Long Story(SFC)-長い話-
border=0 -goal(epilogue)-
――――一体何がどうなっているのか、と落ち着いてからリナ―――目の前の彼女に問いた。
本人にもわからないらしい。肉体は今までオレと一緒にいた、時をかけることを知らないリナのもののようで。けど意識は、記憶は、時をかけたリナ―――レイのもの。
普通に、リナがあの戦いの衝撃で予定通り時をかけて消えてしまい、レイが残った――――その可能性もなくはないみたいがどうやら違うらしい。
あの衝撃で、本来ならば同時に二つ存在しない、するべきではない『リナ』が本来の形にと一つになってしまったのではないか――――彼女はそう結論づけた。魔王に関してはいなくなったとか言えないけれど。
つまりは、今目の前にいるのは『リナ』なのか、『レイ』なのかと問うと彼女は笑った。
「だから。多分両方なのよ。…それに、どっちでもあたしでしょ?」
言う彼女は安堵と喜びに満ちていたから、こちらも思わず笑顔になった。
『レイ』としての彼女は、あれから結局時を越えることができなかったのだという。
オレたちと別れて二年ほどの時間を、ゼルと提携を組み、元に戻る術をひたすら探していた。現れた時唱えていたのはその過程でたまたま知った新魔法。
このまま戻ることができないことも危惧したというから、これでよかったのだと想う。
贅沢だと想った。二人分のリナが自分の隣に戻ってきたということなら。
もう彼女がどこにも行かない、離れないのだということが一番大事だった。
これで、何も怖がらすに二人で歩いていけるのだと思うと口にはとても表せないくらいに嬉しかった。
「リナ、話がある」
夜、宿屋の部屋で彼女にそう切り出す。
一件が終わり旅を再開し。今日は初めて最初から二人で一つの部屋を取った。初めてリナがすんなりとそれに同意してくれたから。
それをきっかけというか勢いとして、以前保留にしておいた『時間』を動かそうと決意した。
うん、と彼女は頷いて、こちらが腰掛けたベッドの横に座り、こちらを見る。
「――――何?」
「―――――」
いざ言おうと思うと言葉が出なかった。
今までとは違う緊張がなんだかこみあげていた。
今更。そう、多分今更だと思う。それでもやっぱり緊張する。
この日のために準備をすべきだったかもしれない。その方がよかっただろうか。
「ちゃんと、やっぱり言いたいから」
リナはきょとんとしている。じっとこちらを見つめて。
プレッシャーから、やはり忘れた、と誤魔化してしまいたい気持ちが生まれる。けれど、今まで、彼女に促されてきた言葉をやはり護りたいと思う。
どんなにつたなくても。自分の気持ちを。
「―――――結婚、しないか」
自分の口から出てきたのは、結局単純すぎる言葉だった。
それにリナはめちゃくちゃびっくりした顔をした。
それにオレもびっくりした。
そんな驚くことを言っただろうか。
「え」
「え?」
「あ」
「あ?」
お互いが困った顔をして、しばらくしてリナが笑いだした。
「あ、ごめん。いや。…まっさか、そんなど直球なプロポーズされると思ってなかったから」
ぱたぱたと手を振るリナ。
「……今までのあんたの台詞からしたら、さ。関係をもう一つ増やしていいかって。遠回しに言われるんだろうなって思ってたから」
言われて苦笑した。確かに、今までならそう言った。
いつリナが消えるのか、自分の行動言動が彼女の存在を危うくしはしないか心配だったし、彼女の気持ちもわからなかったから。
けれど、もう今はその心配があまりない。
リナにはプロポーズすることを予想されていたらしい。もう少し今更でも照れる彼女を期待したのだけど思ったより冷静だった。
「プロポーズくらいはきっちりした方がいいだろ」
「ま、確かにね」
言ってしばらく沈黙が続く。というか、オレはリナの言葉を待った。
けれど彼女も何か言葉を待っているみたいで、こちらから口を開く。
「……で、返事は…どうなんだ?」
それに彼女は眉をひそめる。
「…あのねえ」
わかんない?と呆れ困ったように詰め寄ってきた。至近距離。
「……今日なんであたし一部屋でいいって言ったと思ってんのよ」
「……そりゃ」
わからない。けれど、リナがレイと一つになってからの数日の旅で、まだ体力の回復的問題から一度も体を重ねる行為にまで及んではいないから、そういう時期かなと思った。
というかこちらはそのつもりでいた。違うのだろうか。
「……あんた、待っててくれたでしょ」
驚くほど柔らかい口調で彼女は言う。諭すように。
「…本当は、あたしを初めて抱いたあの時から、ずっと。…もっと前かもしれないけど。あたしがいなくなるってわかってたから」
どうしてこうなるって事前に言わなかった、と戦いの直後怒ったリナだったけど、強くは責めなかった。それは彼女もわかっているからなのだろう。
言いたくても言えない。言えたとしてもそうしていいのか。未来との戦いを。
「あたしが旅続けたいからとかいきなし関係をそんな立て続けに増やされてもって困るだろうからとか。そんなんじゃなくて、それもあるかもしんないけど、今回の事の為に今の言葉、言うの待ってたでしょう。ずっと言いたかった癖に。したかった癖に」
「―――――――」
リナの顔が近づいたから思わず顎に手をかけ唇を重ねた。
優しく何度かついばんだ。そして少し唇が離れると幸せそうに彼女は言う。
少し目が潤んでいた。
「…あたしの答えは、あの時出したじゃない」
全部あたしのものなんでしょ、とリナは言う。
「あんたの未来も。全部あたしのものにしていいんでしょ。するわよ」
「……リナ」
「…ずっと、そう、したかった。『レイ』でいる間、ガウリイと離れてるこの数年間――――ガウリイからしたらそんな離れた感覚ないかもしんないけど、何も知らない『リナ』に言いたかった。
形だけって言ってしまえばそうだけれど…心や、体、とかだけじゃなくて。なあなあにしておかないで、もっともっとガウリイとちゃんとしておきたかったって。もし、『リナ』に戻れたなら―――したいって。
――――――――だって、どんなに保留にしたって、遠回りしたって、結局もぉいつかそこに行くでしょあたし達。じゃなきゃ、今こんな風にならなかったんだから」
言うとリナの方からもう一度短く口づけてきた。
「……そこに行くってはっきりわかったから、行きたいって何よりも思ったから。
…あたしは全部許したし、許すのよ」
強い瞳で語るリナに見とれる。
―――宿をとる最初の時点から一つの部屋にする、というのが彼女の中の『線』で。答えだったのだと知る。
オレへの。そして自身との戦いへの。
彼女の身体を引き寄せ抱きしめた。
腕を腰に回す。そして何度も何度もゆるやかに唇を重ねあい、お互いが愛しくて吸い合い、甘く唇を噛み合う。
腰に回した指をそのまま裾からそろそろと彼女の服の中に潜り込ませればそれにリナが反応した。
「…っ…、言っとくけど」
あたしの感覚だとこういうの数年ぶりなんだから手加減してよね、と今更照れながらも注意してきて、今度はこっちが笑った。
唇もこうして触れる肌も馴染みすぎてるのに、自分にしか馴染まないようになってるのに、ちょっとだけ初々しい態度のリナが嬉しかった。
彼女の止まってた時間が動き出す。動かす。
「――――一緒になろう」
もう離さないから、と自然にでた再度のプロポーズの言葉に瞳を閉じたままリナが頷く。
「……指輪とかやっぱり必要かな」
「…っ…いらない」
オレが触る指にじれながらもそうはっきり言うリナ。もらえるもんは欲しいと言われるかなと思ったからちょっと意外だった。
もうもらったもの、とリナは自分の額のバンダナを指さした。
それは――――二十二歳の誕生日に彼女に贈ったものだった。
時を越えても身につけていられるように、少しでも自分が護れるようにと。
気休めでしかないと想ったが―――そう言えば、『レイ』の癖を思い出す。バンダナをいじる癖。
別れるときにはバンダナのある額を寂しげに――――けれど愛おしそうに触れていたことを。
こちらは贈ったときは意識してなかったけれど。あれは。
「……これに…あたし、ずっと護られてたのよ」
その言葉に、彼女の額の輪にと唇を寄せた。
―――何もできない、と思った。何かできることはないかとずっと想ってた。
でも彼女を自分が思ったよりもずっと、護り一緒に戦えたのかもしれない、と想うと嬉しくて笑みが思わずあふれた。
その夜―――更なる関係をオレたちは新しい時間に刻みつけ。
そして以前話したような未来に二人で―――ゼロから歩きだした。