Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -12-



―――あの後何事もなかったのなら。

今私は彼と一緒に居られたのだろうか?

それともやはり一人で―――旅をしているのだろうか―――?

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、ね」

時間を見計らい私とルークの二人は夜宿を出て、とある家へと向かい。家の周りにはりついた。



―――ルークからの話を聞いた後、冷静さを保つよう自分に言い聞かせ―――何事も無かったように今後の作戦を立てることにした。

そして結論として。

やはり王の子供の生き残りが狙われるのを防ぎ、そこで現れたクルンツを叩く―――ということとなった。

城には近づきにくいしそう何度も何度も発見されるような間抜けな王妃との繋ぎはしないだろうということと、城にはもう狙うべきものは居ないと言う判断の元だった。

ルークは『王の子供が他にもいる』ということに関して人数は調査済みだったもののそれが誰だかまでは、自分の最初の依頼からは必要無いと思い調べなかったようなのだけれども、

夕方にした簡単な訊きこみによっておそらく王の子供だろう、と思われる子供はすぐにわかった。

張り込むにあたって家の人に許可をもらったのだけれども、そんな秘密機構を知っている事を言えば警戒される恐れがあったので、家の人には「連続殺人の犯人がここの近くを潜伏中のようだ」と話した。

魔道士協会から雇われている市街警護のもの、と嘘をつき。

 

「なあ……やっぱり王妃から叩いた方がいいんじゃねえか?

場合によっては依頼人がどうにかなった場合依頼破棄するやつもいるし」

「依頼人がどうにかならなくても破棄したやつもいるわね。それともやっぱり依頼を遂行させる気かしら」

そう冷たく言うと痛い所をつかれたというような顔をする彼。

私は言葉を続ける。

「それに……さっき二つ返事で了解したのは、誰」

「いやー…確かにそうなんだけども、よ…なるたけクルンツに関わらせたくないって言うか…。

あいつのウデそのものは対した事ないけど武器が武器だろ?倒すのにかなり苦戦するし。

愛する女をできるだけ危険から遠ざけたいのは当然の事だろ?」

「私は望んでないわ」

「しくしくしく……」

きっぱり言うと静かに涙するルーク。

 

クルンツに関わらない――――それは――無理な相談。

もし王妃を叩き上げたとして、彼がそれで依頼放棄したとしても私はクルンツを追う。

 

 

 

 

『…ああそうさ、暗殺者のクルンツって奴に頼んで殺してやったんだ!』

 

 

 

 

 

 

甦る―――想い。

 

「ミリーナ」

ルークの呼びかけに我に返る。

「―――何ですか」

冷静な声にきちんと聞こえるだろうか。

しかしそんなことを気にする必要はないように声をかけた彼の顔が先程の軽率な雰囲気ではなく引き締まった。

「――――風が、止まった」

 

――――彼の言う通り。

唐突に風の音は止まった。

―――昨日と同じ。



ひゅんっ!



来た!



私とルークは迫り来る何かをよけ、その来た方向を見た。――――近所の家の、屋根の上。

黒い――――影。



「――――また――――おまえか」

ルークの方を見て言う。

抑揚のない、声。

間違いなく昨日と同じ人物。

ルークの言う事が本当ならば―――『幻覚殺しのクルンツ』。



黒い影から見える目は次に私の方を向いた。

「――ほう。目的者が来たか。好都合だ」

「………」



まだ―――私を狙っている、と言うのか。

と言うことは王妃はけして、城の護衛をやめさせるだけに私を狙ったわけではない事になる。

けれども私にとってそれは―――好都合だ。



「2対1はきついんじゃねえか?『幻覚殺しのクルンツ』さんよ」

ルークがそう言って剣を構えた。

奴の目がすいっと細くなる。

「ほお……私の事を知っているか。―――同業者、か?」

「元、な」



その何気ないようなやりとりが私の心を震わせた。

ルークの言った事が―――確定した瞬間。

そして――――目の前にいる奴が―――暗殺者クルンツだと確定した瞬間。

 

 

私は静かに術を唱えはじめた。