Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -13-



「評議長が、亡くなられた」

 

 

 

魔道士協会に行った私はあわただしくしている協会のひとからそう聞いて、驚いた。

寒い冬のある日の事だった。

多少年老いてはいたもののそんな体を心配するほど弱っているとも聞いた事がなかったのに。

 

「心臓発作らしい。外傷はない」

そう、忙しい中無理やり聞き出したせいか協会のひとはつっけんどんに答えた。

私はその足でルベウスの家に行った。

 

「ルベウス」

彼もさすがに宝石の仕事や研究をしている余裕はなかったらしい。ギウスと一緒に広間で待機していた。

「聞いたのか?評議長の事」

こくり、とうなづく。

「突然の事だからな。葬儀の事とか、今後の協会の運営とか…僕も色々手伝う事になりそうだよ」

「次の評議長は誰になるんだろうな?」

ギウスが興味津々でそう言い、困った顔をするルベウス。

「…たぶん、評議長の秘書とか重要な要職についたものの中から選ばれるか、もしくはそう言った方々の推薦で誰かになるか…。

どっちにしても僕達が考える事じゃあないよ、ギウス」

―――――?

そう言うルベウスにどこか戸惑っている雰囲気を私は感じた。

 

 

 

―――その戸惑いの理由がわかるのは、評議長の葬儀も終わりばたばたしていたのが少し収まりかけた数日後だった。

 

 

 

「亡くなった評議長は遺言で、ルベウスさんを次期評議長にしたいと言ってたらしいんだよ。協会もその方向だとか」

 

近所のおばさんがそう噂していたのが私の耳に入ってきた。

耳を疑い私はすぐさまルベウスのところに行く。

研究室で、悩んでいる様子の彼がいた。

 

「……噂を、聞いたわ」

そう言うと彼は苦笑した。

「そうか。ミリーナの耳にも入ったか」

「……本当、なの」

「生前そう言う話があった、ってことは本当だよ」

そう言う彼は少し辛そうで。

「妙に僕は評議長に気に入られてたしね。……冗談だ、と思ってたし今もそう思っている。

確かに僕は協会の魔道士でもあるけれども、それよりも前に魔法の護符職人だからね」

「でも――――もし、評議長になれ、と協会から言われたら……?」

 

有り得なくはない。

この町は協会があるのも不思議なくらい小さくて、当然協会そのものも他の町に比べたらとても小規模でローカル。

通常の協会ならいるはずの副評議長と言った肩書きのひともいない。評議長以外はみんなある意味同等なのだ。協会の運営において重要な要職についているついていない関係なく。魔道のレベルが重要となる。

彼はこの町で評判を悪く言われた事もなく人当たりもいい。

そして私みたいに攻撃魔法中心で覚えている魔道士からしたら地味かもしれないけれども彼の魔術はこの町では最高レベルだ。

他の町からの評判だっていい。

協会を束ねる人間としては最適に思える。

けれど。

 

「その時は―――断って、この町を出ようと、思ってる」

言いながら決意したように。

彼はまっすぐに私を見た。

 

「僕はやっぱり―――協会より、自分のしたい仕事を優先したいからね。

ただ断るだけは簡単だと思う。けれども協会側としては印象が悪いだろうね。

僕は協会から追い出されるだろうし、ここで研究を続けていくのは無理だと思う。職人としてはやっていけるかもしれないけど。

けれども元々考えてなかったわけじゃないんだ。この町を出るのを。代々続いた職人だと父さんの息子だから、って風に僕をちゃんとした職人には見てくれない人もいるし。

見てくれないから評議長とかも講師だの色々させたんだろうし。

だから、そうしたら町を出て―――他の町で一からやり直そうと思う。職人の仕事はどこにいてもできる自信が有る。

ギウスを連れて、その時はいいきっかけとして町を出る」

「――――」

私は?と訊こうと思った。けれども言えなくて。

黙っているとルベウスは微笑んで言った。

「ミリーナも―――一緒に来るかい?」

「…え」

「来い、とは強制的には言えない。けれどももしこの町を出るなら――心配なのはあとはミリーナだけだから。

まあ、まだ僕にそんな話が本当にくるかどうか怪しいけれどもね。前一緒に旅できたら、と言っただろう?

もし、町を出る事になったら――――」

 

その言葉が。

どれだけ嬉しかったんだろうか。

どれだけ嬉しかった事を彼は気づいてくれたんだろうか。

私には表現できなかったし、わからなかった。

「もし、そうなったら、ね。……決まってもないものにうなづけないわ」

そう言うと、そうだね、と彼は笑った。

 

 

 

 

―――それまで私の目の前の世界は碧のままで。

赤が入る余地なんてない様に―――思えた。

すぐ傍に紅はその時はもう迫っていたのに。

 

 

人はとても弱くて。