Long Story(SFC)-長い話-
SAPPHIRE -4-
「まだ納得がいかない部分が一杯あるわ」
私は目の前の食事の事はすっかり忘れて彼に反論するように言った。
突然の内容に動揺しているのと、目の前にいるこの男を信用するわけに行かないのとが混ざっていた。
「そうだとしたら何故王妃は城の傭兵を―――警備員を殺したの」
殺された街の人達だけならそれで通じるだろう。
けれども城の外を守る傭兵が一人、殺されている。
傭兵は歳から見ても、王の子供では有り得ない。
なら、何故?
「目撃したんだろ。王妃が、暗殺者と接触するところでも。王妃の命令じゃない。暗殺者の独壇場の判断だ」
なんてことがない様に。
さらり、と目の前の男は言ってのけた。
「俺だって本来なら姿を見られた以上あの時アンタをどうにかするのが普通だ」
「………」
剣を握る手に力を入れた。
それに気づいたらしく、ぱたぱたと彼は手を振る。
「あ、いや。だから戦うつもりはねえし殺すつもりはないって。アンタは」
「―――何故」
「さあな。一目惚れ、ってやつかな。あんたの目に、惚れた」
思わず気が抜ける。
真面目な顔で軽い口調で言う姿はとてもプロとは思えない。
「……貴方、暗殺者に向いていないと言われない?」
私は呆れながら、言った。
「まぁ、なりたくてなったわけじゃないしな。成り行き、ってやつだ。
どうせ殺しの対象になるような奴にろくな事している奴はいないしな」
私の皮肉にも気にせず―――こともなげに彼は答える。
―――その言葉に一瞬怒りを覚えた。
が。
それを抑え、話を元に戻す。
無表情のまま―――問いただす。
「……貴方の依頼人は、誰」
「想像はつくだろ?事の犯人が王妃だと知っていて―――その上で王妃を恨んでいる人物だ」
確かに―――すぐに想像はつく。
殺された王の子供の母親。
中には貴族もいた。
おそらく―――あのあたりだろう。
「―――で、私に話して、それで貴方はどうするつもり。私にどうして欲しいの」
一番知りたいことを、私は訊いた。
最初に言った通り、勘違いしないように、王妃を殺すのを護衛をしながら黙って見逃せとでも言うのだろうか?
「―――何。簡単だ。
見逃せとは言わないが―――そんな王妃をこのまま生かしといていいと思うのか?
アンタとは戦いたくねえ。―――王妃の依頼から、この件から手を引く気はないか?
まだ何人か街に王の隠し子はいる。殺人をこれ以上増やさないためにもいいと思うんだが」
がたり。
私は席を立ち、座ったままの彼を一瞥した。
「断るわ。これで戦う気になったなら―――相手になるわ。今ここででも、今後、城でも」
「王妃を助けたい――から、か?依頼人である」
「――――私の依頼人は、王妃でもなんでもなく、国王の息子である皇子を心配する魔道士協会、よ。
私が断る理由は二つあるわ」
「二つ?」
「一つ目は―――貴方が王妃を殺したところで、この連続殺人が止まらないのを知っているから。
王の隠し子を殺せと王妃が命じているのなら―――その暗殺者を叩く必要がある。
プロなら王妃が暗殺された後でもその仕事を最後まで実行するだろうから。
そして―――それを貴方は知っていて暗殺を実行しようとしている。自分の依頼はあくまで王妃の殺害だから」
言われて図星だったらしく絶句した様に彼は黙っている。
「そして―――二つ目は、最初にも言った通り、よ。
私は、赤毛の男が好きじゃあないの」
尚戦う気配すら見せず黙っている彼に、そう冷たく言い、その場を後にした。
『どうせ殺しの対象になるような奴にろくな事している奴はいないしな』
……その言葉が耳に残った。
断る、大きな理由はこれだったのかもしれない。
ふと――――碧色の目が、コランディア皇子と同じ目の色のひとが―――想い出された。