Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -6-
暗い山道を突っ切るのは結構骨がいった。
元々さっきまでいた町がそんなに大きくなかったし、向かう村だってとても小さな辺境の村だ。
その道がきちんと整備されていたり明るいわけではなく、飛翔界でちょっと飛べばその先はけもの道同然で、とても術なんて使っていられなかった。
村への道の入り口だけがちゃんとしてただけだったらしい。
明かりをつけてひたすら草を分けて進む。
きちんと村に向かえてるか自信に欠けることもしばしば。そもそも地図もないのだ。
けれども町の人がやはり行ったり来たりしていると言うことで、よくよく見ればなんとかわかった。
一人で暗い道を突っ走るのなんて慣れてる。
ゼルと旅をする前はよく次の町まで着く頃合の予想を間違えてしまって、暗い中ひたすら明かりを求めて走ってた。
逆にいうとゼルと旅してからは初めてだった。
歩けなくなりそうだったあの頃に気持ちが戻ってしまいそうで、時々肺のちぢむ思いにかられる。
どれくらい走ったのか――――しばらくして道が開けた。
崖にかかる古い橋。そしてその先には小さな家が少ないものの密集して建っている様に見えた。
――――着いた――――。
正確にはわからないけれどもかなり真夜中に近い頃だろう。
そのせいなのか、または、誰もいないのか―――目の前に見える家々からもれる光は少しも見えない。
はあっ、とあたしは走った疲労と着いた安心感と―――色んな思いから息をつく。
橋を渡って、村に入るとどこかで感じた奇妙な空気の流れを感じる。―――どこでだったのか何故か思い出せなかった。
とりあえず心地よい空気で無いのは確かだった。
あたしはマントで顔を全体的に覆いながらたまたま目にとまった一件の家を代表して訪ねた。
ドアを叩く。
「すいません…!どなたかいらっしゃいませんか!」
ノッカーをがむしゃらに扱えば鍵はかかっていないことがわかった。
悪いと思いつつも嫌な予感を感じて中に入る。
あたしの声と行動に反応する気配はまるで中にはなかった。
「………!」
嫌な予感はあたっていた。
おそらくここの住人なのだろう、一家はところどころで倒れ、苦悶の表情でこと切れていた。もう死後何日も経っている様子。
奇妙な空気は、目立たない窓が一箇所開いているにも関わらず篭ったままだった。
あたしは口を押さえたまま外に出る。
―――流行病。
原因はすぐわかる。
町の人が言ってた、全滅かもしれない、という言葉が頭をよぎる。
やっぱりそうなのか――――
あたしはやみくもに他の家にも訪ねてみる。
2件目も一人の老人が家の中で倒れていた。こちらはまだあたたかったものの既にやはりこと切れていた。
3件目―――そう思って家を探すと人の気配がどこかからした。
「誰!?誰かいるの!?」
その言葉に反応したように家の影から男性がゆっくり倒れるように出現した。
「………あなたは……」
駆け寄ってみてあたしは思わず声を出す。
暗くて明かりを頼りにしただけなのであまりはっきりとは見えないのだけれど20代位だろうか。
黒い髪、黒い法衣を着た神官姿の男だった。
特徴だけを聞けばゼロスと同じだけれども、実際にはゼロスとは似ても似つかない。
「あなた?さっき閉鎖された道を突破して来た神官って……」
「う………」
ぜえぜえと息を荒げて頷く彼。
そのことにそんな場合では無いのにどこか安心した。
その彼は顔色が悪い。
「まさか、もう感染して……!」
あたしとは、ここに来てそんなに時間の差はないだろうに―――。
そんなに感染力の強い病だったと言うのか。
復活の呪文を唱えよう、と思ったものの病にはこれらの術は無効なことを思い出す。返って悪化させてしまう。
目がうつろな彼は、必死に言葉を紡いだ。
「あの祠に入った途端……」
「―――祠!?」
彼が指す方向には普段は隠されてわからないような場所に洞窟のような穴がぽっかりと開いていた。
「さっき天に召される前に……ここの住人から聞いたのです。昔からここに伝わる伝説の巻物が祠に……
封印されてたものが何故か解けて……その途端に人々が次々………」
あたしはさっきの老人を思い出す。
「封印と言うのを解明せねばと思い……入った途端身体が重くなり……回復術も効かず……」
「……」
あたしは神官から視線を祠のほうに戻した。
―――昔からここに伝わる伝説の巻物が祠に―――
確かめなくちゃあ、いけない。それの存在・中身を。
それにその話が本当ならこのままにしておくわけに行かない。
そのためにここに来たのだもの。
顔を覆ったままあたしは言う。
「あたしが確かめてくるわ。すぐに戻ってくるから、なんとかもっていて」
「……な……!」
驚いて、もがくように言葉を出す神官。
「大丈夫。極力空気は吸わないようにするわ。魔道士だし術を使って」
もしその病が祠の空気によるものだとしたならそうすればなんとかなるはずだと思った。
風の結界を自分の身体にまとえば更に問題無いはず。
あたしは彼を置いて、術を唱えて中に入った。
その祠の洞窟はそこそこ深かった。
直接吸う事はなくても、中の空気がどんどん澱んでるのがわかる。
一応それでもマントで顔を覆ったまま進んだ先、目の前が少し開けた。
祭られているところ。
「なっ………!?」
あたしは思わずマントで顔を押さえる力を緩めて声を漏らした。
病のことも一瞬忘れ。目の前のものに驚いた。
そして―――――。
「レナ!」
そう叫ぶ声が意識を手放したときに聞こえた。