Long Story(SFC)-長い話-
SAPPHIRE -8-
「昨日の騒ぎは貴女が関わっていたようですね」
――――黒ずくめと対峙した翌日。
また王妃に呼び出され、行くなり言われたのが予想通りその言葉だった。
今日は側に王も皇子もいない。
「現れた暗殺者と対峙しましたので」
私の一言一言に苛立った表情を見せる王妃。
もしかしたらこれはどうにもならないのかもしれない。
私とは全く逆のタイプである以上。
「一緒に、見知らぬ殿方もいらしたとか」
嫌味を言うように王妃は言う。
―――――。
『仕事が抜けられ次第、この前の食堂屋にきてくれ。待ってるから。
今はゆっくり話してる状況じゃなさそうだしな』
そう言ってちらりと上のほう―――城の、王妃の寝室の方を見ると元赤毛は姿を消した。
何から何まで信用したわけじゃあ、ない。
けれども話だけは少なくとも聞く気になっていた。
「護衛中に男性と密会するような方にこれ以上城を守って頂きたくありませんの」
「わたしは密会などしていません」
その王妃の言葉に腹が立ったものの冷静に私は反論した。
「けれども、前おっしゃいましたよね?今度会ったら倒せる、と――。
それなのにこのありさま。
貴女の事は魔道士協会の方に報告させていただきました。話し合った結果―――、
護衛を解雇させていただきます」
「――――」
……怒りが出るよりも先に、私は昨日の出来事に納得した。
つまりは。
私に自分の抱えた暗殺者を向け騒ぎを起こして、それを理由に解雇するつもりだったのだ。
おそらくあの元赤毛の男がいなかったとしても何か理由をつけてこうするつもりだったのだろう。
――――王妃にとって、何かと目障りな――私を。
そして、昨日皇子からもらった紙に書かれていた言葉を思い出した。
――――『逃げて』と。
どう言う思いで――私にこの言葉を託したのかはわからないけれども。
もちろんこの本当にこの言葉の通り、解雇を言い渡されたので了解してじゃあこの街を出よう、と言う気にはなれない。
このままこの事件を放って置く気には関わった以上なれないし、このままでは、魔道士協会に伝えられたわたしの評判も落ちる。
けれどもこのままこの城で護衛をやっていても動きは制限されるし、無理やり居座る事は難しいだろう。
ならば。
「―――了解しました。荷物をまとめ次第城を出させていただきます」
その言葉に従う事にした。
荷物をまとめていると、皇子が顔を出した。
こんな所にきてしまっていては怒られるだろうに。
「皇子」
私なりにとまどいつつも微笑んで彼を見た。
碧の眼。
髪の色こそ違うものの―――あのひともこの眼で私を見ていてくれたのを想い出す。
けして戻ってこない、あの頃の記憶。
「…お世話に、なりました。ご無事で」
そう言って少しやはり哀しそうな彼の頭を軽くなでた。
――その言葉は事務的なものではなく皇子への本心からだった。
あの暗殺者が王妃のお抱えなのならまず安心だとは思うのだけれども。
貴方は赤に染まらないで。