――――何が正しいか、なんてあたしにはわからない。 知るよしもない。 それでも自分がしていることが二つの言葉で示せることは知っていた。 けれどそれすら打ち消してみせる。表面化だけでも。 あたしだけ。あたし自身が気づいてればいい。きっと誰にだってそんなことある。 ―――でもたまにそれすら―――否定していた。 「………あそこらへんが、おたからの場所かなー」 夜もふけた頃、ちょっとした山のこやりであたしは呟く。 崖にも近いそこから見下ろした先に見えるは、ところどころ火の灯りがともった場所。もちろん山の中。 いわゆる盗賊さんの、アジトというやつである。山の中で火そんな使うなおまいら。山火事になったらどうするんだ、とは思うものの、ここから彼らがどんちゃん騒ぎをしているのが簡単にわかるほどの木々しかないところを見ると、彼らがわざとそうしたのかそれともそういう場所で使い勝手がよかったからアジトに決めたのか。 灯りがあっても暗くて見えにくいけど、洞窟のような崖の横穴が数個見てとれる。その穴のそばに何人かの盗賊が各グループで酒盛りしてる、といった感じである。 さて。どこから攻めようかと考える。もちろんあたしは盗賊見物にきたわけではない。 最終的には全滅でいいんだけど効率よくするにはやっぱしはしっこからじわじわと攻めて真ん中に集まったところを一網打尽か…。 ――ここの近くの盗賊は人数だけは多くて一人見れば三十人はいると思ったほうがいいと言われてて役人もさじ投げて困ってる、とか宿屋のおばちゃんが言ってたのが大げさにしても確かに盗賊団体としては近年まれに見る人数っぽい。いまどき珍しいくらいあたしのストレス解消に抜群なタイプである。小技より大技でまずは一掃して……。 「……右から二番目の穴が怪しいな」 ぴくっ。 唐突に声がしたほう――少し離れた真横をみれば同じくそちらを観察するゼルガディスがいつのまにかいて驚いた。声をあまり大きく上げなかった自分をほめてやりたい。 「………どうした」 やつらからあたしに、見る向きを変えて言う。 「いや、どーしたって!ゼルあんたなんでこんなとこいるわけ!」 「お前と同じ盗賊いびりだ」 真顔でさっくり言いやがった。 なんとも言えない顔をしているあたしに、彼は言葉を続ける。 「というより宝目当てだ。やつらこの町の図書館の閲覧禁止ものも強奪したらしいという噂を聞いてな」 「あー…なんかそんなこと言ってたかも」 魔道士協会もない町の図書館でのことだから、さして興味がない、というか示している余裕もなかったのだが―――。 「とりあえず一応は確認しておきたいからな」 彼の体を元に戻す方法。 合成獣の体を元に戻すための。そうそう転がってるものでもないけど、だからと言って役にたたないと決めてかかっていたら何も情報は残らない。 「それにしても……いいのか。ストレス解消にしてもお前」 呆れたようにゼルが言う。あたしは聞かなかったふり。でも構わずゼルは言う。 「ガウリイを連れ戻しにいかなくていいのか」 ちょっと前に会った女の魚人がいた。ミス・マーメイドとか言われていた。名前はクッピー、とか。 顔見知り程度のはずの彼女が子供の魚人二匹を連れて、旅の途中のあたしたちの前に突然現れたのは数日前。 「あなたの子よ」 そうのたまってガウリイに子魚をみせつけた。 あたし達が呆気にとられたのは言うまでもない。一応念のために言っておくけど、その言葉を鵜呑みにしてガウリイが子魚の実父と信じたからではない。 「この町の郊外に家を借りたの。家族四人で家庭を築きましょう?」 「ぱぱー」 「………」 ぐいぐい腕を引っ張られるガウリイ。状況についていけてないのか困惑した表情でそれに抵抗しない。 「……ちょ…ちょっと、ガウリイ?」 引っ張られるまま出て行こうとする彼に思わずツッコミをいれるあたし。が。 「とりあえずその家に送ってくる」 心配しなくても大丈夫だから、すぐ戻ってくると笑うガウリイ。その表情がどこか何故か寂しそうに見えたのはあたしだけだろうか。思わず呆れてた感情が違うものに変わるくらいに。 あたしは何も言えなくなった。 そして―――それから数日。ガウリイはまだ帰ってきていない。 「いないから……盗賊いぢめができるんじゃない」 「それもそうか」 あっさり納得される。こちらの方を見ず、盗賊の人数の大体を上から数えている。 「それに。なんで、あたしが。あいつが自分で行ったのに」 「――――まだ気づいてないのか」 「―――え?」 驚きを少し含んだ声でゼルが言う。小声で呟く独り言のような感じ。でもその声色にあたしは反応した。 「俺は右から地撃衝雷で攻める。ある程度攻めたら右二つの洞穴に入り込むつもりだ。残りはお前のストレス解消に使え」 「いや。あの。今の―――どういう意味」 「右に盗賊のボスらしきのがいるってことは宝は遠くにないだろうしこっちのが少数だが骨が折れそうだからな。大人数を倒したいお前には向いてるだろう、左のが」 「あ、うん。わかった。ふつうのおたからはちゃんとあたしにも回してね…ってそーじゃなくてっ」 盗賊いびりに集中しろ、と制される。あたしは仕方なく黙ってゼルをにらみつけた。 呪文を唱える。 唱えながらあたしの心はざわつく。 先ほどまであったはずの目の前の盗賊たちへのわくわく感が別のものに支配される。 『――――まだ気づいてないのか』 あたしに向けて言った言葉ではないのかもしれない。でも、彼の本音。 気づいてない?何に?否――― 逆に、まさか――気づかれている?誰に? 早く目の前の盗賊を倒して先に進みたい思いにかられた。 「爆裂陣!」 「うひゃああああああっ!?」 いつもならこけおどしながらも派手な、爆煙舞で最初は済ませるところをあえて手加減しない方向で術を放つ。 左方向は確かに人数が多い。降り立ってみたらおまえらこんないたのかよと言う人数。うわあ。 反対側でも爆音が響いた。もちろんゼルの仕業だろう。 「なっ…!なんだ!一体!」 あたしはすかさず呪文を唱える。霊呪法。 「ゴーレム!ここにいる人間をあたし以外みんなやっつけて一掃して!」 それにより生まれた石人形はあたしの命に従う。人数が人数だからこの方が楽。 走りながらあたしは術を放ち盗賊団を撹乱させていく。倒したりゴーレムに押し付けたり。 ―――一番近い横穴―――洞穴に近づくのにさして時間はかからなかった。 ―――が。 「そこまでにしておくんだな」 びくんっ。 思わずその声、その言葉にあたしは足を止める。洞穴の前に立ちはがる人影。 闇の中かすかな光で見えたその姿は、長い髪の剣士―――。 「……っ」 声をあげようとするのを寸でで止めた。 続き等が気になる方は是非本のほうで。 |