Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -25-



次の日の朝、私とルークは荷物をまとめ、宿を――街を、出た。

 

コランディア王国。

今後どうなっていくのか、王位は誰に譲られて行くのかなんてもちろん私にはわからないし知るべきことでもないのかもしれない。

また訪れる事があるのかもわからない。

けれども、もし訪れる事があるのなら。

その時は全く違った形で、違った想いでこの国での時間を過ごしたい、と思った。

 

 

国を出て裏街道にさしかかる。

この国を出るにはもちろん表の街道もあるし、色んなルートがある。

けれどあえて、ここを選んだ。

―――最も、戦いやすい場所の取れた道を。

 

 

だいぶ歩き、昼に差し掛かった頃。

私達はふと、とした様に足を止めた。

「おいでなさったみたい、だな」

ルークがそう言い剣を抜く。

私も黙ってうなづき、呪文詠唱に入った。

 

森のざわめきが消えた。

 

ひゅんっ!

 

前と同じように。ナイフが何本も向かって来て、当然のことながらそれを私達はよける。

「…さすがにワンパターン過ぎやしねえか?」

森の中から現れた暗殺者に、ルークは苦笑した。

明るい時間に出てきたのに、場所が場所だけに森にさえぎられてやはり闇から現れた様に見える。

 

 

「挨拶と言う奴だ。

わざわざこんな所を選んだと言う事は―――覚悟はできている様だな」

「邪魔ははいらねえだろ?…しっかし依頼主があんなになって残念だったな。ミリーナをそれでも狙うのは意地、ってやつか?」

「別に気にせんでも先に代金はもらっているから問題はない。仕事は最後までこなすのがせめてもの見舞だな。

―――しかし見込んだ通り――操りやすい依頼者だった」

ルークの言葉に前の抑揚の無い声に少し明るさを増したような口調で、クルンツは答えた。

「……まさか」

そして私は思わず呪文を唱えていた事を忘れてその話に反応し、言葉にもらした。

 

操りやすい依頼者―――

まさか―――王妃の狂気の原因は―――

 

にやり、とした顔をした気がした。挑発する様にクルンツは言葉を続ける。

「そう言えばルベウスとかと言う男を殺すよう依頼した人間も同じように狂ってくれたな―――

ちょっとした幻覚を見せるだけであの手のタイプは闇に陥ってくれて商売しやすい」

「何…!?」

ルークも驚愕の声をあげる。

 

 

ちょっとした幻覚を見せるだけで―――。

つまりは―――自分の武器を利用して、存在しもしない人や、事柄を頭に植えつける。

それで闇に陥ったところでそいつを殺してやろう、と話を自ら持ちこみ―――遂行する。

そうして仕事が終わって去れば、特に口封じする必要もなく、闇を背負わせたままで狂って状況判断ができなくなる。

多分―――そう言う事なのだろう。あくまで仮説でしかない、けれども。

王妃が見た、王妃を追い詰めた、銀髪の女は―――実在はしない。

彼が見せた、王妃自身の心の闇―――。

 

クロムも―――そのせいでだったというのか。

一瞬そう思ったけれどすぐに考えるのを止めた。

今更そこまで考えても想像でしかないから埒があかないし、きっと答えは出ない。

……失ったものは戻らない。

 

 

「幻覚と言うよりは暗示だがな」

嘲笑う彼に私は問いた。

「何故――そんなことを私達に話すの」

自分の手の内を―――。

 

「単に面白いだけだ。この前は驚かされたが。

今まで殺した者の関係者が追いかけてくる事などなかったからな。そして一度会っただけでは殺せなかったほどの相手、となると尚更な。

それとも偶然か?私に会うのは」

「――――」

 

偶然―――ではない。

私が旅をすることにしたのは―――クルンツを倒すため、というのが無かったと言ったらそれは大嘘だ。

 

「単純に殺すのは楽しいがたまには面白みを持っていた方が尚更楽しいのだよ」

「…腐ってんなてめえ…」

ぎり、とルークが奥歯をかみ締めた。

けれどもことなげに。クルンツは言った。

 

「元とは言ってたが、暗殺者として失格なのは貴様だな」

 

ジャッ!!

 

無数のナイフが私達に向かって迫ってきた!

どう見てもその量からして幻覚は使われているだろう。中に本物も入ってるかもしれない。

もちろん前のルークのような真似をするつもりはない。けれどもよけられる量じゃない。

しかし。

それは―――どちらにしてもこちらとしては予測済み。

 

「魔風!」

「何っ!?」

私が再度呪文を唱え、完成させていた術が発動し、風を起こす。

そしてそれに驚くクルンツ。

魔力によって起きた風は幻覚のナイフを消し、本物のナイフをも跳ね返す。

 

「…さすがだな。ルベウスとかと同じ様に防ぐ術を思いついたか」

「………」

感心するクルンツを私は真正面から見据えた。

 

 

―――やはり、そうか――――

私は素直に仮説があたっていた事にほっとした。

 

はっきり言ってルベウスがこの術で防いだ自信は無かった。彼がこれを使えるかなんて知らなかったし。

けれども確実にナイフを、本物であろうと偽であろうとはじく力があるのはこう言った風の術だろう。

そして今まで術を行った時は必ず風が止んだ時。

と、すれば―――この術は風に弱いのではないか?

その仮説が頭にあった。

そしてそれは正解だった。

 

私達は2度の戦いの末見つけ出したけれども、ルベウスは一目で見破った―――

偶然だったのかもしれないけれども、その彼の頭の良さにも尊敬する。

 

「しかし私にはこういう技もあるからな!」

「!」

隠し持っていたらしい剣を向けて私の所にクルンツが迫ってきた。

 

 

ギィン!

 

抜いた剣で私は防ぎ、間合いを取る。

その時ルークがクルンツの傍に来て、やはり剣を抜く。

「俺がいること忘れてんじゃねえかっ!?」

しかしルークが斬る前にクルンツは自身の剣で受け止め、剣技を繰り広げた。

早い!

危うく逆に斬られそうになりルークも後ずさり――私の傍に来た。

 

―――なるほど。剣に関してはルベウスは素人に近かった。

幻覚を破っても勝つ事はできなかったのがわかる。

 

そう、思ったより冷静に納得する自分がいた。

どう動こうか考えていると、ミリーナ、と小声で囁かれる。

「考えがある。適当な呪文であいつを惹きつけてくれ」

「……え」

「ルベウスってやつの敵をとってやる。ミリーナを怪我させた分に加えて」

「―――」

 

私が何か言う前にルークが再び動き出した。