見つめる



 

 

……あ。また。

そんな感じで、ふ、と。とあることになんとなく、気付いた。

 

「もう支度してるのか」

 

あたしの部屋を訪れたガウリイが荷物を詰めているあたしを見て言う。

明日には思ったより長々といた郷里(こ   こ)を出発することにした。

目的地は決まってないけどまた旅に出よう、と色々考えてそれをあたしはガウリイや家族に伝えた。誰も異論とかはないようで、その準備を早速していたのである。

何しろ実家に落ち着いてると別にモノには困らない。まあうちが雑貨屋のせい、というのもあるけど。

しかしそれに甘え慣れてしまうとこれが結構大変だったりするのだ。旅の荷物の基本は最小限だと言うのにどれも必要な気になってくる。服とかどうしよう。

 

「あんたも早めにやっときなさいよ。明日出る間際まで支度してなくてばたばたしてたら置いてくからね」

そうあたしが言うと苦笑するガウリイ。そしてあたしの頭を撫でてきた。

「……何?」

「いや。やっぱしお前さん旅好きなんだな、と思ってさ」

何を今更、と思いつつ聞いてなかったことを思い出してあたしはガウリイに問う。

「もしかして…まだここにいたかった?ブドウが食べたりないとか。あんた何も言わないから明日って決めちゃったけど」

「あのなあ」

別にお前さんが決めたんならそれでいいと思うぞ、と彼は笑む。

……あ。

 

「またいつでも戻ってくればいいんだしな。気が向いた時」

「……そだね」

 

戻ってくれば、と彼は言う。

ここに来る前に言っていた雰囲気通り、自分の郷里の様に思ってくれてるらしい。

彼にとってそう思ってくれる場所になったのはやっぱしここが本当の郷里のあたしとしては嬉しい。

 

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 キモチ

 

 

「ガウリイ。洗濯一気にやっちゃうから洗濯物出して」

 

夜。宿屋の彼の部屋に訪れて、あたしは彼が既に宿屋のパジャマに着替えてるのを目で確認ながら言う。

普段旅をしているあたしたちが服を洗うのはこういう時間しかない。で、次の日までに着られるようにするには結構魔法に頼ることになる。弱火炎系の呪文を使って。

…まあ、洗う行為そのものは自力でやるしかないんだけど。風の呪文とか組み合わせたら楽できないかなーとは思うんだけどなかなかうまくいかない。

ガウリイは言わないと着られるから見た目汚れてないし別にいいやと汗とか気にしないタチなので、前は促して二人で一緒にやっていたのだけど、思ったより手際が悪くて見てらんなくなり結局あたしが担ってる。

こういう生活に直結した行為って多分それぞれにやり方があるんだろうなと思う。だから一人じゃない状態でやると他が目につくと。

世の中の奥様はそんな理由で楽したいと思いつつ相手に頼めず全部家事を自分が担ってしまってるのではないだろうか。いやあたし奥様じゃないけど。違うけど。全く違うけど。……今のところ。

 

「ついでにほつれてるとことか危ないとこ、直しとくから」

「おう。ありがとな」

言って彼は先ほどまで着てた服をあたしに渡す。ちなみに下着はもちろん別で本人に洗ってもらってる。さすがにそこまでは。

しっかりした服の重みに安心する。よしよし。

「明日の朝渡すわ」

言ってあたしは部屋を出た。

 

「…そろそろ危ないかなって思ったのよね」

そんなひとりごとを呟きながらあたしは洗う前に彼の服を自分の部屋でまさぐる。

手探りで以前手を加えたところに触れる。あ。糸弱ってる。


その糸をそのまま指で無理やりひっぱって穴を開けた。そしてその先に指を滑り込ませる。

指にあたる硬いものを引っ張り出した。つまんで出たものをあたしは見る。

―――以前からと変わらない輝きを金貨(・   ・)は見せた。

 

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照れ屋

 

 

どどどどどどどどどどどどどどどどどどど。

 

今のあたしの頭の中を占めることばひともじ。

いや、正確には「どうしよう」のエンドレスなのだけど、そんな言葉の違う五文字を繰り返せる余裕はないっていうかあるわけがないというか。

どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど。

理由はあたしの自称保護者。

ここんとこ動揺することは多々あったし、恥ずかしすぎて死にたくなるほど心臓がうるさかったこともあった。でも今回はそれすらもう生ぬるいっていうか。言ってみれば心臓、止まってる。もぉ既に。

と言っても彼はほとんど悪くない。あえて悪いところを言うなら魔法なしでも結構泳げるくせにあそこの場面でおぼれるな、ってことか。いやびっくりしたんだろうけど。あたしもびっくりしたんだけど。

一体何が起こったかと言うと簡単に言ってしまえば。

 

ガウリイがおぼれた。

あたしが助けました。以上。いやこれじゃ伝わらない。いや察しのよい方は気づいてくれるかもしれない。

ええと、いわゆる、その。

――――人工呼吸をしたのである。

 

話は数日前にさかのぼる。

あたしたちはしごとを受けていた。ドラゴン退治。

と、なると空を飛ぶ相手ゆえにこちらも空を飛ばなきゃならないわけで。翔封界(レイ・ウィング)で目的のドラゴンを追った。もちろんガウリイをつれて。

――油断した。何が油断したってまさか目的のドラゴンが複数いるとは思わなかったのだ。それも二匹とかならともかく五匹て。なんでそんな大量発生。

空中戦は不利な状況で激しい立ち回りになった。その時ドラゴンの攻撃によって風の結界がゆがんだことにすぐ気づけなかったのが複数のミスの中で一番痛いミス。

剣を振るってたガウリイがその影響で風に強く引っ張られ結界外にはじきとばされた。空中だったから当然落ちる。刹那のこと。

 

「ガウリイっ!」

急いでドラゴン無視して彼の元にと急降下。

下は湖になっていた。地面でなかったのは幸いというべきだったのか。

水しぶきのあがったところにそのまま潜り彼を探した。

あとでわかったことなのだが落ちたとき水とは言え結構な高さから落ちたせいで足をひねったらしい。故におぼれた。

あたしが見つけて救い出したとき彼は水を飲み息をしていなかった。

何かを考える余裕はなくあたしは迷わず当然のように彼に空気を送り込んだ。数回そうしたところで水を吐き出し彼は反応する。

咳き込む彼にほっとして腰が思わずぬけた。

 

―――自分のしたことに叫んだのは息を吹き返した彼を宿に運び寝かしつけ落ち着いてからだった。

冷静になって考えてみればかなり昔ガウリイがあたしがおぼれた時にしたっていう、うつぶせにして踏んづける方法とか他にもいろいろあったんだと思う。あったはずなのだ。なのになんで思いつかなかったんだあたしはと悶えた。当然その方法で彼を助けたわけでない。いやもうわかってるだろうけど。

いやいや結果としてはとりあえず助かったんだしあくまで人命救助。気にすることない気にすることないとそれからずっと自分に言い聞かせてるのだけど――効果がなかったりする。

彼の顔が恥ずかしすぎてまっすぐに見られない。

なんとなく彼より前を歩いてみるとか自然なそぶりをして誤魔化してはいるのだけれど……どこまでもつやら。いや多分もう彼は既に不審に思ってると思う。

 

けどどうにもならない。

 





それぞれ一部前半ずつ抜粋。それぞれ独立したお話ですが連作です。
続き等が気になる方は是非本のほうで。




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