―――初めてくちびるを重ねあった日にあたしはガウリイの郷里がどこにあるのかを知った。 直接は関係ない。ただ単純にそれが同じ日だった、というだけ。 言ってなかったっけ、と彼は照れたように、どこか気まずいように笑ったのを今でもはっきりおぼえてる。 ―――そして彼と初めて体を重ねた今、あたしは夢を見ていた。 夢だとしたのは他でもない。夢であってほしいと思ったし、その場面が唐突すぎたからだ。 ――殺風景な場所に佇んでいた。 砂埃がひどい。記憶にない場所。空が低い。 手には何故か馴染んだ剣を携えていた。 「……」 ぼんやりと空を見る。青い。でもどこか褪せている。 足下には―――ひび割れた大地で、人が倒れていた。 赤黒い液体にまみれて。 男だ。かなり背の高い金髪。それはまるで――― 「ガウリイっ!」 あたしはその死体に悲鳴のような声をあげる。 「リナ」 名前を呼ばれて我に返る。―――目を覚ます。 目の前には心配そうなガウリイの顔。本当に目の前。彼に抱きしめられ、絡みついているのだから当然だ。 暗い部屋の中にいる。まだ夜中らしい。 やっぱり夢だったことと、その夢を見る前のことを思い出していたたまれなくなる。 …あー。 「…変な夢でも見たか?」 いつもの調子で彼はあたしの顔をのぞき込む。 お互い裸のままで。服を介さない肌の感覚が慣れなくてくすぐったい。そして体中がというか下半身がというか芯からなんともいえない違和感があるような変な感じだ。 ん、と曖昧な返事をしてあたしは再び瞳を閉じる。 「ごめん。寝ちゃった、みたい」 一応最後までの記憶はあるつもりだけど、あんまりな感覚にわけわかんなくなってたからどこからどこまではっきり意識があって認識できるかと言われるとアレだけど。 けどこういう時そのまま寝てしまったのがいいのかわかんないからとりあえず謝る。 けど彼は、いや、と心配そうに言う。 「ちょっと初めてなのに無理させたから」 慈しむようにあたしを優しく包み込む。くちびるを寄せてあたしに触れる。 酒の勢いでも一方的にでも何でもなくあたし達は時間かかったもののこうなった。 感情がとめどなく溢れて泣きたくなる。けして悲しみではなく逆の感情。 すき、という言葉を紡いでから、交わしあってからどれくらいの月日を費やしただろうか。 ―――こんなに満たされた夜は今までない。 なのにどうしてそんな怖い夢を見たのか。 大丈夫よ、と小さくあたしは言う。 どちらからともなく優しくくちびるを触れあわせる。離して顔を見合わせると今更お互い恥ずかしいというか照れが出てきて笑ってしまった。 ――――彼の全てを知ったような、教えられたようなそんな気分になれた。 それはもちろん錯覚なのはわかってた。 ―――誰にだって自分の中に自分すら知らない部分がある。彼にも。あたしにも。 そこまで踏み込んだすべて、なんて知りうるわけがないし知られたいわけじゃない。だから、それ以外の全て。それはきっと全てにほぼ等しい。あたし達はそれでいい。 そう、思っていた。 けれど―――それはその時既に始まっていたことに気づいてない事件で――違うのだと気づかされた。 続き等が気になる方は是非本のほうで。 |