Long Story(SFC)-長い話-
SAPPHIRE -16-
協会の中では人があちこちに転がっていた。
いかにも見習いの、と言った子達も何人かいるもののほとんどが協会にいつもいる要職についた人達だ。
苦悶の表情のままこときれている。それが一人や二人ではないのだ。
「―――!」
こみ上げる吐き気を抑えながら私は近くに転がるものを近くで見て唖然とした。
――――外傷が――なかった。
思ったより冷静で、ひどく吐き気を催さないのは血臭がしないかもしれない。血を流してはいない。
「どうなってるんだ!?」
私同様かけつけてきた魔道士仲間が驚愕の声で言う。
私は黙って首を横に振り奥の方も見に行く。
やはり倒れている人、人、人。
…協会にいた魔道士全員死亡、と言うのは残念ながらありえなくはない。
協会にいる魔道士が全員攻撃呪文を使えたか、と言うとそうではなくてむしろ逆。
理論を勉強するもの、研究するものがやはり多く、元々ここは平和な田舎町で率先して攻撃魔法を覚えようとするものは少ない。
そう言った意味では私は他とは違っていたのだけれど。
それはさておいて。
全員見た限り―――死因がわからない。
やはり誰一人外傷がない。
あえて言うのなら心臓麻痺を集団で起こしたような感じだ。もちろんそんなわけはないのだけれど。
伝染病?いやまさか。じゃあ誰かの起こした呪い?
頭の中で考えがぐるぐる回る。
そんな中誰かが言った言葉で私ははっとなった。
「誰もここの要職者は生き残ってないのかよ!?」
―――ルベウス……!!
次の瞬間私は協会を出て彼の家へと走り出していた。
嫌な、予感。
彼は正確には要職者ではない。けれども――――
ただ。ただ無事を祈って。私は家に到着した。
正確には研究室。彼の家は、店・家と並び、その家の横に目立たない様に、くっついて外に出入り口が有る。
ルベウスなら家の中にいる可能性より研究室にいる可能性の方が高いだろう。店は2・3日前に閉めている。
冷たい階段を急ぎ早で降りる。
中の明りが見えた。
「ルベウス!」
私はそう言うなり口元を手で抑えた。
目の前に広がるもの。
そして。
空間に広がる血臭に。
「……っ」
言葉にならなかった。
目の前の光景が信じられなかった。
広がる、赤。
その赤の中心に横たわるもの。
足が、震える。
うまく、歩けない。
何?
これは何?
「ル、ベ」
なんとか紡いだ言葉はそんな声にしかならなかった。
けれどもその声に。
「…う…」
彼が反応した。
生きてる。
まだ生きてる!
「ルベウス!」
少し我に返り私はルベウスに駆け寄った。
「……ミリ…ナ…?」
やはり相当ひどい傷。早く手当てしないと―――
「今すぐ治療呪文が使えるものを呼びます。じっとしていて」
こんな時に「治癒」しか使えない自分が悔しかった。
入り口に戻ろうとすると彼が一生懸命わたしに手を伸ばした。
「動かないで」
「…ミリーナ……」
それでも何か言いたそうな表情で彼は一生懸命動こうとする。
私はそれを聞こうと急ぎながらも顔を彼の傍に近づけた。
この状況に震えているのが自分でわかっていた。
彼は犯人の事でも言いたいのだろうかと思った。
けれども。彼が私の目を碧の目でまっすぐに見て言う言葉は違っていた。
「人を…嫌いに…ならないで」
――――え?
「何を言うの、今」
戸惑いながらも、咎めるように私は言った。
すると彼は苦笑して。ふっと力が抜けた様に伸ばしていた手を赤い海に溺れさせて目を閉じた。
「……ルベウス?」
「ミリーナ…!?」
回らない頭で私は地下から出てルベウスの家に行った。
ギウスが驚いたのは。
ルベウスに触った事でついた大量の血だったのか。
それとも。
私は倒れこむ様に力が抜けながらもその場でルベウスの事をギウスに伝えた。
ギウスは、嘘だとその言葉を繰り返し、私同様震えて、私を残して地下に降りて行った。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
その言葉で嘘になってくれるのならどれだけ呟くだろうか。
ギウスが戻ってきた。
「なんで…兄ちゃんが……!?全く気づかなかった。今日は家におれずっといたのに……!」
悔しそうに言うギウス。
ギウスが気づいたところで、彼も同様殺されていた可能性が高いだろう。
………………………!!!
―――そのギウスの言葉にある事に気づいた。
ルベウスをこの状況で殺せる人物が―――いる。それも一人だけ。
そして魔道士協会で転がっていた死体に彼はいなかった。
「ミリーナ!?」
ギウスの声を無視して私は立ちあがり、外へと走り出した。