Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -15-



『幻術だけでは殺せず、剣などを珍しく用いた相手だったからな。よく覚えている』

クルンツが言った言葉。

幻術だけでは殺せなかった。それは幻術が効かなかったと言う事に他ならないと思う。

ルベウスには効かなかった。

――――何故?

 

 

 

「ルーク」

夜。

宿に戻ってわたしの怪我も落ちつき一息ついた頃私は隣の彼の部屋の戸を叩いた。

その――気になる事について言っておきたかったのだ。

おそらく―――それこそが。クルンツを倒す鍵になる。

それが何か明確なものはわからないにしろ―――。



が。

彼の部屋からは返事がなかった。

「―――?」

部屋の鍵はかかっていないようでひねると開いた。

ゆっくりと開けるとそこは闇。

誰もいなかった。



―――出かけた?



ルークの事はほとんど何も知らない。

例えばの話ここが元々彼の郷里ならば家に帰ったとかそう言った事はありうるかもしれない。

けれどもそれなら私に何も言わずに出かけるだろうか。

可能性としたら―――私に言えない所に行ったと言う事になる。

後は―――。



「……まさか」

一つの可能性にたどりつく。

私はすぐさま宿を出て走り出した。

―――コランディア城へ。



 

『――――ちくしょう……!』



 

先ほどの悔しそうなルークの顔を思い出したのだ。

それに彼は元々は王妃を殺そうとしていた。

私の敵討ちにしろ元々の業務にしろ―――どちらにしろ彼が城に行き王妃を殺しに行った可能性は高い。

クルンツの居場所がすぐにわからない以上。

……今のところ王妃がクルンツと繋がっているという決定的な証拠はなく、状況証拠のみ。クルンツも依頼人の名前は語らなかった。

それで王族に向かって行くのは無謀だと思っていたのと、あくまでクルンツを先に倒したかったからわたしは王妃に向かう事を避けてきたのだけれども。

もちろん私はもし向かっていったとしても王妃暗殺を考えてはいなかったけれども。

ルークにとっては違うのだろう。



――できれば。もしルークが城に行ったのなら。

後者ではないと、暗殺者として行ったのではないと―――どこかで願っている自分がいて驚いた。

何だかんだ言っても信用したかったのだろうか――私は。

私の為に暗殺者を辞めたと言う彼を。



 

 

走りながら―――

ふと、私は思い出した。

そう言えば。

あの時の私も。

何の証拠もなかったけれど。

向かって行った事を。

クルンツを雇った相手を―――

 



 

 

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「協会はルベウスを評議長に任命したらしいよ」

「ルベウスはそれを断ったらしいよ」



そんな噂が同時に町に流れたのは、ルベウスが私に、もし評議長に任命されたら断るつもりだと言った半月後だった。

町の人間がざわめく中、やっぱりと思ったのは私だけだっただろう。

ルベウスの言う通り、なんで断ったんだと彼の本来の仕事を無視して批判する声も少し聞こえてきた。

 



『そうしたら町を出て―――他の町で一からやり直そうと思う。』

『ミリーナも―――一緒に来るかい?』



あのルベウスの言葉が。

それによって本気だったのだ、とわかり安心している自分がいた。

すぐにルベウスに会いに行くと少し照れた様に彼は言った。



「……本当に、なっちゃったね。3日くらいで荷物をまとめて―――遅くても5日後位には町を出ようと思うんだけど。

ミリーナも―――僕達と一緒に、来る?」

確認をこめてもう一度訊くルベウス。

私はゆっくりと、自分なりに感情表現に不器用ながらも――うなづいた。

ルベウスもギウスも喜んでくれた。

とてもその空間は居心地が良くて。

 

 

 



そしてお互い荷物をまとめ始め、支度がほぼできた3日目の事だった。

紅は。

突然に攻めて来た――――。

 

 



 

「魔道士協会の評議員達がみんな殺されている……!!」



そう顔の見た事のある協会出入りの魔道士仲間が家に駆け込んで来た。

私に、と言うよりたまたま知っている魔道士にとりあえず伝えようと言った感じらしかった。その証拠に私に伝えたなりまた他に走り出していた。

いきなりの事に状況が理解できない私。



―――殺されている?



理解するためにも――私は魔道士協会へとすぐさま行った。

そこで見た光景は――――――――想像を絶するものだった。