。今もお前さんに―――惚れてるんだ、オレ」

 

強い口調で。

焦ったように、でもはっきりと彼が言った。

それに内心泣き崩れそうだったのは秘密にしておく。

ばか。あっさり観念しすぎ。

 

「…だから、知りたい。お前さんが惚れた相手は―――どんなんなのか。いや。そもそもいつ――――」

彼がしゃべってる最中にあたしは、タックルをかけるように彼に体当たりする。

「リ、ナ?」

「……責任とんなさいよ」

言って彼の胸に顔をうずめる。

ガウリイの匂い。

やっぱりほっとできて、苦しくなるほど、好き。

ああもう。

 

「ゼフィーリアに行くより前からずっとずっとそーゆーこと言って欲しいって、願ってて、思ってて、もう今やあんたのことばっかり考えててどーにもならなくなってんだからっ責任とれっていってんのっ」

言ってみぞおちを殴るのはお約束。

もちろん半分くらいは正しくないのだけど、でもある意味全然間違ってもない。

 

「え、あれ」

「……何よ」

「オレ、なのか?」

しどろもどろで言うガウリイをじと目で見上げるあたし。

「あんた以外に誰がいるのよ」

 

本当はいたんだけど。でもいないとも言える。

それが辛いのか、なんなのか正直よくわからない。

でもここにいるガウリイがあのガウリイになるかもしれないのを待つのも悪くない。

彼があたしを待った分だけ。

どちらにしろあたしの想いは、未来の彼同様変わらないし。

変わらないと今こうして、改めて感じた。

 

ぎゅむっとガウリイの方からもあたしを抱きしめてくる。ちょっと強く。

「そっか。そっかそっかそっか」

安心したように、自分に言い聞かせるようにそっかばかり連発する。そして大きく息をついてあたしに囁いた。

「……びっくりした。焦った」

その声は本当に焦ってたという色。それだけ彼が追いつめられたんだな、と思う。あの一言で。

本当馬鹿みたいだ。

 

「多分オレの気持ちわかってるだろうなあって思ったし、リナもそうだと思ったし。

ずっと一緒にいると思ってたから、言わなかったんだけど、やっぱ言わなきゃダメだな、本当今焦った。よかった」

その言葉にあたしは思わず彼の腕の中で吹き出した。

同じこと言ってる。あの時と。

 

「…どした?」

「別に?」

笑いすぎたか別の理由からか。少しだけこぼれた涙を彼が指ですくう。

既視感。

そして彼が上半身をかがめてあたしに顔を近づける。ちょっとおどおどわたわたして、こちらを確認するように、たとえば、その、いいのか、と、言われる。

何が言いたいのかしたいのかは状況からもちろんわかる。

誰も見てないでしょうね、と今更ここが街道であることを気にしてみるけど、ここで告白しだしたのはあたしだし、気配もないし、まあいいかと思って苦笑して頷く。

つま先立ちで背伸びする。

もう本当は慣れている、けれど彼との初めての唇の感覚を瞳を閉じて受け入れた時、もう一度嬉しくて涙がこぼれた。