Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -22-



「…我々夫婦はなかなか子供に恵まれなくてな。

結婚して何年も経っても授からなかった」



王は疲れたように、そう私達に語った。

とりあえず私とルークは黙って聞く。



「城のものから、『このままでは国の世継ぎがいなくなり、存続の危機だ』と言われたのと、自分の子供が見てみたいのとが重なって……

私は後継ぎをどんな形でも残そうと必死になった」

「……それで国のあちこちの女に手を出した、って訳か。それにしては手ぇ出しまくったな」

呆れた様に、蔑むように言うルークにわたしは無言の圧力をかけた。



別にその王の行為を肯定する気はない。けれど一国の王ともなるとそれは切実な問題だったのだろう。

簡単に理解できる心情ではないし、それを単純に蔑むのはあまり好きではない。



しかし王は素直にそのルークの言葉を受け取った。

「…確かに、私がだらしなかったのも事実だ。一人生まれればそれで充分なのにそれが自分の子だと思うと可愛くて何人も欲しくなり何度もそれを繰り返した。

子供を産んでも良い、と言う街の女性を選んでは。

……そんな中しばらくして妻がやっとの事で身篭った。皇子を産んだ。

しかし喜んだのもつかの間で―――知っての通り、皇子は口をきく事が出来なかった」

苦い表情で言う。

「私にとっては可愛い息子には違いない。他の子供達同様―――いや、他の子供以上に皇子を愛した。

何とは言っても長年望んだ、表で堂々と言える妻との子供だ。

けれどその事実はどこかで私にも、妻の心にも、影を落としていた。結果私は皇子が生まれる前と同じように――子供を求め、

そして妻は―――皇子に、王位を継がせるのを必要以上にやっきになった。

私が他で子供を作っている事は知られていないはずだったが―――おそらく気づいていたのであろう。

影は闇となり、どんどん広がって行った。私達の間に会話などは皇子を通してしかなくなってしまった」



どんどん赤は広がって行った―――。



「最近になり子供の一人が殺され、そして次々に外での子供が狙われていった時は、最初は、事情を知ったわが国の侵略を狙う他国の者の仕業だと思った。

しかし―――」

顔を手で覆う。

「ある日私は気がついた―――妻の目に宿るものに―――狂気の色に。

疑いたくはなかったが―――妻がこっそり抜け出して私の子供を殺しにいっているのではないか――――

そんな想像が頭をよぎった――――」

「……それもあり、城での傭兵などの数を、増やす事にした。皇子が心配だと言う理由をつけて―――」

わたしがつぶやくとああ、と王はうなづいた。



やはり―――王は気づいていたのだ。

一連の事件に関わるものが王妃だと。

ただ暗殺者を雇って殺させている、と言う考えまでには及ばなかった。

だから王妃自身がこっそり抜け出す、と言う真似が出来ない状況にすれば事は済むと思った。

城での人を増やす事にして。



「しかし傭兵の一人は殺され、しかも今度は皇子まで狙われ……

やはり他国の者の仕業なのかとわけがわからなくなった所に今回の事だ―――」

うなだれて言う王に、身につまされた表情をルークがする。

そのうちの1つは自分が起こした事だからだろう。



「先ほど――王妃に、治療し、落ちつかせてからゆっくりと話を聞いた。

今までの事件は自分がやったと、やらせたと――――銀髪の女が自分から何もかも奪おうとしたから、と―――」

「…銀髪の女?」

王の言葉に私より先にルークが反応し、眉をしかめた。

「外での子供の母親の―――一人、ですか」

私が訊ねると、王はゆっくりと首を振る。

「いや―――彼女達の中に銀髪はいなかった。知りあいにもいないのだよ、そんな者は。

もしかしたら、君が私の――新しい相手、だと思いこんだのかもしれないとも思った」

「―――――」



前に王といたときに、それを見つかった時に王妃が出した怒りの雰囲気。

確かに私に向けて、王妃は異常なまでに激しい感情をつきつけてきた。

けれど―――

 



『どこまでわたしを馬鹿にすれば気が済むのっ……欲しいのは王の寵愛!?

それとも自分の子供への王位継承権!?』

『魔法で脅されても城も息子もあの人も…!!みんな私のもの。

貴女が何度甦っても……!!また殺せば済む事よっ……』



 

あの二つの言葉は、私自身には結びつきにくい。

 



「それはないだろ。もしその銀髪の女がミリーナなら、ミリーナが城に現れる前に子供達は殺されたりしてねえ」

ルークが至極正論を述べる。



そう―――確かにそうだ。

私が原因だとしたら、外の子供達が殺されるのは私が城に仕えた後になる。

私は城に来るまで王妃にも王にも会った事がなかったし、この街にも来たことがなかった。

おそらく同じ銀髪で、けして王妃と友好になれるような性格ではなかった私はその『銀髪の女』とだぶらせられたのだろう。

王妃の、中で。私が最初ルークの赤毛にクロムを連想させた様に―――。



 

「ああ。…だから話が聞きたかったのだ。

以前に妻に会った事はないか、心当たりはないか」

「――――残念ながら―――」

私が今度はゆっくりと首を横に振った。

「……そうか」

「皇子に―――会えます、か」

王に訊ねる。



王妃には訊きたい事がいくつかある。

あの二つの言葉の意味。

銀髪の女の事。―――クルンツの事。



けれどもあれだけ心が病んでいる状態でそれを訊くのは無理だろう。私を見たらまた、錯乱をするかもしれない。

それは彼女自身によくないし、まず会わせてもらえないと思った。



だけどそれとは別に皇子に会いたかった。

言いたい言葉があった。

皇子との対面も難しいとは思うけれど。



 

王は思ったよりもあっさりと―――うなづいた。