Long Story(SFC)-長い話-
SAPPHIRE -3-
「戦いに来たわけじゃ―――ない?」
私は構えた剣をそのままに彼をにらみつけ、言った。
先日の夜とは違い、普通の傭兵スタイル。
年は私と同じ位か、少し上、だろう。
明るい―――赤毛。
目つきが若干悪いもののその顔は妙にノリの軽いナンパ男そのものだった。
普通に歩いていればだれも怪しみはしないだろう。
「ああ。あんたを見つけて。この前の事。勘違いしているようだったからそれを話しに来た。
今後も間違えられると困るしな。あんたは信用できそうな目をしてっから」
「嘘、ね」
周りの食堂の人が私達を見て怯える。
剣なんか出していれば当然だろう。
客は時間帯も手伝って既に誰もいない。
が、ここで戦うわけにはいかないけれど―――
「おいおい。もう少しこっちの言っている事を信じてくれてもいいだろ?」
相変わらず軽い調子で彼は言う。
「残念ながら私は、赤毛の人と暗殺者は好きじゃあないのよ」
「いや。暗殺者が好きなやつはあんましいねーと思うんだが。……じゃあこれでどうだ?」
そう言うなり。
ちゃりん。
彼は私の剣をうけとめていた自分の剣を下に落とした。
「!?」
「調べてもらってもいい。今日は武器は他に全く持っていない。
言っただろ?あんたみたいな美人さんと戦いたくねえ、って」
屈託ない笑みを彼は浮かべた。
「勘違い――と言っていたけれどどう言う、意味なの」
料理が運ばれてきたものの手をつけずに訊いた。
彼は料理を運んだ店員に軽いものを頼んで向かいの席に座る。店員は奥に篭り傍には誰もいない。
―――彼を信じたわけではない。
いつでも対応できるように剣はそのまま用意している。
そんな私に苦笑しながら彼は口を開いた。小声で。
「そのまんまさ。俺が頼まれた対象は皇子じゃない。
皇子の母親―――コランディア王妃だ」
「―――」
予想外の発言に驚いたものの顔には出さず彼を見据えた。
「―――何故」
そう言いながら理由を想像しつつ訊く。
この小さな国を仕切っているのがほぼ王ではなくあの妃だと言う事を知っていればすぐに想像は出来る。
おそらく隣国の王家やら領主やらの依頼なのだろう。
そう考えたものの彼の口から出るのは意外な答えだった。
「この国で起きている―――連続殺人を指揮している黒幕を叩くためだ」
「―――!?」
思わず、息を呑む。
「さすがに、驚いたようだな」
それがおかしいのか笑う。そして更に声をひそめて言う。
「黒幕は、モルダ=ティス=コランディア王妃なんだよ。
殺された子供達は―――公表はされていないものの全員コランディア王の落とし胤だ」
――――先ほど訊きこみをして気づいた殺された人達の共通点が頭に浮かぶ。
全員、親は片方しか―――母親しかいなかった、と言う事を。
王の年齢、性格、殺された子供の年齢、を考えても納得はいく。
が。
「嘘、ね」
さらり、と。
また私は言った。冷静を取り戻し。
「どうして――――そう思う?」
「何故その王の子供全員を殺す理由があるの。妃の嫉妬―――そうとでも言うの」
有り得なくはない。あの妃なら。
けれども―――それだけでは説明がつかない。
「王位継承を確実にあの皇子にさせる為―――だったら?」
「………!」
「街中では揺れていたらしい。『知能は高いものの言葉の話せない皇子が王になっていいのか』、と。
それに加えてコランディア王は高齢だ。最近は弱ってきている。
そんな中もし皇子以外の王の子供が―――名乗り出てきたら?」
―――息子は、わたしが護ります―――
あの強い口調が耳にこびりついていた。
あれが自分の息子の王位を守る、と言う意味なら?
確かに納得は出来る。
「……納得してくれたか?」
満足げに赤毛の男はいい、香茶をすすった。