Long Story(SFC)-長い話-
SAPPHIRE -5-
――――広がる、赤。
見つめる、碧。
震える私にその瞳は目をそらさずに言葉を紡いだ。
忘れられない。忘れる事はない。
―――――人を嫌いにならないで―――――
「おお、ミリーナくん、だったな」
王がにこやかに私を出迎えた。
執務室へと許可をもらい、訪れたのだった。
城に帰ってまずすべき事は、王に会う事だと思い。
『殺された子供達は―――公表はされていないものの全員コランディア王の落とし胤だ』
さっきの赤毛の男との会話。
信じるべきなのかまずそこから確かめる必要がある。
その時点で誤っているのならそれに越した事はない。
「少し、事件の事で気になることがありまして」
「ん?怪しげな者でも見かけたか?」
そう言って側近を部屋から立ち去らせる王。
彼らが扉を閉め、去るのを確認してから私は言葉を口にした。
「―――今まで殺された被害者の事を調べていたのですけれど」
ぴくり。
彼の表情がかすかに変わったのを私は気づいていた。
けれども気づかない振りをし、そのまま続ける。
「ほとんどが―――母子家庭の子供で。この国では―――母子家庭が多いんですか?」
無表情のまま言う私に苦笑し彼は私の傍に近づいた。
「―――ああ。わが国は女子供のみの家庭には生活に困らぬよう援助をしている。
傭兵などで遠くの町などに行き、そう言った立場になる家族もけして少なくないからな。
―――わが国のような小国を出て大きな所へ行く男は多い」
そう言うとわたしの肩に手をやった。
「母子家庭の子供が―――狙われていると?
それならうちの傭兵や―――息子が狙われるはずはないのでは」
―――端から見たら、私に言い寄っている図に見えるかもしれない。
けれど。肩に置いた手はかすかに震えていた。
王は――表情を変えない様にしているようにしか見えなかった。
その態度は―――
「……君は―――見たと言う暗殺者が来た時に倒してくれればそれでいいのだよ。
そう言ったことは気にする必要がない」
その態度は―――気づいている。
彼は。―――――自分の子供達が狙われていることに。
――もしあの話が本当なら、当然だろう。
ただ――気づいていたとして。
どの位置に王がいるのかは定かでない。
犯人をどう捕らえているのか―――王妃だと、思っているのか。
それとも自分の子供を狙う隣国などの命を受けた暗殺者の仕業だと思っているのか。
そう思いながら、先程の赤毛の男の話を、少しでも信じている自分に少し嫌気がさした。
けれどその気持ちは、封じ込める。
バンッ。
執務室の扉が勢い良く開き思わずそちらを振り向く。
―――モルダ王妃と、皇子だった。
皇子は微笑みながら私に近づこうとする。が、王妃がそれを手で制し、私に近づいた。
「何をしているんです?」
怒りを含んだ声。
私は何の感情も出さず答えた。
「王にお伺いしたい事がありまして」
「そ、そう言うお前は何故ここに・・・・・・?」
おどおどしながら訊ねる王に王妃は答えた。
「警備の女性が一人執務室で王と会話している、と聞きやってまいりましたの。
―――質問でしたら、警備長や大臣を通して伺ったらよろしいでしょう。
それとも、わが国が小国だからと言って甘く見てらっしゃるのかしら。
貴方も、気安くその様な者を通して、近づいて」
前半は私に、後半は王に向かって。
嫉妬。
激しい感情が伝わる。
彼女のその激しさは、どこから来るのだろうか。
――――自分には、表現できないもの。
「―――失礼致しました。軽率でした。
――――自分の配置に戻ります」
事を荒たてない様、素直に従う。
それはそれでやはり気に召さない様で王妃は顔をしかめたままだった。
一礼し、部屋を出ようと王妃と皇子の横を通りすぎようとすると。
きゅ。
「……?」
「皇子!」
皇子が私に近寄り、手を握ってきた。
王妃の非難の声も無視し、皇子は私の手を握りしめたまま見つめてきた。
いつもの碧色の目で。――けれども今日はどこか悲しみを帯びた目で。
私はとまどいつつ、彼の手をゆっくり離して、その場を去った。