Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -14-



「氷の矢!」

先に術を放ったのはルークだった。

どうやら簡単な術は少なくとも使える様だ。前の火炎球といい。

クルンツはあっさりとそれをよける。そしてそのまま私の方に駆け出した。

接近戦にするつもりか。



しかし私が対処する前にルークが私達の間に入りクルンツに向かって剣をふりかざす。

クルンツは隠し持っていたのかそれとも幻術なのか、ショートソードを抜いて受け止めた。

金属音が響いたのち、間合いをお互い取るように離れた。私はそれを見計らって術を放つ。

「烈閃槍!」

予測済みだったようでやはりそれをあっさりとかわした。



「ふん……」

クルンツは不敵な笑みを浮かべて小ナイフを手に何本も持った。やはり幻術なのか。

それをルークに向かって投げつけた。



「てめえのやり方はわかってるんだよっ!」

そう言ってルークはほとんどよけずナイフの何本かを自分の剣ではじく。

一本か二本足にあたった様にも見えたが―――彼の足からは血は流れ出なかった。



「…何…!?」

驚きの声をあげるクルンツ。



―――いかに幻術だからとは言え、絶対の自信と信念―――強い精神力がなければそれは破る事は出来ない。

幻術だと知っていてもくるものはリアルだし、あたれば痛い筈だ。

けれど。ルークはその幻術を破った。全く痛がっている様子はない。



真似できるならばできるに越した事はないけれども私にはとても無理だと思った。

何よりもし。万が一。

幻術の中に―――本物を混ぜていたら?

今はたまたまあたったものは確かに幻術だったけれども――――



「…馬鹿な、ルベウスとかという魔道士ですらそんな真似は―――」

思わず、と言った様に呟くクルンツ。



――――その言葉に。

私は無意識に言葉を口にしていた。呟く様に。



「――――ルベウス―――ルベウス=クラッシェッド?」



その言葉は風に乗ってルークにも聞こえたらしい。

「ミリーナ?」

少し戸惑った様に彼は私を見た。

一方のクルンツも、面白そうに私を見る。



「ほう。あいつの知り合いか。私が唯一てこずった相手だ」

そう言って彼は隙を狙う様に、先ほどと同様、数本のナイフを私に投げた。

私はとっさによける。が一本だけ腕をかすめた。

血が滲み出す。どうやら今のは本物だったらしい。やはり幻術と本物を混ぜた使い方をしている。

私はすぐにやられた腕を抑えた。



「ミリーナ!」

ルークが叫ぶ。



「幻術だけでは殺せず、剣などを珍しく用いた相手だったからな。よく覚えている」

楽しそうに彼は言っているように見えた。



…………!

 



「てめぇ…!」

ルークが怒り斬りにかかった。が、クルンツはそれを相手し様とはせず後ろに下がる。



「なんだ今の騒ぎは!?」

そう言って複数の傭兵達が姿を現したからだ。

おそらく本物の町の警備隊だろう。彼からすれば倒せない相手ではないだろうけれども騒ぎになるのはやっかいなことになる。



「ふん。決着は次回だ。次回こそ邪魔のないところで殺してやるよ。もはや子供はどうでもいい」

ルークに、というより私に向かって―――彼は言った。素早く去る。

「待て!」

警備隊はことに気づいたらしくその去るクルンツの後を追って駆け出した。おそらく彼らには追いつくことはできないだろう。

ルークはすぐさま私の方に駆け寄った。



「大丈夫か!?」

「……治療の呪文をかければすぐに治る程度よ。今かけているから大丈夫」

少し痛かったものの自らにかけだいぶ楽になってきた。傷もすぐにふさがる。



「――――ちくしょう……!」

彼は本気で怒っていた。少し私はその事に驚く。



「……とりあえず、宿に戻りましょう。彼自身が言うようにここの子供はおそらくもう狙われないわ」

私はルークをなだめる様に――そう言った。

 



――――気になる言葉を言っていた。

その事に関して考えたい事もある。



「……ああ……」

悔しそうにルークがうなづいた。