Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -14-
「烈閃槍っ!」
とっさにゼルから学んだ術を放って彼女の位置から離れるあたし。
もっとも、空間を渡るのならば意味がないけれど――。
「病み上がりにしては元気ね。弱いだけのコピーだと思ったのに」
避けて言う彼女。
「まあ、でもそうでなくちゃ――困るけれど」
「………」
どうしよう。
一部、記憶を無くす寸前のことは思い出した。けれど魔法に関しては以前使えたものがまだ何一つ思い出せない。
このままじゃあ、またゼルの―――
「よくべらべら喋るな。余裕のなさからか?」
ゼルが嫌悪の瞳で彼女に剣を振るう。
ぎんっ!
押されそうになると彼女はふっ、と空間を渡って離れた位置に逃げる。
しかしそれでも彼女は強気の表情。
「それはどっちかしら?あたしの方はここ一帯を焼いたって構わないのよ」
「………!」
ゼルが剣で彼女を倒そうとしているのは剣の腕なら確実に彼女より上だから、と言う理由だけじゃない。
傍にある写本の存在を気にしてだ。
彼女のほうは写本を燃やす目的。対してゼルはそれを手に入れ解読する目的。
この状況ならば、近くの写本を巻き添えにする術は使えない。
それとは別に、広いとは言え洞窟の中だから下手な術を使えばあたし達自身も巻き添えになる、と言う理由もあるけれど。
彼女が魔族だと言うことを踏まえても――――魔法のかかった剣か、もしくは精神系の魔法しかない。
それを彼女は知っているのだ。
「……くそっ」
ゼルが小さく声を漏らす。
彼女が本気になる前に―――なんとかしないと―――
「烈閃槍っ!」
もう一度あたしは彼女に向かって術を放つ。
空間を渡るまでもなく彼女はそれを避ける。
よしっ!
「ブレイク!」
「!」
アレンジを加えて術を拡散させるあたし。
今のうちに祭壇から箱を取り出せれば―――
向かおうとする。が。
「レナ!」
ゼルの声とともにくる鈍い音。
衝撃破。
飛ばされた、と認識したのは洞窟壁に叩き付けられた瞬間。
けれどその割にはあまり痛みはなくて。
「……!ゼル!」
瞬時にゼルが間に入り、受け止めてくれたおかげで直撃を免れたのを自分を被う腕ですぐ知る。
壁とあたしに挟まれ苦悶の表情。
「…大丈夫だ。俺に怪我はない。この身体のおかげでな」
――どうして。
不意にこぼれそうになる声と涙をなんとかとどめる。
「あんな目くらましで油断するなんて思ったわけ?」
侮蔑の声。
記憶をなくす前にも聴いた声―――。
あたしに対して彼女が発する声。
ゼルに対してとはまた違う憎しみの声。
生まれてきた目的なんて知らない。
けれどあたしと彼女は同じコピーだと言った。
本当なのかは知らないけれど多分そうなんだろう。
そしてその目的をあたしも彼女も果たせなかった、ということも。
それで彼女は人間をやめて。
あたしは――――
「レナ」
耳元であたしにゼルが言う。
「なんでもいい。今の様に呪文を放ったらすぐお前は今度はその場を離れて写本の場所からも離れて逃げろ。
空間を渡ったところを俺が別の呪文で攻撃する。写本は後回しだ」
「……」
無言であたしはただうなづいた。
目的なんか知らない。
けれど今できること。
あたしが選ぶこと。
目の前にあること。
立ちあがるとゼルと二人、それぞれ反対方向に駆け出す。
あたしにもゼルにもくる衝撃破をそれぞれ避けながら。
「烈閃槍!」
「1つ覚え!?」
またアレンジを加えて拡散されると察したらしくすうっと消える彼女。
あたしは急いで離れた場所に移動する。
……し、全ての力の源よ―――
ゼルの呪文を唱える声が微かに聞こえた。
―――――――この呪文―――――
―――尽きることなき青き炎よ 我が魂の内に眠りしその力―――
あたしは元いた位置を振り向く。
ゼルの声をなぞるように口がほとんど無意識の様に動いていた。
印を結び始めていた。
それはフラッシュバックだったんだろうか。
それが何の呪文なのかあたしは憶えていなかったはずだった。
なのに目の前にその光景は広がった気がした。今と同じ、光景。
鮮明に蘇るかつて記憶していたもの。
―――ゼルがいた。他にも誰かいた。
あたしが術を放った後彼はその呪文を唱えた。
あたしも追いかけてその呪文を唱える。
そして目の前の敵に何人かでそれを放つ。
その敵は黒い法衣をまとった神官で――――
同じく余裕に見える強気の表情で。
彼女が姿を現した。
「崩霊裂!」
ゼルが放つ。その術を。
彼女は読んでたらしく、とっさに避けようとする。
そこに。
―――夢幻より来たりて裁きを今ここに―――
「!」
彼女があたしを見たときにはあたしも術を放つ瞬間だった。
精霊系の最大攻撃呪文。
「崩霊裂っ!」
あたしの術はまともに彼女を直撃した。