Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -1-



―――――――人を嫌いにならないで――――――――

その言葉の意味を理解できるようになったのはいつのことだったのだろうか―――――






 



「警護の―――者か」

深夜の城の一室の窓から、黒い影が現れた。

私の傍では皇子がその影に気づくこともなくすやすやと眠っていた―――。





 

沿岸諸国の小さな国、コランディア王国。

そこにある魔道士協会にたまたま旅の途中、立ち寄った。

その街では物騒なことに若者達が何人もが殺される、謎の殺人事件が勃発していた。

下は1歳から、上は25。

その殺され方は残酷なもので、かなり腕のある人間が犯人だろうと推測できた。

魔道士協会では力のある魔道士を集め、警備を強化することとなった。

特に国王の息子に対する警備を。

まだ六歳の皇子はまさに狙われる年齢であると。

更に城内の警備員が一人、その被害に遭っていたのだ。

これで皇子が狙われないなどとは誰も思わない。



そのことを聞かされ、警備に加わってもらえないかと評議長に言われ、私はそれを引き受けた。

事件そのものが放って置けないと言うこともあるにせよ、他に何か――勘と言うべきなのか、どう表現して良いのかわからないけれども―――。

見過ごしてはいけない気がした。私にとって。

 

 

 

皇子は思ったよりも私になついてくれ、こうして寝室の警備をしていたのだけれど――――。

2日目の夜。

その黒い影は気配すら消して部屋に訪れた。

 



「明り!」

皇子を抱え、天井に光を生んだ。

外の警備のものがこの明りでかけつけてくるようにという意味と相手の実像を現すため。

黒い影は明りで照らされても尚黒く、完全な暗殺者スタイルだった。

顔を布で隠している。

「……女、か……」

声からするとまだ若い。20歳前後だろうか。

「下手なことはしない方が身の為よ」

私が言うと状況を判断したのかまだ寝ぼけ眼の皇子が私にしがみつく。

恐怖の声はない。―――――出せないのだ。生まれつき声が。

私は剣を構えた。

「そこにいるのは皇子だよな?残念ながら、俺の目的は別に皇子を殺すことじゃあないんだがな―――」

苦笑して、男は言った。少し困った様に。

そしてとても殺人者とは言えないような台詞を吐く。



「人違いってことで手荒な真似はやめねーか?あんたみたいな美人さんと戦いたくねえ」

「―――そんな言い訳が通じると思っているの?」

そう言った後私は呪文を唱え始めた。仕方ないと言うように向こうも呪文を唱え、剣を抜く。

その時。

「皇子!無事ですか!?」

傭兵が扉を開けかけつける。

刹那。



どしゅ!

私が生んだ氷結弾が、暗殺者が対抗して生んだ火炎球がぶつかり合い、相互干渉を起こし消滅した!

私にとって初めての経験だったので一瞬戸惑う。

「!?」

その私の動揺を利用し、向こうは私を倒す―――かと思いきや。

逆に私から―――そしてその部屋から、現れた時同様窓を使い―――去った。



―――――――。



「逃げたぞ!追え!」

「皇子は無事か!?」

「―――…無事、よ。怪我もなにもないわ」

私は剣を収め、騒ぎ立てる傭兵たちに静かに言った。

 



あっさり退いた。

言葉通りに。―――――一体……?

ぎゅっ、と強く皇子が私にしがみついているのに気がつき、私は彼をなだめた。

碧色の目が―――私を嬉しそうに、見つめた。