Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -10-
二日後、あたし達は町の人の監視をかいくぐって奥の村へと向かった。
この二日間何をしていたかというと、ゼルはあちこちに出かけ色々な情報を集めながらもあたしに魔法を教え、あたしはひたすら魔法を覚えるのに費やした。
不安とか、疑問とかそんなことを考える暇もないくらいひたすら頭に詰め込んだ。
やはり一度使えていたせいかあたしは魔法の飲みこみが早いらしい。
ゼルの教え方が思いのほか上手いのもあるのだろうけれど、ちょっとした知識でどんどん応用していける。
かくして、ちょっとした攻撃呪文・浮遊などの便利呪文などは使えるようになった。
村への入り口は厳重に閉鎖されているので、浮遊でそれを乗り越える。
ある程度町から見えなくなったところで降りて、森の中を突き進んだ。
「この奥、ね」
「ああ。さほど時間はかからないはずだ」
白いフードで顔を隠したまま話すゼル。
そう言うあたしも顔を布で覆っている。
『流行病』の防止策の1つだけれど、ほとんど無意味な、ないよりはましだろうとの考えからだった。
あれからゼルが調べたところ「奥の村へ行ったもの以外のひとの感染者はいない」ということがわかった。
要はそれを看病したひと、奥に行った人に会った人、誰も症状が出なかったと。
あたし以外では無事生き延びて街に帰ってこられた人間はジェームス、という男の人と、あたしと一緒に倒れていた、という神官と――あとは全く症状はなかったゼルの3人しかない。
しかしこのあたしを含めた4人と接触した人誰も病にはやられなかった。
もはやこの町上では『流行病』とも言えない気がする。
けれどつまりは―――空気的な感染から来る病というわけではないのだろう、というのがゼルの考えだった。
だったら顔を覆って空気を直接吸わなければいい、と言うわけではないことになる。
だから本当に形だけ、の対策だったりする。
「…『病』に関して1つだけ、考えている仮説が有る。それが正しければいいが」
森の中を進みながらぽつり、とゼルが言った。
あたしの一歩前を行き、草を分け進む。
「最終的に生きている4人の共通点はどこだと思う?」
言われてあたしは歩きながら考えて、
「……って言われても……あたしは記憶がないから自分とゼルとの共通点なんてよくわからないし……。
ジェームス、ってひととは直接会ったことないし……」
「ああ。お前は記憶を無くしてからは会ってなかったな。……だが俺が今までお前に説明した特徴だけで充分共通しているものが有る」
ぱきり、と結構太目の植物がゼルが分けるときに折れたらしく音がした。
あたしはふと思いついて口にする。
「………もしかして……魔法?」
「ああ。その神官は話を聞く前に消えたからさておき、ジェームスはそこそこできた魔道士だったらしい。
そして俺とお前は魔術に長けていた」
「……魔力で防げる、ものだってこと?」
「と、言うより、効き難い様になっているんじゃないか、と言うことだ。近づけばお前の様にそれなりの影響は受けるが。
……あの町で文献を調べてたときにこれから行く村の歴史も調べてみた」
彼から離れないようにあたしは歩幅を大きめにしてついていく。
背中が少しでも遠くなってしまうのはとても嫌で、追いかける。
別に彼は早く歩いているわけでもなくどちらかというとあたしに合わせてくれているのに。
何故か生まれる焦りと、恐怖。
馬鹿馬鹿しいので表には出さないけれど。
「大昔、と言っても100年ほど前だな。エルフの隠れ里だった。
それを戦争か何かで逃げ延びた傭兵たちが見つけた。
傭兵はそれのおかげで命を延ばせることとなったが、エルフにとっては隠れ里の村だ。
見つかっちまったエルフは他の里を探すことにした。その場所を逃げ延びてきた奴らに譲って。
以降その村はその傭兵たちの子孫が代々住んでいる、と言う事になっている」
前が少しずつ明るくなってきた気がする。森を抜けるのももうすぐ。
「妙にひっかからないか?」
「どうして?そんな伝承があったなら魔道書があったとしてもおかしくないでしょう?」
「ああ。エルフがらみなら存在そのものはおかしくはないと俺も思った。だが、エルフが別の里に移動した、と言うならどうしてそれを『譲った場所』に置いていった?」
「……それは」
「持っていくことができない理由があった。それにお前が言っていた封印という言葉を重ねれば――世間で言う『流行病』の正体じゃないか、と予測でき、納得はいく。
しかしそうなるとまたわからないことが出てくる。
封印していて動かせない物体を、エルフが隠していたのなら―――」
ゼルが足を止めてあたしも思わず足を止める。
森が―――終わった。
目の前には古ぼけた橋。そしてその先には――――こじんまりとした村。
あたしは前にいる彼のマントを無意識にぎゅっとつかんでいた。
「誰が今その封印を知り、開けたというんだ?」
その質問はあたしに、というより自問自答に近い口調だった。
けれどあたしはなんとなくその言葉に、やはり独り言の様に答えてみた。
「村の、ひととか……その、ジェームスさんとか」
「…それはないだろう」
ゼルは更に返した。
「やつらは知ってたのならそれなりに封印を破るリスクも知っていたはずだ。だからこそ今まで何も無かった。
ジェームスは村人が倒れたという話を聞いてからこの村に来ている。
―――行くぞ。レナ。祠を探す」
「うん……」
橋を渡りきるまでなんとなくあたしはつかんだマントを離すことが出来なかった。
彼は気付いてただろうに鬱陶しがりもせず黙って歩いている。
離したあと村を見たあたしは見覚えがあるようなないようなその光景に一瞬めまいを憶える。
放っておいてはいけない。何故かそんな気がする。
そう言ったのはあたしなのに。今でもそう思うのに。
――――これ以上関わってはいけない。
森を抜けてからどこかで、そう痛く思えていた。
けれど先に進むのは、あたしが最初に決めた道。