Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -16-
「正直リオンには期待していなかったのですが……まあ、本人の目的は果たしていたし面白い余興が見られたのでよしとしますか」
ふわり、と。
宙に浮いていた黒髪の神官は足を地に着け、軽い調子であたしたちを見ていった。
リオン。
それはあたしと同じ姿をした彼女の名前なんだろう。
「私に何故気付きました―――?」
興味深そうにゼルに対して問う。
ゼルは面白くなさそうに彼に答える。
「最初っから疑念はあったさ」
ちらりとあたしを見て言葉を続ける。
「俺が救ったのはレナだけだ。運ぶ関係上お前は見殺しにするしかなかった。どこの誰とも知らないしな。
しかし後の町の人の噂話から、教会に助けられた、と聞いた時はそれもありうるとは思ったが……俺がどんなに探しても教会にそんなやつは存在しなかった。
噂は噂、実際は助かってなかったと思い始めていたらレナがさっき会った、と来たもんだ。
人間なのか否か疑って当然だろう。ゼロスが生きている、とは思わなかったが―――お前が敵か味方かくらいは想像できた」
「―――なるほど」
「そろそろ姿を変えてないで正体を明かしたらどうだ?ゼロス」
短い沈黙。
それを破ったのは神官の笑い声。
苦く笑う。
「ああ、私をゼロスが化けたものだと信じていた、と。リオンの言っていたことも鵜呑みにしましたか。
残念ながらあなた方が知っている通り―――獣神官ゼロスはちゃんと滅びてしまってるんですよ」
「……え?」
思わずあたしは声を出す。
「リオンは私の言った言葉を本気で信じていたようですね。
ゼロスはリナ=インバースの仲間と、裏切り者のリナコピーによって、力を奪われ、表に出てくることが今はできず死んでいる、と。浅はかな『嘘』を。
その嘘により彼女はしがみつくように魔族になることを志願し、それなりに役立ちましたがね。
滅びていることを明かしておけば貴女をこうして生かしておくようなことにはしなかったでしょうね」
ぞくり、と。悪寒があたしの中に走る。
そう言う彼があたしを見る瞳に。
「それじゃあお前は―――」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私の名は―――グルゥ。
覇王神官グルゥと申します―――」
―――覇王――神官―――
それがどのくらいすごい位置の魔族なのかはきちんとした知識が思い出せてないあたしにはわからなかったけれども。
彼がゼロス、と呼び捨てにしていることからゼロスと同等かそれ以上の立場なのは容易に想像が出来た。
「あのコピーを、実際に指導していたのはお前と言うわけか」
「いいえ?彼女の任務と私の任務は別物です。
ただたまたまあなた達がリオンの狙う写本を目当てに来たことを知り、リオンの手伝いをすれば面白くなるだろうと手伝っただけですよ。
リナコピーを会わせるようにすればどうするだろう、とね」
「……悪趣味」
小さくあたしは呟く。
あたしが記憶を無くしてしまったこともきっと彼は知ったのだろう。
それでこのまま町を出ては、とあたしに祠に行く知識を、あくまで被害者の振りをして与えた―――。
「―――で?お前自身の任務はなんだったんだ。裏切ったレナを始末することか――?」
ゼルが剣を構えてあたしの前に出る。
それにも苦笑するグルゥ。
「いえいえ。別に今ここで事を構えるつもりはありませんしコピーをどうにかしろ、なんて指令きてませんから。
ただ興味はありますね」
嬉しそうに言う彼。
その興味は、ゼルへ、なのか。あたしへ、なのか。
ぱちんっ!
刹那彼がそこから消えて―――いや。
瞬間移動させられたあたしがグルゥの腕に抱えられていた。
なっ!
「レナ!」
ゼルの声とともにグルゥはあたしの頭に手をかざし抱えこんだ。
動けない。何か重く鈍い痛みが頭の中に染み込む。
気は失っているわけではないのに声も身体も動かない。
長いような短いような時間が経った後、あたしの身体は彼の腕からすべり落ちた。
「貴様っ……!」
ゼルが倒れこむあたしとグルゥへと走り来る。
ふ、と笑うグルゥの声がした。そして目の前の姿は掻き消える。
「レナ!」
抱き起こしてくれるゼル。でもまだ身体は動かなかった。
姿の見えなくなったグルゥの声が響く。
「私の予想が正しければ、次会ったときは味方として。
外れていれば敵として――――お目にかかりましょう」
その声は、記憶にあったゼロスにもとても似た、面白がっている声だった。
眠いわけではないのに、体中が重くて動かないためか自然とあたしはそこで目を伏せた。