Long Story(SFC)-長い話-
MEMORANDUM -1-
「それは本当か!?」
あたしの旅の連れ―――と言うか協力者であるゼルガディスが、彼にしては珍しく人の注目を集めそうな程の声の大きさで、目の前の男に言った。
ちょっと隣にいたあたしは驚く。
けれど彼が興奮しても仕方ないかもしれない、とすぐに思った。
それは希少な情報だったから。めったに聞く事の無い、けれども彼がとても求めていた情報。
――――異界黙示録の写本。
あたしはリナ=インバースのコピー・ホムンクルスで―――レナ。
魔族によって生み出されたあたしは創造者の獣王を倒したものの、オリジナルの『リナ』とはやはり一緒に居辛くて――彼女達とは離れて独り旅をしていた。
けれどあたしには足りないものがいくつもあった。
家。過去。……仲間。
『リナ』とは違うもの。
過去、みたいに今から欲したって手に入らないものならともかく他の物は人々に触れているうちに創り出すことも可能。
知っているのに、けれどそんな単純なものじゃなくて。
……途中で歩けなくなりそうになった。
そんな時再会したのが、オリジナルの『リナ』の仲間のゼルガディスだった。
あたしにとっては、『レナ』という名前をつけてくれた恩人でもある。
彼には合成獣となった自分の身体を元に戻すという目的があり、その為にリナとは別にやはり独りで旅をしていた。
あたしが無理していることに気づいたんだろうか。
歩けなくて、でも歩かなければあたしはあたしと言うことを保てなくて――――。
あたしの様子を見た彼は、ぶっきらぼうだけどとても優しい声であたしに言った。
「一緒に、来ないか」
びっくりした。
でもとても嬉しかった。
多分、そんなあたしを放っておけなかったからだろうと思う。
それがわかったから。
「足手まとい、に、なるかもよ?」
かすれた声で、無理矢理微笑う。
「……お前の魔法はかなり旅する上では助かる。俺も魔法を使うがどちらかと言えば剣重視だ。
それに――目的は一緒だろう」
「……目的?」
「ああ。『自分』を探す旅だ」
「………あ………」
お互いの『目的』を手伝う。
それがあたし達の旅の始まりだった。
あたし達は『自分』を探した。
異界黙示録の写本。
あたしはまだ生誕4年ほどになるけれどその存在はゼルからよく聞いている。
滅びた水竜王の知識。
それは竜族やいろんな形で口伝として残ったり、文章として現在に伝わっているものもあるという。
けれどそれはもちろん簡単に手に入るものではなく、ほとんど目にかかることは無いと言う。
キメラになった身体を元に戻す、と言うかなり難しく、方法など無いようにも見えるその目的。
そんな幻に近い写本にならそれができる術があるのではないだろうか――――
彼の一番の『希望』。
「あ、ああ……あくまで『らしい』と言う『噂』でしかないがな。ここから街道にそれたかなり山の奥の村だ。
辺境過ぎて誰も寄らないが、そこから唯一帰ってきた男がうわ言でのたまったとか……」
ゼルの迫力に少し腰をひいて、情報屋が言う。
それに眉をひそめるあたし。
「―――うわ言?」
「帰ってきたときには虫の息だったらしい。詳しくはその男がいる町に行くんだな。
その山に入るためのふもとの小さな町だ」
「―――わかった」
ゼルがそう言い情報屋に金を渡すと席を立ったのであたしも席を立つ。
早速その町に通じる道へと足を向けた。
「唯一帰ってきた、ってのもひっかかるし……。
虫の息って……なんかわけわかんないけどかなりきな臭い感じよね?」
「まあな」
歩きながら、言うあたしの言葉に答えるゼル。
「けれど、その分信憑性がありそうだ。そんなところに村があることなんて知らなかったしな」
なるほど。
「本当だといいわね」
あたしが笑って言うと、ああ、とどこか優しい表情でうなづいた。