あたしの郷里、ゼフィーリア王都、ゼフィール・シティ。 ――街に入って、一番最初にガウリイが注目したのがそれだった。 「なあ、リナ、あれなんなんだ?」 言われて彼の指差す方向をあたしは見る。それは歩いてる人たちの手元。 色とりどりのブレスレットをしていた。もちろん彼が注目する位だから一人や二人じゃない。 あたしは一瞬眉をひそめたものの、その形に記憶の底に思い当たるものを見つけて、ああ、と納得する。 「お守りよ。お守り。ゼフィーリアで古く伝わる工芸品」 「お守り?」 「……と言っても本当昔話で、今はもう誰もやっちゃいない…はず、なんだけど……」 後半言葉が思わず消えた。 してない人が少ないほどそれをしている人が目立ったからである。 「お前がいない間にディックのやつがその『昔話』を復活させて商売に転化させやがったんだよ」 家に着いて落ち着いてから、父ちゃんに街でのことを言うと機嫌悪そうに、そう、答えた。 機嫌が悪いのは他でもない、帰ってきたときあたしの隣にいた自称保護者のせいである。そりゃ、娘が男連れで帰ってきたんだから仕方ないかもしんないんだけど。 けどもともとこの二人知り合いだったことが先ほど判明。 対面したらお互いが、「どっかで会ったような」「そういえばお前」「誰だっけ」としばらく顔見合わせて探り合ってから間の抜けた再会を果たしていた。びっくりと同時にあたしが呆れたのは言うまでもない。 知り合いならいい顔して迎えてやればいいのに、と思う。何かやらかしたんだろうか。もちろんこの場合は機嫌の悪くない方のガウリイが。 それとも単純にあたしの、ブドウ目当てのただの旅の連れ、という紹介を鵜呑みにしてくれてないのか。 そう。ブドウ目当て。 ガウリイはそう言った。女の実家に行きたいなんて台詞を妙に押しが強く言って、一体何考えてるんだとここにつくまでにどれだけどぎまぎしたことか。でも当の彼の様子はちっとも何も考えてないようで。いつものまま。 ――――となるとそれを信じるしかないと言うかそれが本当に全てなんだろーなーと言う結論にここにくるまでにあたしとしては至ったところ。 だから。考えるだけ無駄なのに。ガウリイの何にも考えてない度合いがどれたけのものかまでは知らないってことなのか。 母ちゃんはガウリイを見るなり、挨拶もそこそこに、あら父さんより役立ちそうねとにこにこしながら有無を言わさずガウリイを引っ張って店の倉庫の方に行ってしまった。もしかしてそれが原因か父ちゃんの不機嫌。 そんなわけで残ったあたし達は店番。ちなみに姉ちゃんはいつも通り近所のレストランでアルバイト中らしい。 話を元に戻す。 父ちゃんの言う、ディックというのは近所の土産物屋のおっちゃんの名前である。ブドウの名産地という事でそれ目当てにそれなりにこの町には観光客、というのが集まってくる。となるとそこから入る収入というのはかなり大きい。まあ、うちみたいな地元の人間向けの普段使いの雑貨屋ではあんまり左右されないのだけど。 ブドウを加工しジャムやワインにして売る専門の店もあれば、それにちなんだ工芸品を作って売る店もある。ディックのおっちゃんはその、後者のタイプの店を経営している。 ただ前は確か、木彫りの電撃竜だとかそういった誰が買うんだってデザインのものばかりあのおっちゃんの所は作ってた記憶があった。随分な変化である。 あたしが釈然としてない表情をしていたせいか、父ちゃんはこそっと小声で言う。 「……あまりに前のは売れなくて、経営難に切れて女房に逃げられかけたんだとよ」 なるほど。 「…でもあれじゃあ確か――昔話の通りの効き目ないと思ったんだけど」 「その辺はどうでもいいんじゃねえか?売れれば。安物でも綺麗な石ばかり使うんで観光客だけじゃなく結構この辺の連中もおしゃれとしてしてるみたいだしな」 「なあ。昔話ってなんなんだ?」 木箱を担いでガウリイが戻ってくる。子供のようにわざとらしくそっぽを向く父ちゃんに呆れてあたしはガウリイに木箱を置く場所を指で示す。 「昔ゼフィーリアを出て商売に出た男がいて、旅の無事と成功を祈ってその家族がその時代にはこの辺でよく取れた鉱石を編んだ革紐で巻いてブレスレットにのお守りとして渡したらしいのよ」 あたしは大雑把に語る。大雑把なのは他でもなくあたしもちゃんと覚えてないから。 「で、それを腕に巻いて旅に出て…なんかいろいろ苦難があったものの、寸でのところで助かるわけよ。みんな。で、その腕に巻いてたのが革が擦り切れて自然に壊れたとき、商売も成功して願いを叶えた男は無事戻ってくる―――そんな話」 「へえ」 「まあ、そんな言うほどの苦難に何度も見舞われたんならその時に普通そんなもん壊れてないかと思うがな。結構脆い石だし」 父ちゃんがもっともすぎることを言う。あたしも子どもながら聞いた時そう思った。まああえて突っ込まないけど昔話だし。 「……で、それから、その家族が作ったお守りを、同じように作って自然に切れるまで大事に身に着けていれば切れたとき願いは叶う―――って話。ただその後その時使った鉱石があんまり取れなくなったらしいのよね」 金やオリハルコンほどの希少価値でないにしろ今や高い価値を持つそれは華やかさには欠けるような地味ーな石である。磨けばそれなりに綺麗な青碧色になるのだけど、けれどあくまでそれなり。ありふれているならば、安いならばともかくそうでないなら誰もわざわざ手に入れようとはしない。 それであくまで話のみ残った、というわけである。あたしは大雑把にしか覚えてないけど代わりの石では駄目なのだ、というくだりがあった記憶があるのだが……まあ父ちゃんが言うようにそれに忠実である必要はないのだろう。 「でも確かにターゲットは旅で来た観光客なんだから、旅のエピソードに着目したのは賢いわよねえ。石の部分はともかくとして皮の部分はゼフィーリア子牛の皮使用とかちゃんと名産品を使って作ってるし。うちもあれくらい観光客相手にも対応できる何か考えたほうがいいかしらねえ」 遅れて軽めの木箱を持って母ちゃんがやってくる。話は聞こえてたらしい。ガウリイが置いた箱の傍にそれを置き、ふう、と一息。 「さて。言い忘れてたわね。お帰り―――リナ」 そしていらっしゃいゼフィーリアへ、と言う。これはもちろんガウリイに。 その声になんだかほっとした。懐かしさがそこでふっとこみ上げる。たった数年ぶりなんだから大げさかもしれないけれど、それでも。 ―――ここに帰ってきてよかったと思った。 「店が終わったらゆっくり話聞かせて頂戴。ほら父さんいつまでも仏頂面してないの商売商売っ」 昔と変わらない笑顔でやりとりする父ちゃんと母ちゃんにあたしは自然に笑み、ガウリイをふと見れば彼もまた柔らかくあたし達を見て笑んでいた。 続き等が気になる方は是非本のほうで。 |