Long Story(SFC)-長い話-

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―――目を疑った。

そんな、バカな。

 

みんなでサイラーグに着き、前来たときには多分なかったはずのダンジョンに入り込んだ。

進んでいくと、ゼロスがいて。撃退して。そして―――その先にはリナがいた。

二人。

一人は今まで通り。あちこちに現れたリナの偽者。

こちらを見て不敵な笑みを浮かべていた。

問題はもう一人。

その偽者の傍でクリスタルに閉じこめられ眠っている人間。

「リナ!」

思わずその名を叫び呼んだ。

 

―――すぐに、わかった。

理屈じゃない。眠っていても、なにも語らなくても気配と言えばいいのか、なんとなく感じた。

このリナは『リナ』だ。

自分があの時はぐれた時のままのリナ=インバース本人だ間違いない。

いや、しかしそれじゃあ―――

 

今まで一緒にいた『リナ』を見る。

寂しげな表情で―――けれど強い表情でそのクリスタルのリナを見つめていた。

気配。雰囲気。しぐさ。

――――彼女もやはり『リナ』だ。 

どうして―――。

 

「多くのコピーを倒して生き残ったあたしを倒せないとこの子は帰ってこないわよ、出来損ないの『リナコピー?』」

自信ありげに言うリナの偽者。

―――なにもわかってない。今ここで起きているおかしなことに、誰一人。

ここにいる『リナ』の偽者は一人だけだ。リナのコピー、は。

 

今まで一緒にいた『リナ』が偽者を倒す。

自分以外は手を出さないでというように率先して。

そして、偽者が持ってた賢者の石とかいうのを見つけるとそれを握りしめ彼女はクリスタルに閉じこめたリナをさらった大ボスらしい魔族―――その後現れた獣王に立ち向かった。

 

「よく戻ってきた―――リナコピーよ」

大ボスまで誤った認識をしていた。

何故わからないのだろうか。

「……わかったわ。あなたを倒さなければいけないことが!獣王、ゼラス=メタリオム!」

朗々と迷いなくそう宣言する彼女の瞳はやはり本物なのに。

 

戦いは―――正直きつかった。

何度か魔王だのと戦っているがどれもリナの必殺技があってのことだった。自分の剣戟は必殺と言うには乏しい。

ゼルやアメリアに期待したが、次々にダメージを受けて倒れた。

自分が戦ってるときに気配を感じた。一緒にいる『リナ』が何かをやらかそうとしているのを察した。

そう、このタイミング。読める。彼女の動き。ここでこちらは敵がリナがやらかすことを避けられないような間合いの戦い方にする。

視線をちらりと合わせる。まだ。もう少し…ここだ!

神滅斬(ラグナ・ブレード)!」

 

絶妙なタイミングでオレの剣とリナの生み出した剣が獣をぶったぎった。

この術は―――見覚えがあった。やはり。

 

「……倒した、のか…?」

「多分」

息を荒くへたりこむリナが言う。

「滅ぼしたか、はわかんないけど。簡単にすぐ出てこれない程度には力削いでるはず」

それを聞いて安心し、リナに手を貸そうか―――そう思いつつクリスタルの方をみれば、それはみるみる溶けて、眠っていた方のリナの体を押し出していた。

「リナっ!」

慌ててとりあえずはそちらの方を優先として駆け出す。

―――眠っている彼女を抱き止めた。

 

間近でみるもう一人のリナ。

やっぱり間違いない。こちらも―――

「……う…あ…?ガウ、リイ…?」

目を覚ましてきょんとする彼女。

こちらも―――リナだった。

 

 

混乱なんてそんな簡単なものではなかった。

けれど―――どちらにしろ『リナ』が帰ってきたことはとにかく嬉しかった。

 

―――『リナ』が帰ってきた。

自分の目の前に。一年ぶりに。

―――どうしようもない感情が止まらない。

 

―――宿をとり、終えた戦いの休養をとる。

夕飯をとる前に、リナ―――助け出した方の今まで離れ離れだったリナの元に行った。

一応、確認の意味もあった。再度見た時、自分の考えは変わるか―――

 

「夕飯、そろそろ食べないか、ってアメリアが」

「うん」

扉を開けこちらの言葉に返事してこきこき体を動かす彼女。ずっとクリスタルに閉じこめられていたからか体がなんだかぎこちないらしい。

…再度見て―――どうやっても自分の感覚は変わらなかった。

 

「ちょっ…!なっ…!」

宿屋のリナの部屋で彼女が驚くのも無視して抱き寄せる。

 

突然消えたと思っていたら―――魔族にさらわれていた、リナ。

仲間たちと力を合わせて先ほどなんとか倒し連れ戻した。

仲間がいなかったら助けた瞬間に無我夢中で抱きしめていたかもしれない。それをしないでギリギリのところでここまで止めてたのは複数の理由からだった。

リナが照れ屋でそういったことを嫌がること。じわじわとリナが帰ってきた事実が感情としてこみ上げてくるまでに時間が少しだけかかったこと。

―――そしてそれは、『リナ』という人物がそれまでもう一人自分たちの傍にいたためなのも強い。

 

 

「……お帰り、リナ」

まず伝えたかった自分の声は、言葉はどうしても重かった。

「……ただ、いま」

 

ここにいるリナとは違う『リナ』の姿が頭をよぎった。と言っても姿も声も何もかも同じもの。それがリナかそうでないかの違いはただの認識の問題だ。

今この部屋の何個か隣で休んでいるはずのもう一人のリナ。

そちらも本物の『リナ』。

 

 

どうしてもわからない。

どちらのリナも、リナで。間違いなくて。

どうなっているのか。どうしたらいいのかがわからない。

もう一人のリナは―――今まで一緒にいたリナはもうそろそろ真実を教えてくれるのだろうか。この状況の説明を。

気になって、食事はしたもののその中身は食べる傍から忘れた。

 

 

「両方、本物のリナなんだ」

――――食事の後、もう一人のリナに会いに行く前にゼルのところに行ったのはなんとなくだった。

後から考えれば、順番は逆でもかまわなかった。真相を彼女から聞き出してそれをふまえた事実を、前回一緒にいるリナが本物なのだと説明したゼルに伝える。

けれど足が自然にそれを選んだのは―――幸運だったと思う。

この順番だったからこそ、気づけたから。

 

ゼルはこちらの言葉にあからさまに呆れた顔をした。

今日使った剣の手入れをしながらという姿勢で、話半分にしか聞いてなのがわかった。けれど伝えた。

どちらもリナじゃなきゃありえないしぐさや雰囲気で、それは真似できないはずだと力説した。

けれどその時点ではやはりちゃんと聞いてはいないようだった。

 

「なあ、二人本物のリナが存在するってどう言うことだと思う?」

仕方ないので話の切り口を変えた。

ただただ両方本物だということだけ主張しても仕方ない。ならば自分が一番わからない部分を解決しよう。あくまで自分の主張は下げないままに。

ゼルは頭がよいからその答えをみつける気がした。

 

「…そうだな。一つにそもそもリナが双子だった説」

投げやりに、でもありうる案をやはり簡単に出すゼル。

苦笑した。それは自分も一瞬思ったが、リナには姉ちゃんしかいないはずだ。それは以前郷里(くに)で確認した。その姉ちゃんにも実際会っているから片方がリナの姉、というオチはない。

―――そもそも双子だってそれぞれ別々の人間だ。似てても同じ、はありえない。今回みたいな状態とは違う。

 

「あとは空間のズレか時間のズレか」

「……空間のズレと時間のズレ?」

「この世界とは違うリナが来た場合、だ。空間のズレは…よくは似てるが違う世界で全くここの世界と同じ人間が住んでる、なんて話聞いたことないか?……そうだな、鏡の向こうが実は同じように動く別の世界だった、そんな感じだ」

「よくわからんような、わかるような」

 

違う世界のリナ、というのはピンとこなかったが、そうすればリナが二人になる、という理屈は納得した。

そして続けて言うゼルの言葉に脳天を突かれたような衝撃と―――納得を覚えた。

―――この言葉を待っていたとさえ思った。

 

「時間のズレは簡単だな。過去か。未来か。()()()違う(・・)時間(・・)()リナ(・・)()来れば(・・・)本物(・・)()二人(・・)()なる(・・)

「……!」

 

それだ、と思わず間髪いれず口にしていた。

強い口調で。それは―――確信の強さにも等しかった。

それならわかる。再会した記憶をなくしたリナ。彼女自身なのに、どこか大人びて、魅惑的で、そして。

 

『あたしは、あなたのリナじゃない』

『あなたの愛している『リナ』は確かにサイラーグにいるの』

 

彼女の一生懸命にこちらに訴えた台詞。

あれは―――全て(・・)()知って(・・・)いた(・・)先に(・・)いる(・・)彼女の言葉。

 

「片方のリナは。…今までオレたちと一緒にいた方は未来のリナだと思う」

オレの言葉に、言い出したゼルの方が目を丸くしてこちらを見た。驚いたように。

そして何か考え込むように黙って。ため息ついて諭すように言う。

「あのな、ガウリイ。俺の失言だ悪かった。未来からなんて、そんな馬鹿な話が―――」

「あのリナが大人っぽいんだ。オレ、それは、さらわれて離れてた間があったからだって思ってたけど―――数ヶ月離れてて身に付いたもんじゃない。たぶん一年か二年、いやもうちょっと先かもしれない。とにかく…助けたオレたちの知ってるリナの『未来』なんだと思う」

「……」

「それなら納得行く。両方リナだけど、彼女は違う。この時代のリナじゃない」

「落ち着け」

言われてとりあえず言葉を止める。

「……もしそれが本当ならば、だ。何故あいつはそれを隠してる」

「言えないんだと思う」

 

先日のリナの会話をしている最中での突然の不調。

事情があるんだ、と思った。それは―――

「……『過去』に携わることによる制限、か」

ゼルが苦い顔をしながらもこちらの話に乗り出した。

ああ、と頷いて答える。

「過去を変えに…いや。過去を守りにきたってことか」

 

独り言のように言うゼルの言葉の意味が一瞬わからなかった。

けれどすぐに自覚する。

囚われていたリナを助けたのは―――オレたち、とは言いがたい。

彼女は―――自身を自分で助けにきたのだ。力が足りないオレ達を補佐する為に。

自分が助かるという選択の糸が切れない為に。

 

「……っ」

思わず立ち上がり部屋の出入り口へ向かった。

「どこに行く」

「リナに…未来の方に会ってくる」

背中越しに答えて部屋を出る。

 

話がしたかった。

何を話せばいいのかなんてわからない。でも。会いたかった。

彼女の正体が理解(わか)った今。

 

彼女の部屋の扉を叩いた。