その夢は目覚めるのを待っている  1章(途中まで)









「――――悪夢?」

食堂で朝食を食べている最中に、料理を運ぶ宿屋のおばちゃんが何気なく言った言葉にあたしは眉をひそめる。

「ああ。昨日他の宿の人間が説明しなかったかい?」

この辺りでは何故か一斉に全員が悪夢を見る日、というのが定期的にあるのだという。

定期的にとはいっても三日間のうちに一回とかそういう意味であり、いつ見るかはわからない。

 

「なんかの呪いなんじゃないかとかいろんな噂はあるんだけどね。調査するより、そもそも夢をみなきゃいいって解決法のが先に出ちまって結局そのままさ」

ベッドの傍にブルーリーが置いてあっただろう、と言われる。そういえばあったよーな気もする。

 

「サービスとして置いてあるんだよ。そこに簡単に説明書きはしておいたんだけどね。安心して寝られるようにご使用くださいって。…あんた使わず寝たのかい?」

「…いや…まあ…」

思わず昨夜のことを思い出していてもたってもいられなくてあさっての方向をみて誤魔化すあたし。

そんなのに気を回す余裕なかったというかまともに寝てないというか。うああああ。

ちらり、とガウリイの方を見れば彼も照れたような困ったようなそんな表情を浮かべてる。

 

「まあ、悪夢を見なかったならいいんだよ。昨日はたまたま見る日じゃなかったってことだろうし」

なんなんだろうねえ、とため息つくおばちゃんに、一瞬だけあたしはそういえば―――と昨夜刹那に見たものを思い出していた。

 

のどかな山道。ゆるやかな上りが続いてる。

いつもよりゆっくりとあたしとガウリイはその道を歩いていく。

 

「……リナ」

「…んー?」

「……大丈夫か?」

言いにくそうに、それでいて心配そうに言うガウリイ。あたしはあえて隣の彼の方を見ずに言う。

「…まだ変な感じだけど。心配しなくていーから」

思わず小声で言う。

初めては痛いとか噂にはきいてたけど、確かにというかなんというかそれよりも感覚が行為を終えた後でもこうして未だに妙に残るのは勘弁してほしい。

 

――――後悔はしてないけど。

 

キスとか、そういうことを徐々にするようになって、いつかはそれ以上のことをするだろうと思っていた。

それが、いつからか、するだろう、から、してみようか、になった。実験というかなんというか。いつかはそこにたどりつくならばそろそろしても別にいいんじゃないか、どうかとか。そんなような話になってきて。

ムードに流されてとかじゃなくて、わざわざお互いが恥ずかしいと思いながらも必死な顔してそんなことを話した。あたし達らしいのかもしれない。なんてゆーのかそんな色っぽさ難しいというか。

 

そして――――昨日ついにそれを決行することにした。

もうどきどきして死ぬかと思った。ガウリイが思ったより始めの方たどたどしかったのがなんだか嬉しかった。

あたしと違って経験あるんじゃないのか、と突っ込んだら、それなりにあるけど惚れた相手と、しかも自分からしたことはないからと言われたときはどーしよーかこの男と思ったけど、一生懸命にあたしを感じさせようとさぐりながらもどこか慣れたように触れてくるその優しさに、多分言ってることは良くも悪くも本当なんだろうなとわかった。

体格差もあってガウリイがとにかく必死だったと思う。

それでも恥ずかしさも緊張も一方的でなくお互いが溶かしていって――最後までちゃんと行為に及んだ。

 

で、結果今あたしは大変に歩きにくい。というか下腹部がこころもちないというか。

本当は睡眠不足もあって、もう一泊あの町で休みたかったのだけど、そんな悪夢を見るかもしれないブルーリー必須の町で長居はしたくない。

実際少しだけ多分見てしまっている。確かな悪夢を。

もう思い出したくもないけど。

 





プロローグだけではわかりにくいかなということで1章途中まで。
さらなる続き等が気になる方は是非本のほうで。




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