Long Story(SFC)-長い話-

MEMORANDUM -11-



村には独特の空気が流れていた。

病んだ空気、というんだろうか。ふさわしい言葉があたしには思いつかない。

人は全く見当たらず、誰かが住んでる気配がない。

 

「全員、あたしがかかった病かなにかで……?」

「ああ。おそらく誰も助かってないだろう」

民家を見渡してゼルが言う。

「お前はここに倒れていた。……何か思い出したことは、あったか?」

地面を指差した彼に、あたしは首を横に振る。

「……でも、見覚えがある気もするの。断片的な――――」

周りをゆっくりと見渡していて、あたしはある一定の方向に目を止めた。

ちょっと村からは外れた場所の岸壁。草で覆われている―――。

 

「ゼル。あっち……」

直感の様に言ってあたしはその方向に行く。ゼルが付いてくる。

近づいたとしてもよっぽどでなければわからない隠されたような位置で洞窟が開いていた。

「……なるほどな。祠というからには村の中心かこう言った所に隠されてるだろうとは思ってたが……。

この奥か」

「……多分」

憶えていた。あたしはどこかで。

突然、気遣うようにゼルが言った。

「―――行くぞ。大丈夫か」

 

――――大丈夫?

――何が?

 

その問いは声にはならなかった。

代わりに無言でうなづく。

「待っててもいいんだぞ、ここから先は」

「―――行くわ」

 

行かなきゃならない。

彼だけに行かせたくない。

――――あたしだけ残りたくなんかない。

 

洞窟を進むにしたがって、あたし達は念の為体に風の結界をまとった。

これも意味があるかなんてわからないけれど。

そうして進むにつれてあたしの足はどんどん重くなっていく。

それは洞窟のもたらす何か、と言う感じではなかった。

 

怖い。

憶えてる。

あたしは前、こうしてこの奥に向かってた。

感覚が憶えてる。

けれど何かが違う。

違うのは―――

 

「レナ」

隣でゼルがあたしの名前を呼ぶ。

 

ああ。

そう。多分彼は前のときいなかったんだ。

あたしは独りだった。

今は隣にいてくれてる。

 

「……どうしたの?」

「光だ。奥に光が見える。どうやら目的地だ」

あ………。

「油断するなよ。何が『病』の原因を作り出してるかはわからないからな」

「ん……」

 

いよいよ到着する。

彼の目的である魔道書を確かめるのが第一目的。

病の原因はその次。

 

別に今更『病』に怯える必要なんてないじゃない。

自分に言い聞かせる。

 

 

――――目の前が、ひらけた。

 

かなり広いスペース。ちょっとした城が建つ程度はある。

その真中にぽつりと小さな祭壇。

祭壇に飾られている魔力の炎。

祭壇の周りを、何か明るい光が包みこんでいる。

―――その外には。

いくつかの転がる――――遺体と骨の数々。

おそらく『病』に力尽きたんだろう。

 

「ゼルっ、身体は…っ?」

あたしはその転がるものを見てすぐ隣を見て訊く。

「全く異常は今のところないが」

嘘ではない、とても余裕の声だった。

「お前は、どうなんだ」

「あたしも……」

 

大丈夫だ。とりあえず。

 

ゼルがあたしより前に出る。

明るい光に近づく。

 

「……結界だな」

「簡単に近づいて大丈夫なの……?」

「見たところこの結界が病の原因ではなさそうだ。しかもこの結界は……」

彼が結界に触れた途端、すうっ、と明るい光は収束され、消えた。

丸裸になる祭壇。石とは違う特殊な素材らしきもので作られているのがわかる。真中に埋め込まれている同質の箱のような物が見える。

「………どういうことだ?」

彼があたしの方を振り向いて言う。もちろんあたしに答えられるわけないのを彼は知っているからほぼひとり言に近いんだろう。

「魔力をある程度持っている人間が触れば簡単に解けるようになっている。

なのに何故この結界を誰も破れなかった?あのジェームスと言う魔道士も――ー

しかもこの結界に何もないなら、『病』は一体何が――――」

「この空間全体にもう1つ大きな結界が張られていたのよ」

『!?』

あたし達は声のするほうを見た。

祭壇を挟んで向こう側からした声。

 

――――どこかで聴いた事のある声だった。