Long Story(SFC)-長い話-
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「なんか、おかしなこととか、やっかいごとの噂知らないか?」
自分でもどうかと思ったが、あえて情報収集の際にはリナ=インバース―――栗色の髪の女魔道士の噂と、この二つを訊いてまわった。
大抵は苦笑された。
「自らやっかいごとに首突っ込む気かい?兄ちゃんよ」
「物好きだねえ」
口々に言われる。
けれどリナを探すならその方が手っとり早いのを知っていた。彼女はそう言うものに関わる率が圧倒的に高い。もし何かが起これば、それと彼女が何らかの形で関わっている確率も高いだろうと思った。
――――目の前から消えたことそのものが多分、何かに巻き込まれている証拠なのだろうから。
彼女が消えてもうすぐふた月近く経つ。
長いような短いような。日付の感覚が怪しい。
ただひたすらに聞き込みばかりしている。
「たまにはあんたがこういうことしてほしいんだけど」
一緒にいた時リナが呆れて言っていた声が恋しくて頭に響く。
「でも、無理か。何にも考えてないし、ガウリイ」
考えてない分訊くことは限られる。余計なことは要らない。
トラブルの噂を聞けばとにかく何も考えず首を突っ込んでみた。そうして違うことを知り落胆する。
違う事件を解決し感謝されたり、何故だか怒られたり。
そんな中で異様な気配を感じとれば速急に声を虚空に張り上げた。
「―――いるんだろ?出て来いよ」
それを合図に人ではないものが自分に姿を表す。
本当にめちゃくちゃだった。
リナだってこんなめちゃくちゃな無謀さは近年減っていた。
それでもとにかく血なまぐさい場所に飛び込んでは剣を振るい――――一人魔族にわざわざ喧嘩を売った。
出会う魔族は何も知らないと言う。絶望的な台詞を言うのは魔族故なのか。本当に知らないのか。
魔族を倒した後、この血は誰のだったっけ、と自分にまとわりつく黒いものを見て思ったりもした。ああ、そういや魔族は血ないんだっけなんて人事みたいに思って、意識はとぎれる。
目覚めると通りすがりの医者だとかそんなのに助けられて怒られる。どうやら怪我をしたらしい。
けれど自分のことなのにひどくどうでもよかった。
すぐにでも探しに行く旅にでたかった。
リナ。リナ。リナ。
とにかく何をしてもリナがいないという事実だけしか考えられなかった。
日が過ぎていけばその分嫌な予感も増していく。
彼女はどこにいるのだろうかとやみくもに思っていたのを過ぎて、彼女の無事だけをただ――――祈っていた。
それだけ手がかりがなく追いつめられ―――半年が経過したところに唐突にリナの―――リナらしい情報が入ってきた。
その情報はおかしなものだった。
複数の場所で同時に同じ内容のことが起きているという。
栗色の髪の女魔道士が無差別に町や村を攻撃し暴れまわっている、と。
「それなら俺がいた村でもあったぞ。十日前」
食堂で話を聞いていたせいかたまたまそこにいた旅人たちも話に入ってくる。
「十日前にこっちの村でも被害にあったぞ」
「でもおかしくないか?あんたの村と俺がいた村じゃ場所が離れすぎてて移動したにしても」
「でも栗色の髪の小柄な女だよな?間違いない」
「おれがいた町でもそのくらいの時期だったしその特徴だった」
人数が増え証言が増えれば増えるほど混乱しそこにいる誰もが首を傾げた。
けれどそれでも嬉しかった。
やっと手がかりらしいものが浮上してきた。どんななのであっても。
リナが関わってないはずがない。
どこに行けばいいのかわからないが、あちこちに現れているのであればその辺の町や村に適当に行けば会えるのだろうと強く思った。
こう言うときの自分の勘は当てにできる。行く先に期待した。
どぉぉぉぉん!
大きな爆撃音。
宿から即座に剣を携え出る。
外の被害は甚大だった。倒れている人も多い。
それを見て――――リナであって欲しい自分と、いやリナじゃない、リナであるわけがないと思う自分が同居した。
彼女の使う魔法は強い。確かにこれ位簡単にできるだろう。けれどできるのと無意味にするのとは違う。
爆撃音のする中心に駆け寄る。
そこには――――彼女がいた。
リナと同じ姿の人間が狂気じみた表情で――――人を殺していた。
心が凍る。
リナ、とは呼ばなかった。リナではない。
そう思いたいだけではない。操られているというわけでもない。別人だとなんとなくわかった。目の前で人を無差別に傷つけている彼女の戦い方に、リナの癖や気、歩き方どれもあてはまらない。
けれど何故こんなに似ているのか。
彼女はオレに気づくと、ふふふ、と妖艶に笑った。
完全に別人だった。
「あなたもあたしの邪魔をする?」
呪文を唱え出す彼女と同時に、剣をこちらも抜いた。
話を聞きたい、と訴える。
何故、こんなことをするのか。誰なのか。何故リナと同じ姿なのか。
――――リナはどこにいるのか。
けれどそれに答えは返ってこなかった。
「知る必要はないわ。何より――――ナンセンスね」
だってあたしがリナだもの――――
そんな要らない言葉が凍り付いた心に響く。
響いて――――彼女に剣を向ける覚悟をする。
顔をなるたけ見ずに、見えない位置から素早く―――彼女を倒した。
最初は手加減した。傷を負わせるだけ。戦意喪失してくれればいい。役人にリナの偽物として引き渡せばいい。
けれど、それは甘かった。
「・・・・・・馬鹿ね、あの時とどめを刺さないなんて」
数日後、傷を治し、オレが引き渡した役人すら殺して再度同じ事をした彼女に出会った。
迷いや戸惑いを捨てて今度は二度と動かないようにする。
リナと同じ姿をしていてもリナではないのだから。
「・・・・・・ああ。悪かったな」
血まみれで動かなくなった彼女に向かいつぶやく。
二度手間を負った。
彼女を楽に倒せればいいのに、動揺から事切れるように剣を振るうのに時間がかかった。返って、残酷なことをしている。
目を閉じて何度も唱える。リナじゃない。リナじゃない。
それでも彼女への罪悪感はどこかにあった。少なくとも
本物のリナに見せられることじゃない。
心は凍り付きすぎて壊れた。
――――実家を出る前の感覚を思い出した。忘れられればいいのにできるはずもない罪。
今回に限っては――――これが始まり。
「―――あなた誰」
「リナはどこだ」
その後も、あちこちでリナと同じ姿に出会う。
全員偽物。何故か全員が同じ事をしている。無差別な殺戮。町の破壊。
「リナは――――本物のリナはどこにいるんだ」
全員に問いただし、止めようとする。けれども結果は同じ。
瞳を閉じて、これはリナでないという呪文を唱えながら動揺をなくして、なるたけ苦しまず一瞬で終われるような斬り方を遂行した。
会う度に、最終的にはその結末を迎えた。
「・・・・・・全員倒せば、本物のリナに会えるかもしれない」
思いついた根拠のない理論にすがる。
けれどもこうなれぱもう、すがらなければ何も手がかりがなく、自分には何もなかった。
そしてそんなことを続けた数ヶ月後――――また転機は訪れた。