Long Story(SFC)-長い話-

MEMORANDUM -12-



あたしは目の前に現れた人物を見て、目を丸くした。

目の前を疑った。

 

「エルフは人間には絶対にこの祭壇に奉られているものを獲られたくなかったのよ」

 

広い祭壇に声が響く。

結構きゃぴきゃぴとした女声。

 

「正確にはエルフと同じ力量を持たないものには、ね。それだけの力がないものが手に入れれば大変なことになるから」

 

ゼルは黙って彼女をにらみつけている。

けして驚きの表情ではなく。

 

「そこでよっぽどの魔力キャパシティと強い意志を持たないものが入れば第一の結界が発動するようにしたわ。

結界と言うより呪いに近いわね。その場所に入ったものへと―――、絶対に立ち入るなと忠告しておいたこの村に残った人間達とその子孫全員にかかるようにした」

 

彼女は不敵な笑みを浮かべて、あたし達を見る。

長い栗色の髪がさらり、と揺れる。

 

「けれどもうひとつ念を入れたらしく第二の結界を祭壇にかけていたみたいね。

そして誰もそこまではたどりつけなかった。力尽きて」

 

魔道士姿の彼女はゆっくりと何歩か歩み寄った。

 

「助かったわ。貴方が結界を解いてくれて。ゼルガディス?それに――――」

 

あたしと同じ顔をした彼女は憎むような目をしてあたしだけを見つめた。

 

「裏切り者の、リナコピー?」

 

 

 

 

 

 

 

「……レナ」

しっかりしろ、と言うような口調でゼルがあたしの名前を呼ぶ。

そう。あたしの名前。

 

何?

何を言っているの?

目の前の人はどうしてあたしと同じ姿をしているの?

リナコピーって何?裏切り者って――――。

理解できない。

 

「……どういうことだ」

放心したあたしを気にしながらもゼルが目の前の彼女に問う。

「どういうことも何も。今説明したでしょう?」

あくまでも明るく、笑いながら説明する。

その声がどこか遠くに聞こえる気がする。

 

「第一の結界は当たり前にクリアできたわ。まあ、無理矢理案内させた村人とか、そのあと心配だか噂だかを訊いてかけつけた連中はこの通りだけど」

言ってすぐ傍の遺体と既に骨になって転がっているものを見る。

「だけれど第二の結界はあたしには解けないように作られていた。多分噂を訊いていたからね。

もう100年以上前から、中のものを燃やしている人物がいると言うことを―――」

「……ということは、中身は、本当に」

「ええ。異界黙示録の写本よ」

ゼルが思わず出した声にあっさりと彼女は答えた。

「けれど。貴方に渡すわけにはいかない」

言った瞬間。

 

ごおうっ!

 

呪文を唱えた気配もないのに攻撃をかけてくる彼女。

あたしとゼルはすぐさま我に返ってそれを避けた。

 

「くっ……もう1つ訊いてなかったことがあったが今のではっきりしたな」

ゼルが剣を抜きながら言う。

「何故お前があんな結界を解くことができなかったか……つまりは、人間に渡すつもりもないが魔族にどうにかされるつもりもなかった。

エルフはそう思って生体エネルギーの感じられないものには解けない結界もかけておいた。

俺やレナには馬鹿馬鹿しいと思えるものだがな」

呪文を唱え、剣に魔力をゼルは込めた。

あたしはまだ半ば頭が混乱して、放心状態にある。

けれども次の言葉であたしの混乱だけは少し解けた。

 

「魔族が。わざわざリナの姿をしなくたっていいだろうに。レナを揺さぶるつもりか」

 

――――リナ。

リナの姿。

あたしの姿、とは言わなかった。

リナ、という人間がいる。

あたしと同じ姿の―――いや。

あたしが同じ姿の。

 

『裏切り者の、リナコピー?』

 

 

リナ、と言う人のコピー?

あたしが?

複製人間?

 

あたしはあたしでないの?

他にあたしがいて―――その人が本当で。

 

 

ゼルは知ってたんだ。

知ってて―――隠してた。

 

「レナ!」

ゼルが怒鳴りあたしはびくりとしながら彼を見る。

あたしが放心していることに気付いたのだろう。

彼は一瞬黙って、とてもそっけない声で―――けれども優しい声で言った。

「……詳しくは後で話す。今はこいつを倒すのに集中しろ」

 

目の前の――――あたしの姿をしたものを―――。いや。

リナと言う人の姿をしたものを。

倒したら――――彼は。あたしは。

 

 

 

「別に姿を変えたわけじゃあないわよ」

呆れたように――そして怒ったように彼女は言った。

「あたしもそこにいる裏切り者と同じリナコピーだもの。

ただそこにいる子や他と違うのは―――貴方が言う通り」

そう言いながらまた繰り出す衝撃破。あたしもゼルもそれぞれ避ける。

 

「人間を辞めただけ。

獣王様に頼んで完全な魔族になっただけよ。

――――ゼロス様の分まで働くから、って」

そこまで言った彼女の目には憎しみが宿っていた。