「ガウリイさんは無事よ。みんな無事」 目が覚めて、傍らにいたらしいアメリアが第一声にそうあたしに言った。 正直起きがけで頭がうまく働かず、何がどうだったのかを思い出すのと同時にその言葉を自分の中で反芻する。 ガウリイは、無事。 「本当なのっ?」 がばりと起き上がる。 どこかの宿屋の一室らしい。 そうだ。あたし達は、三体目の魔王と戦って…。 ―――ガウリイが右腕を二の腕からもがれて。 あたしは禁呪を唱えて。魔王がどうにかなったところで気を失って。 あえて魔王がどうなったとか、ここがどこかを言うよりも先にガウリイの無事を伝えてくれるのがアメリアらしい。 そしてその配慮はすごく有り難かった。 頷きながら彼女は苦笑して言う。 「こう見えても巫女ですから。あの後すぐ持てる限りの治療呪文使って腕と指を繋げて。今はちゃんとした魔法医のところでチェック受けてもらってるわ」 「…指もやられてたの?」 「右腕は見ての通りだったけど、ガウリイさんあの刹那で抵抗しようとしたのね。動いたせいで左手の指が二本、右腕の巻き添えで」 その説明に思わず顔がこわばる。けれど、だから無事だって、とアメリアが笑ってフォローし、それにあたしも小さく安堵のため息をついた。 「結局、何がどうなったわけ?」 やっと余裕が出て思い立ち言ったあたしの台詞に、さあ、と肩をすくめるアメリア。 「理解許容範囲外。リナが何か呪文を唱えて。引き続いてあの子が同じように別の何か呪文を唱えて。それで闇がひろがったと思ったらびっくりするくらいあっさりと倒せちゃってて」 やっぱり正義は勝つのね!と握りこぶしでポーズをとる。 ちなみにあの子、と言うのは他でもない、あたしのコピーである彼女のことだろう。 なんだかんだで、別に今のところ困ってないしと言い彼女は未だ自らの名前を決めてはいない。けれど本人より困るのば呼ぶ側だったりする。ってそれは今はさておき。 アメリアはあたしの禁呪を詳しくは知らないはずだからそうとしか表現できないらしい。結局あたしはどちらで唱えたのかは、だからわからずじまいである。 完全版、の方だとしたらよく制御できたもんだと思う。 でも逆に、不完全版だとしたらよくそんなんで北の魔王を倒せたもんだな、と思う。何か別の要素が手伝ってくれた以前の経験と違って。 それともあたしとは別に術を放ったと言う彼女が、その要素となったのだろうか。 ――――とにかく無我夢中だったから。 自分の銀色に染まった髪を見つめて、生きてることを今更実感する。 「リナ」 がちゃり、と部屋の入り口の扉が開くと、現れたのは。ガウリイ。 アメリアが言ったとおり元気そうで、ちゃんと両腕がついている。どこかぎこちない、といった感じもなさそうにその手はドアのノブを回した。 「目が覚めたのか?」 黙ってあたしは頷く。 「じゃあわたしは邪魔にならないよーに下にいるわね。リナ、食欲出て支度できたら食堂に来てねー」 ミョーに嬉しそうにぴらぴらと手を振って変な気を使ってアメリアが入れ替わりに去る。 昔っからこーゆーおせっかいなところは変わらない。 「だいじょうぶ、か?」 ガウリイがあたしの髪をくしゃりと触り、その色に不安そうな表情を浮かべる。 「それはこっちの台詞」 あたしはその髪を触れる腕をにらみつける。 もちろん間近で見てももがれた痕なんて残ってないけれど。 「アメリアのおかげで、問題ないみたいだぞ。見てもらったけど」 ほら、とわしわしとその腕は、指はあたしの頭をなでる。 それにすごくほっとして、感情が昂ったのを一生懸命隠そうとするものの彼にはばればれらしい。あたしの顔を見て笑った。 これだけ長い付き合いだと、大抵の事はばれているような気がする。 よかったわね、とあたしはそっけなく言った。彼から目をそらして。 ばればれだとしてもそれを口にして認めたくはないのだ。これはあたしの性分なんだから仕方ない。彼も似たようなところがあるのを知っている。 わかってるからこそ、理解しているからこそ、あえてお互い深く語らない。 「まだまだ、旅して見てみたいところいっぱいあるんだし。もし治らなかったら置いていくところだったわ」 おいおい、とあたしの憎まれ口に突っ込みを入れる彼。けれども怒ってないのはやはりあたしが本気で言ったわけでないのを彼は知ってるからだろうと思う。 ―――本気で言ったわけではなかった。そんなの当たり前だし、だからこそ言えた事のつもりだった。 その時は。 「大丈夫だから」 そう言う彼に疑いなんて、持たなかった。 続き等が気になる方は是非本のほうで。 |