Long Story(SFC)-長い話-

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「とある国へ行くのに、警護を頼みたいのです」

 

リナと同じ姿を倒し続け、それに疲弊しつつもあきらめず本物のリナの情報を得ようと探している最中にそんな依頼が舞い降りてきた。

何がきっかけだったのかはよくわからない。けれど過去、リナと会ったことのある人間からの経由だったと思う。

今のリナの行方と関係ないのなら―――と断ろうかとも思ったが、逆に少し落ち着いた方がいいかもしれない、とそれを引き受けた。もう何人彼女と同じ姿に刃を向けたかわからないから。

心は壊れていても、それでも毎晩苦しみ続ける。

 

依頼人――――タイレルシティの姫さんが狙われているのだという敵らしき輩はどうやらリナの偽者ではなさそうだった。

気持ちを変えたかった。迷わず護ることに剣を使える時間が欲しい。

丁度行き先であるフィガロシティの方向に進むつもりだったのも後押しした。

 

確かに変な輩に絡まれつつも、無事フィガロシティに送り届ける。

届けたところで――――姫さん共々いきなり牢獄に押し込まれた。

 

「どういうこと!?

誰でもなく姫さんがそう大声をあげる。

「つまりは…この城の中にも敵がいるってことか」

それくらいはなんとなくわかった。けれど姫さんは信じられないといった感じでうちひしがれる。

「…そんな…わたしたちどうなるのですっ」

「剣があればなあ」

鉄格子の向こうを見る。先ほど抵抗したら姫さんを殺すと言われ不本意にも奪われた剣は見えるところにあった。

一人一人の腕は大したことなくても人数が多すぎた。だから捕らえられるとき従った。

妙に冷静だった。今まで自分がリナと経験してきた事件のすさまじさで麻痺していたのかもしれないし、リナならばそうしていると思ったからかもしれない。

大丈夫。この程度なんとかなる。そう思うことが何より大事。

 

「なんとか、姫さん位の小ささならこの格子を曲げれば抜けられるかも――――」

言って格子をつかんだら予想外にがらがらがらとそれは動いた。

 

「……」

「……」

開いた牢獄の扉に思わず二人で沈黙する。

頬をかきながらその沈黙を破ったのは自分だった。

「…鍵、かかってなかったみたいだな…」

信じられない、という顔を姫さんはやはりした。

 

見張りがいなかったのも幸運というか杜撰でしかない状態。

やっぱりなんとかなった、と牢獄を出て自分の剣を握りしめる。

「ちゃんと依頼は果たすぞ。護衛は果たすから」

護るための剣を振るう。一番護るべき相手に会えるまで。

 

そう思って敵を倒しながら、彼女が会う予定だったこの国の王の元へ走る。

すると既に何人かがその場所にいて何者かと戦おうとしていた。

見覚えのある姿が最初に目に付く。黒髪の巫女。サイラーグでかつて出会った女性。シルフィール。

そしてその彼女の影になってたためにすぐに目に入らなかった人物に気づき――――目を見開いた。

 

――――――リナだった。

 

シルフィールのそばにいたからではない。その要素は少しあるかもしれないが――――とりあえずその場の敵と一緒に戦うことになり、その戦い方などから確信する。

リナだ。本物の。間違いない。

 

戦いを終えて――――誰よりも最初にリナを見る。

――――今までどうしていたのか。

どうしていなくなったのか。

いろんな言葉が頭をよぎるが感極まって何も今は言葉にならない。

 

リナ以外見えなかった。だから、彼女の腕をつかむ。必死に。

もう逃がさない、と。リナは驚いた顔をした。

「さっさと行こう。シルフィールは苦手なんだよ」

二人きりに早くなりたくて適当にそう言いその場を急いで去る。

 

「ガウ、リイ…?」

突然すぎたか戸惑った顔の彼女に早足の速度を変えないまま、後ろを向いて笑む。

「…やっと見つけた」

 

本当に――――やっと。出会えた。

 

「あのっ…!ちょっ…!報酬がっ」

そうわめくリナ。オレの方もまだもらってなかったけれどそんなのはどうでもよかった。

彼女に再会できたことが何よりの報酬だった。よかった。これで。これで彼女の側にいられる。

 

「待ってっ…その…っ!ねえっ」

先ほどの町を出ても、未だに抗ってわめく彼女を見る。

未だに離さないこちらに困った顔をしていた。

 

「……リナ」

少し落ち着いてきた。余裕なさすぎた。足を止めて彼女に向き合う。

まずは何から訊こうか。どうして消えたかだろうか。

――――けれどやはり冷静さを欠きそうになる。

抱きしめたい。おかえりと彼女に囁いて、そして――――。

 

「……ガウリイ」

久しぶりに見るリナにどきどきする。

自分の名前を弱々しく呼ぶその表情がやけに色っぽく見えた。

この数ヶ月で大人びる何かがあったのか。それとも単純な自分の感情の暴走か。

一生懸命理性を総動員して何かを言いたがる彼女の言葉を待つ。それを聴いたら、こちらもゆっくりとすべて、言いたいことを言ってしまおうと思う。何からなんてどうでもいい。思いついたことを。リナならわかってくれると思う。どんなに支離滅裂になったとしても。

 

リナが――――口を開いた。

 

「……ガウリイ…ごめんなさい。あたし、記憶を失っているの」

 

――――一瞬言葉の意味がわからなかった。

首を傾げると彼女は重ねて言葉を紡ぐ。

 

「何もわからないの。自分のことも、あなたのことも。…あなたのことはシルフィールから聞いていたけど」

言ってこちらがつかんだ腕を、その言葉に呆ける間に抜け離す。

「あたしが自分の名前もあなたの名前も知っているのはたまたま会って一緒に旅することになったシルフィールが教えてくれたから。

彼女が教えてくれたこと以外は――――知らないの、わからないの」

 

その言葉を――――理解するとともに少しずつ目の前が暗くなっていく感覚に打ちのめされた。