Long Story(SFC)-長い話-
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――――それは、よくあることだと思った。
実際に何度そんなことがあったか、と言われたらわからない。少ないかもしれない。それでもとりたてて異質な状態だとは認識しなかった。
相手は盗賊。森の中。囲まれた。
リナがあの日でさえしなければ呪文で一発で済んでいただろう。しかし今の環境でもとりたてて心配する必要はないと思った。
相手の気配で分かる。人数もその強さも。
気配を感じさせないほどの人間―――が配置している可能性もあったが、自分の勘がそれを否定していたし、何よりリナ本人に確認した。
「大丈夫か?」
隣にいる彼女に小声で一応問いかける。大したことなさそうとはいえ人数はかなり多い。
「平気でしょ。剣で突破ね」
わざとでもなんでもなく軽くいつもの強い調子でいい、肩をすくめると彼女は周りを見渡し自分の剣に手を添えた。
リナが走り出すのを合図として動き出す。
盗賊も自分達の存在をこちらに知らせるように姿をひとり、ふたりと見せだした。
「はあっ!」
一応手加減をして剣をふるう。
リナとしては多分、それぞれが人数の半分ずつを相手して突破する考えだったかもしれないが、彼女が弱っていることを一応視野にいれたなら自分ができる限り相手すべきだと思った。
だからあえて彼女に向かう盗賊から片づけていく。リナをかばうように。
「……」
何か言いたげではあったけれど無言で走りながら彼女は剣で前の道を切り開く。
そのうち盗賊達もリナよりもこちらに集中して近づいてくるようになった。
足を刹那止めて相手する。それによってリナが前へ前へと進む。
けれどそれは好ましい状況だと思った。自分は盗賊達を倒した後から追いかければいい。
追いかける、つもりだった。
「――――?」
一瞬のことだった。
彼女が不意に自分の視界から消えた。
木の影に隠れたのか―――と思いながらその時相手していた盗賊を倒すとすぐに駆けだした。
――――――が。姿はなかった。
「き…消えた!」
言ったのは残りの盗賊。
まさか。そんなわけがない。
きっと魔法で空を飛んだとか自分が思いつかない手段で姿をくらましただけだ――――そう言い聞かせた。
冷静に考えれば彼女の体調からすれば、そんなはずがないのに。
急いで周りの盗賊をすべて片づける。
「――――――リナ」
誰もいない森の中彼女の名前を呼び、辺りを探す。
「リナ!」
空を見る。鳥すら飛んでいない何もない空。
風が微かに吹く以外は静かすぎて音がない世界。けれど前魔族だかに封じられた別の世界とは違い、その微かな風の冷たさだけが彼女といた時からのものだから確かな現実を示していた。
――――絶対すぐに見つかる。これは彼女の作戦だ。
そう言い聞かせながらも段々と冷静に、焦り出す。
おかしい。まさか盗賊にさらわれて。いや、そんな気配なかった。それじゃあ。
いつまでたってもリナのいない森を、仕方なくぬけだし向かうはずだった町に走る。
彼女が笑って待っていてくれるという淡い期待を抱きながら。
でもその期待はやはり砕ける。
何が起きたのかをどうしたら知ることができるのかと思った。
何が起きたのか――――その全貌がどれだけ大きなものなのか、把握できるはずもないこともその時はわからずに。