Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -epilogue-









そうして『宝探し屋』としてルークと旅をして。

相変わらず彼は私にアプローチして。

私は軽く流して。

それでも彼はついてきて。

そんな旅を続けていた。

 

コランディア王国の噂も、ギウスの噂も特には聞かないけれど。

けれど青い世界を過ごしているのだろうと信じていた。

 

『グリーン・サファイヤ』は旅の最中、宝の中で時々見かけたものの、それらはあの時程の輝きを持つものではなかった。

ルベウスが宝物にしていた、あの透き通る碧にはどれも及ばなくて。

 

 

 

旅の途中で魔族などにまきこまれるようになってきたけれど。

その旅で知り合った、リナさんやガウリイさんの腕が立つのもあり、なんとか倒す事が出来た。

そう言ったものと戦うコツをつかめるようになった。

 

 

 

「そう言えばなんでミリーナはルークといっしょに旅してんの?」

 

リナさんにある時そう言われて私はこう答えた。

 

「私は不器用ですから」

 

きっと意味はよくわからなかっただろう。その後説明する機会も無かったし、機会があっても説明していたのかもわからない。

 

ルークは信用できる仲間で。いつのまにか、ルベウスと同じ位に信用している大切な仲間、で。

もちろん嫌いではない。

けれどもそれはたぶんルークが思う私への感情とは違うのだ、と常々思っていた。

リナさんとガウリイさんを見ていて特に。

 

あの二人を最初見たとき、私はとっさに思い出していた。

ルベウスの事を。

 

歳の離れた二人。

けれど気を許していて、何でも言いあって。…何でもお互いを理解できて。

ルベウスと旅をしていたらこんな風になれたんだろうか、と無意識にでも考えていたことがある。

けれどどちらにしても私はリナさんほど素直に感情は出せないし。

ルベウスは誰にでも優しかったから、私に対してどう想っていたかわからないし、正確にはこんな風ではないのだろうけど―――。

家族のような、家族以上の想い合う感情。

それができると想えたのはどうしてもルークではなかった。

ルークの方は想っているようだった。

何かと私達と彼女達の仲を比べていた。

その違いに、時々違和感を感じていた。

 

 

私は不器用だから。

器用にルベウスを、クルンツを倒した後でも彼を、何よりも大事な位置から離す事はできなかった。

私は不器用だから。

気がつけば信用できるようになったやっとできた『仲間』をそう言った感情に見る方向に簡単に向かえなかった。

けれど私は不器用だから。

ゆっくりとならそれに向かっていってもいいのではないか、と想った。

その意味をこめて。

一言私は彼女に言った。

 

ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

「ミリーナ!?」

 

セレンティアで。

ごろつきに混ざっていた暗殺者――人魔に私は毒刃にやられた。

うかつだったと思う。

最近はあまりに大きな存在の魔族などと戦っていたせいで感覚が鈍っていたのかもしれない。

リナさんの浄化呪文も効果はあまりなく、私は段々体力を奪われて行く。

 

ルークは私を背負いながら魔法医を探す。

色んな理由で見つからなくて。

彼が放つ声が悲鳴になっていくのが痛かった。

毒による苦しみよりも、何よりも。

 

 

もう手の打ち様がないとわかり。

私達が最初雇われていた北の神殿の一室で。

私は横たわり、リナさん達に言った。

 

「………二人に……してもらえますか………」

 

ルークと私だけになり、ルークは私の傍で泣きそうになっており、私は彼に手を伸ばした。

 

不思議と、毒をくらったやつらへの憎しみはなかった。

死への恐怖も無かった。

ただ。

 

「ミリーナ……!!」

それしか言葉にならないようで悲痛な叫びを上げる彼。

ルーク。

彼は私がいなくなったら?

哀しむなんてレベルじゃないだろう。

何もかも絶望するのではないだろうか。

今回の事に関わったもの全て。

みんなみんな消してしまおうとするのではないだろうか。

…リナさんやガウリイさんは止めてくれるかもしれない。

けれどもその二人すら消してしまおうとするのではないだろうか。

 

何よりも放って置くと危なくて。

赤になりやすくて。

それとも自分を消そうとする?

 

 

一緒に何年も旅して、どう対応するかなんて私はわかっている。

だからそれが痛かった。

自ら赤くなろうとする彼。

誰よりも『ルビー』に近づきやすい彼。

 

 

そこでルベウスを憶い出した。

彼も―――こんな想いだった?

遺した私にああ言ったのは。

何よりも自分が痛かったから?

 

この感情が何といえばいいのかなんてわからない。

ルベウスと同じなのかもわからない。

けれども。

言わなければ。

 

私はどちらにしてもこのまま消えてしまうのだろう。

なら彼を赤く遺すのは嫌。

 

長生きしろ、とは言わないし――言えない。

なら言うべきことは――やはり――

 

「…ルーク…」

「なんだっ、ミリーナ!?」

悲痛な声。

泣かないで、赤くならないで―――

 

 

「人を……嫌いに…ならないで……」

 

結局彼と同じ言葉を紡いだ。

お願い、誰よりも大切な貴方は――――自分を嫌いにならないで―――。

 

 

―――サファイヤのままでいて。

 

 

碧の、呪文を唱えた。