Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -2-



――――碧色の目の人は、今はあまり好きではない。

―――――大切だった人を想い出すから。

―――それ以上に、赤毛の人は好きでない―――。

大切なものを奪ったものが赤毛だったから――――。

 



「ミリーナさん……ですわね」

王と王妃が話がある、と言う事で私は指定された部屋に行った。

そこにいた一人は―――護衛1日目に見た。コランディア王、リーガル=ベゼア=コランディア。

6歳の皇子の父親とは思えない程の歳を召している。長身であまり王らしくない雰囲気を持つ。

そして隣にいるのは――初めて見た。護衛1日目には具合が悪いと顔を出さなかった王妃だ。

王とは違い母親としては歳相応、と言ったところか。王よりもどことなく鋭い印象を持つ。



私に最初に語りかけてきたのは王妃の方だった。

「初めまして、私は妃のモルダと申します。先日は息子を護ってくれたそうで……」

そう言う王妃の顔は、しかし喜んではいなかった。事務的な、口調。

「仕事ですから」

私も事務的に言葉を返す。

すると気に食わなかったのだろうか、王妃の顔が少しこわばった。

「……暗殺者、の仕業だそうですわね?その姿を見たと」

「ええ。魔法が使えるようでした。剣もかなりできるかと思います。

しかし人が駆けつけてきたなり逃げ出しました」

「傍に息子がいなければ、倒せましたか?」

私はしばし黙って考え、答えた。

「…倒せるかと、思います」



「でしたら、外の護衛の指揮の方に回ってくださいませんか」

そう言う王妃に私は眉をひそめた。

――――何故。

その疑念を晴らそうと、黙っていた王がおそるおそる話し始める。

「皇子は君を気に入っている様だが……皇子のところまでそのような輩が入ってこられる状況、と言うのはやはり問題だからな。

君が倒せるだけの技を持っているのなら、外に現れた時点で倒してもらった方が皇子にも害がない可能性が高い、と妻は考えて、な。」

「王の立てた配置とは違い外の護衛に力を注ぎたいのです。皇子の傍には、母親である私がつきます。

皇子は知ってらっしゃるかとは思いますが口がきけません。けれども立派にわが王国を背負って立つ唯一の子なのです。

息子は、わたしが護ります」

強い口調でそう言う王妃に私は納得した。



本来言いたいのは後半の方なのだろう。

可愛い一人息子を状況がどうであれ他の女性が護っている状況が気に食わないのだ。

王が説明した部分は建前なのだろう。

けれども、それは一理あった。

皇子の部屋につく前に発見できればそれに越した事はない。

それに―――あの皇子が嬉しそうに私を見つめ続けるのを私はどこかで避けたかった。

子供が嫌いなわけではない。ただあの碧色の目が―――。

「わかりました」

私は了解し、その部屋を後にした。

 



昼間はさすがに王家を襲うような大それた真似はない。

外の配置と、護衛仲間に顔を合わせてから私は外出許可をもらい、城下町で訊きこみを始めた。

逃げる暗殺者と、そして先ほどの王と王妃にひっかかるものを感じ、何か手がかりはないかと思った。

訊いていて、この国では王よりも王妃が国を指揮している、ということがわかった。

王ははっきり言ってみかけだけらしい。

そして今までの殺人事件の被害者に、共通点があることもわかった。

その共通点に、当てはまらないのは、皇子と、最後に殺された城内の傭兵だけであることも。



 

「ランチセットを」

町で訊きこみを終え、魔道士協会に状況を報告し、帰る前に遅い昼食を食堂でとり、待っている間に考える。

―――何故皇子が狙われるのか?

それとも本来の目的が皇子で、他は目くらましなのか?

そもそも皇子以外の殺された被害者達の時は目撃者はいなかったのだ。

時期状況から、同一犯と考えたが―――本当にそうなのか?

別と考えればつじつまが合う部分もある。

しかしそれなら―――世間で起きている殺人の方はどうなる?



「ここ、空いているか?」

ふと、そんな私に声をかけてくる人がいた。

―――赤毛の、男。

いつものよくある、声をかけてくる軽薄な男達の一人だ。

「―――席なら他にもいくつも空いているわ」

そう答えてあしらいながら何かひっかかるものを感じた。

既視感?

「あんたの傍の席は、ここしか空いてないんでな」



私はほぼ反射的に剣をさやから抜き構えた。

するとその男はそれをいつのまにか取り出した剣で受け止める。

どこで聞いた声なのか、口調なのか思い出したのだ。

 



「ほ。勘がよろしいことで。でも安心しろ。あんたと戦いに来たわけじゃないんだ」

「……」

そう先日の暗殺者は――――夜とは全く違う雰囲気で私にそう言った。