Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -26-



私はルークが動き出した後、呪文詠唱に入り、やはり別の方向に動いた。

――彼が言った事を頭に焼き付けながら。

 

『ルベウスってやつの敵をとってやる』

 

――――厳密には――違う。

敵が取りたくて、ここまできたわけじゃあない―――

 

 

「烈閃槍!」

私の術を防御し、こちらに来るクルンツ。

因縁も絡んで、どうしても私を先に倒したいらしい。それはルークの頼みには好都合だけれども。

得意技の投げナイフ。

よけた後、くんっ、と体が動かなくなった。

影縛り!

「火炎球!」

クルンツ用に唱えてた術を地面に使い、自由を取り戻すとすぐに来たクルンツの剣を剣で防ぐ。

そこに割ってはいる様にルークの魔風が来て、わたしとクルンツが離れた隙にルーク自身が割り込む。

「それで油断を誘ったつもりか!?」

そう言いながら余裕の笑みでルークの突き出した剣と自分の剣を結ぶ。

が。

 

キィン!

 

「何!?」

剣から氷がつたの様に伸びてクルンツの剣まで伸びる。

クルンツは剣を即座に放した。

その隙に。

「魔王剣!」

ルークは自分が出した氷を出す剣は捨て、術を放った。

手に赤い剣を生んで。

 

 

 

 

あまり呪文をそんなにそれまで使わなかったところで、剣中心で特に目だった攻撃呪文をルークは使えないと私ですら思っていた。

そこで見たことも無い術の連発に私だけでなくクルンツは驚いたろう。

いや。

驚く間も無かったかもしれない。

ルークの赤い剣はクルンツを真っ二つにしていた。

好奇の目で彼を見ると、へへ、と照れた様にしてこっちを見た。

 

「……一体、何をしたの?」

「剣に氷の術ちょいとかけて触れたら発動するようにして…

んで、『赤眼の魔王シャブラニグドゥ』の力を借りた術をぶっ放した、ってわけだ。

本当はもーちょっと苦しめたかったんだけどな…」

そこまで言うと私の表情をうかがって、

「あ、いや、別に殺すのが楽しかったわけじゃなくて。

敵取るのにあっさりとしすぎるのもどーかと思ってただな……」

「……別に弁解しなくて結構です。

ただそんな術が使えた事に驚いてるだけです」

呆れて私は言った。

ああ、と少し後ろめたい様にルークが再度口を開く。

――黒い塊となって横たわるクルンツを見て。

「暗殺者時代に、な。色んな事覚えたからな……」

そう言う彼の表情からは、複雑な色が見えた。

 

「…あ、もしかしてミリーナ自身がやっぱし倒したかったか?でも俺としては俺のミリーナに危ない目にはあわせたくねーし。

この前の分倒しておきたかったし」

「だから誰が貴方のですか」

「とにかく、俺が倒したらまずかったか?なんか…喜べてないみたいだから。敵、取りたかったんじゃあないのか?」

「………違うわ。どちらも―――違います」

私は静かに首を横に振った。

 

 

敵が取りたかったわけじゃあ、ない。

ルベウスがそれを望んだとは思えなかったから。

ただ。これ以上赤くしたくなかった。

最期まで笑って人を殺すことを望んだものをこのまま野放しにしたくなかった。

人で無くなってしまった人。

自分も人であることを忘れてしまったもの。

それらに殺される人を――増やしたくなかった。

 

 

 

 

 

 

「ミリーナ……旅に出るのか?」

 

ルベウスが殺されて数日経った後だった。

 

ギウスに町を出る前に呼びとめられて、私は振り向いた。

黙ってうなづく。

「何しに――旅に出るんだ?」

「………」

 

何かを探したかった。

何なのかはわからないけれど。

言葉にするにはどうしたらいいのか。

 

「人を―――色んな人を見てみたいから」

ルベウスが言った言葉を口にする。

結局彼に行きついてしまう。

言葉が上手く紡げないのもあるのだけれど。

 

人を嫌いにならないよう、色んな世界を見たほうがいい。

彼が遺したものを辿りたかったのかもしれない。

 

その言葉に、ほっとした表情をするギウス。

「よかった。兄ちゃん達を殺した暗殺者を倒すため、って答えなら引き留めるつもりだったから」

「……それは」

「それはないわけじゃない、って?わかってる。けどさ」

ギウスは私を見つめて言った。

「それを第一の理由にはしてほしくないから。そんなんじゃ人を好きにはなれないだろ?」

 

ギウスが、私の言う言葉の意味をわかってくれている様で、私の方もほっとした。

やっぱり、兄弟だけあって似ている。

 

「おれさ、しばらくは兄ちゃんの遺したもので食ってくしかできないかもしんないけど……。

才能やっぱしないかもしんないけどさ。

兄ちゃんのやってたこと継ぎたいんだ。魔法の護符職人。

結局剣で食うしかなくなるかもしんないけど、ミリーナが旅してても噂訊くくらいにはなる様に頑張りたいと思う」

「……」

「だから、ミリーナも旅して、なんか見つけてこいよ。不器用だから誰かと出会って、誰かを信じて、なんてできないかもしれないけど。

お互い、さ。頑張ろう」

「…ギウス、ルベウスの影響受けすぎよ」

人のことは言えないけれど。

なんだかおかしくなって私は少し笑った。

まあな、とギウスも笑った。

 

 

だからクルンツを倒すのを旅の理由にはわざとしなかった。倒すつもりではいたけれど。

敵を取るために旅をしたつもりはない。

けれど。

私がでないにしろ倒した事で肩の荷は降りた。

 

 

「喜びではないけれど、安心したわ。

………有難う―――ルーク」

 

―――その場から、クルンツの遺体からゆっくり歩き去る事をしながら。

私はルークに少しだけ優しく、言った。

するとその言葉に嬉しそうにして彼は話を変えた。

 

「じゃ、全部片付いたしらぶらぶトラベルと行くかっミリーナv」

そう言って私より率先して彼も歩き出す。

「………」

すぐに私は呆れ顔になった。

優しくすれば、真面目だと思えばすぐこうなってしまう。

 

「で、どこに行くんだ?ってゆーかなんか目的あるのか?やつを片す他に。

あるなら何でも付き合うぜ」

「目的って……」

 

彼に抽象的なこの理由がわかるとは思えないのだけれど。

と言うか本当についてくるつもりなのか。

最初、クルンツを倒すための口実でそれまでかとも思っていたのだけれど。

 

ふっとその時上に広がる空が、見上げた瞬間目に入った。

それは気がつかなかったけれどとても青くて。

サファイヤ。

 

「……『グリーン・サファイヤ』でも探しに行きましょうか」

 

何もかも終わって、ふと私は見たくなった。

ルベウスの一番好きだった宝石。

彼が持っていたものはギウスが大事に持っていたし、そう言えばあの時だけだった。

あれっきり、あの色に出会えてない。

辛くて目を背けていたせいだろうか。

 

「ををっ、宝石探しか!宝探し屋ってわけだなっ?」

私がこぼした台詞をそう受け取ったらしく燃えるルーク。

……別に否定はしないけれど。

 

彼と旅をする、のも悪くないかもしれない。

第一目を離すと何をしでかすかわからない危うさもあるし。

そう思った時ふと思い出して苦く笑った。

耳が痛いほど訊いていた言葉。

 

『僕達だけじゃなく、ゆっくりでいいから誰か信じられる人を見つけろ?』

 

見つけたかもしれない。

まだまだ完全にではないけれど。

戦っている時信用できる人は。

 

「おーいミリーナっ、行くぞっ!」

前へ突っ走ったルークが私を呼んだ。