Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -3-
ノックすると中から人のよさそうなおっちゃんが顔を出した。どーやらトーマスさんの様。
息子さんに会いたい、と言うといぶかしげな顔をした。
「そりゃだいぶ体調も今やっと回復に向かったけど………。
あんたたち、何をジェームスから訊きたいんだ?」
ジェームスというのが息子さんの名前らしい。
やっと回復に向かった、と言ったところに疲労の色を感じた。
おそらくずっと看病していたのだろう。おっちゃんにも感染した、というわけではないようだけれども顔色があまり良くはない。
「奥の村についてだ」
ゼルが単刀直入に言う。
「訊いても無駄だ。私だって何度も何があったか訊いたんだ。
けれど意識が混乱しててね。高い熱のせいで自分のこともわからなくなっちまった。……親の事すら」
そうため息をついておっちゃんはあたし達を左右交互に眺める。
「あんた達…みない顔だが旅の人か?珍しいな」
「ええ。ジェームスさんが何か写本とうわ言で呟いた、って情報を聞いて来たんです」
「写本?」
首をかしげて考え込むおっちゃん。
「そーいやなんか言ってたな。息子は一応魔道士なんだけど私は全然わかんないんだ。
まだ記憶があるとき――この町の入り口に倒れてて運ばれてたときに必死につぶやいてた。
伝説の、とか祠、とか」
「祠?奥の村にあるのか?」
言葉の端にある手がかりを見逃さないようにゼルが訊く。
「知らないな。山奥だから探せばあるのかもしれないが。
私が前行った時には気づかなかった。そんな噂今までなかったし。
まさかあんな小さな村でこんな病が流行ってたなんて……ジェームスはまだ運が良かったよ」
自分に言い聞かせるように後半は呟く。
自分の息子以外誰も帰ってきてはない事実はやはり重いのだろう。
「小さいって何人くらい住んでるんですか?その村」
あたしはふとした疑問を口にする。
「……10…いや15世帯位の家屋がある程度だ。宿屋もないしかなり辺境の地だよ。
ここもそんなに大きくはないけれど。だから他の誰もが言ってるな。はやり病ならば全滅しているかもしれない、と」
病で全滅、なんて可能性もあるわけだし、と言っていたさっきの食堂のおばちゃんの言葉を思い出す。
冗談ぽく聞こえるほど軽く言っていたのであくまでも可能性であってそんなに高い可能性ではないと思ったけれど――。
「……まあ、わざわざ訪れてきたし一応会うか?無理はさせられないけれど短い時間でいいなら。
熱もひいてるし移ることはないと思う」
ただ期待はしないでくれ、と言うおっちゃんにああ、とゼルがうなづいた。
疲れててもあたし達に気を使ってくれてそういってくれるあたりいいひとだ、と思った。
おっちゃんに案内され中に入って、部屋に案内された。
なにか独特の匂いが部屋を占めていた。
ベッドにガウリイ位の歳の男の人が横たわっている。
「ジェームス、いいか?」
おっちゃんが声をかけるとこちらをぼうっと見る。
「こちら、おまえが行った奥の村について訊きたいんだそうだ。何か思い出せることが……」
そこで言葉を区切る。
言葉を失ったのだ。
ぼうっとした瞳は焦点を合わせて。
あたし達を見て過剰に反応している。
「あ…!あ…!あ…!」
「!」
「どうした!?」
慌てて駆け寄るおっちゃん。
取り乱して恐怖の色を見せるジェームスさん。
彼を落ち着かせようとしてから、おっちゃんはあたし達を見て申し訳なさそうに言う。
「すまん。混乱しているらしい。ここは帰ってくれないか、悪いが」
「………」
あたしは素直に、無言のままうなづいてゼルに目で促して外に出た。
「駄目ね。今の状態じゃ」
「……単に俺の姿に怯えただけも知れないがな」
「そんな」
「ないとは言いきれないだろう。あのおっさんがあっさりと中に入れるほうが警戒心がない」
「………」
ゼルの言うことはもっともかもしれない。
けれど何かを否定したい自分がいた。
「あたしかも、しれないじゃない?」
「どうして」
「………リナに、ひどい目に遭わされたことがあるとか」
必死に言いながら思いついた言葉に、ゼルが目を丸くする。
「ありえない?」
「…いや、それならありえなくはないだろうが」
あたしを見て何故か苦笑するゼル。
少しだけ穏やかな声を出す。
「宿に戻るか」
家に背を向ける。あたしはそれを追いかけるように後ろにつく。
「……これから」
「どうするか、か?」
先ほど言いかけた言葉を今度こそあたしが発する前に、ゼルは背中越しに見透かしたように言う。
あたしは彼には見えないのに、言葉ではなんとなく言えなくなって、黙ってうなづいた。
彼は次の言葉を発した。