Long Story(SFC)-長い話-

SAPPHIRE -11-



――――この想いを、どう表現すればよかったんだろうか?

 

 

 

「評議長がいらした、と聞いたけれど」



ある日。

いつもの様に私はルベウスの家の研究室に行った。

彼は宝石に没頭していると寝食も忘れてしまう勢いなので時々見に行かないと倒れかねない。普段店すら彼は弟のギウスに任せる事も多い。

ギウスとほぼ交代で、別に決めたわけでもなくそうしていた。ルベウスは大丈夫だから、といつも苦笑いするけれども。



「ああ。全然行かなかったからなあ。直々に来られたよ」

宝石の護符を作るためにいい宝石を見極めているようで、彼は一つ一つ宝石を手に取りながらなんてことないように言った。



「協会の講師をやってくれないか、ってさ。前にやって懲りたからいい、って言ってるのにな。

僕には向いてないよ。大勢の人と一緒にいるのは好きだけど自分だけ何人もの前に立って理論やら何やら教える側に立つのは。

評議長はすぐ僕を表に立たせようとする」

「…ルベウスの授業はわかりやすいからよ」

「わかりやすいのは教えるのに慣れてないから初歩的なことから言うからだよ。

おそらく今のミリーナレベルの魔道士なら何か足りないって思うだろうね。まあそのレベルになればみんな独学になるからいいんだろうけれど。

それに。魔法なんて本当は使わないに越した事はないと思うんだ。僕は。

こんな仕事していて何なんだけれども宝石だって本当は僕が手を加えるよりもそのままの方が輝いている」

「……評議長が聞いたら怒り出しそうね」

私は苦笑した。

けれども他とは考え方の違う彼のそう言った言動は嫌いではなかった。

 

 

そんなやりとりがいつもの日常だった。

当たり前の日々だと――――その頃は疑うことはなかった。

 

「やあ。本当にルベウスはいつもここに閉じこもっているな」

そう言いながら突如研究室に入ってきたのはルベウスと同じ年位の男の人だった。

見覚えがある。確かこの街随一の商人の家の息子だ。協会にもルベウスと同じ位出入りしていたはず。

名前は確か――――

「クロム。どうしたんだい?」

多少驚きながらもルベウスは彼の方を見てそう言った。

「協会の講師断っただろう。その役がまたおれに廻ってきた。

宝石に夢中なのもわかるけれどもう少し他のやつのことも考えてくれよ。これくらいならいいけれど。

……って、君は?」

彼は私を見ていった。すると。

「ああ。ミリーナ。…彼女の親が僕や僕の死んだ父の宝石の主な取引相手の一人でね。小さい頃からの馴染みだ。

まあ、妹、みたいな感じかな」

ルベウスがそう説明し私は黙っていた。



妹。

その言葉に嬉しいのか。

哀しいのか。

自分でもよくわからなかった。



「へえ。よろしく。おれはクロム。協会でルベウスとは知り合ったんだ」

赤い短髪がさらり、と揺れた。

どこか気障な雰囲気が漂っていて正直あまり関わりたくないタイプだ、と第一印象から思えた。

「ルベウス、評議長のお気に入りなんだからそれなりに応えてやれよ。

自分のやりたい事ばかりしていると痛い目を見るぞ」

「……覚悟してるよ」

困った表情で言うクロムに対し、苦笑いしてルベウスは答えた。

クロムは黙り込んで、それじゃあな、とその場を去る。



「……ルベウスの友人にしては違うタイプね」

私は彼が去った途端思ったことを口にする。

「そうかな?まあ、彼のおかげで色々助かってるんだ。

彼みたいに信頼できる友人がいて良かったと思うよ。……ミリーナ」

思い出したようにルベウスは私の名を呼んだ。



「前から僕は言ったけれども人は一人では生きていけない。

僕がこうして好きな仕事をして生きていけているのもこうやって信頼できる人が周りにいるからだ。

ミリーナもどんな形でもいい、信頼できるやつを作れ」

「……ルベウスはそればかりね」

「……人は嫌いかい?未だ」

子供に語りかけるように。優しい口調で彼は言う。

「―――好きか嫌いかと言われれば後者を選ぶわ」

少し悩んだ後私は答えた。すると。



「でも、僕もギウスも人間だよ。もちろん、ミリーナも。

人が嫌い、って言うのは自分が好きでない、ってことになる。

自分を好きでない人生なんてつまらないよ。

誰かを憎むな、とは言わない。もしどうしても許せない人がいるならそれは仕方ないと思う。

でもそれを『人』としてくくるのは良くないよ。色んな人がいる。

……そうだ。ミリーナは旅が向いているかもしれないな。

旅をするとそう言った事が見えて来たりするし。今すぐ行けとか、そんなことは言わないけれど。

いつか気が向いたら旅に出てみるのもいいよ。

…できることなら僕も一緒に旅したいな。」

「…え…」

彼の言葉に何故か動揺してしまった。



「本当はそこまで甘やかしたら意味無いんだろうけれどさ。僕もこの仕事についてから旅に出るなんて鉱石を取りに行く為くらいしかしないから。

心配もあるしね、ミリーナ一人だと。あ、でもそうしたらギウスもつれていかないといけないか」

そう言って彼は微笑んだ。



実際には叶えられない夢だ。

彼の言う通り彼は、職人としての知名度、協会からの信頼を考えれば鉱石を取りに行く時以外はこの街を実質出る事はできないし、ギウスもいる。

それでも彼の語る夢に少し希望を持ってしまった記憶がある。



旅に出て自分を探す。

彼と、一緒に。

―――妹としてだとしても。

 

 





そうすれば人を好きになれる?