7センチの距離









甘いお菓子のような、そんな関係でないのは、わかっていたでしょ?



以前はうまく口先八丁でかわせたことが、このごろは全く出来ないでいる。

ひとつ口に出したら、そこから自分の気持ちが全部バレてしまいそうで、やりかえす言葉も出てこない。

せいぜい頭をパッとまっ白にして、何も言わないでいるだけがせいいっぱい。

あぁ、なんて情けないんだろう。

わかってんだかわかってないんだか、そこのところはあのアメリアやゼルも突っ込んではこないのだ!

いや、突っ込まれたりしたら、めちゃめちゃ困るんだけど!

変に囃(はや)し立てたり、つっついてきたりしないの。

む、これはやっぱり、二人にはバレてるってこと?!。

必死に「変わらないあたし」を演じていることが?。

ちょっと見ないうちに、なんだかずいぶん大人っぽくなった、アメリアとゼル。

ゼルはキャラ変わったわよねー。それともほんとは元々ああいう性格だったとか?。

アメリアも、姫らしさが以前より滲み出ていて、あたしの方が子供っぽく見える時すらある。

・・・そうか、あたしたち、変わらないようでいて、変わっていたのね。

あたしも、変わったわ、うん、間違いなく。

あたし自身、もう気づいてる、あの脳みそヨーグルト男をどう思っているかくらい。

意識し過ぎて、意識してないふりをしようと、「可愛い昔と変わらないあたし」を演じ続けている。

自分は大人ですぅー、というようなつもりはなかったけれど、なんだか最近、だんだん自分が「大人」になっていっていることをひしひしと感じて、まだ子供でいたいと、無邪気な少女のフリをする。

けれど悔しいかな、そのことすら、あのクラゲはわかっているようなのだ。

天真爛漫な少女のフリをするあたしに、わかって演技に付き合っている、そんな感じがする。

ゼルとアメリアも、自分達にあたしの(恥ずかしさによる)怒りの矛先(ほこさき)が向くのを避けるために、あえて演技を見守っているのかも。

んでもってさ、はぐらかすのは、あの男の専売特許なのよね。

目をあわせたら、その奥で燃えるような感情を見せているのに、絶対表面には出さないで、はぐらかして、あたしからの行動をひたすら待っている。

・・・そう、待ってるんだわ、あたしがこの恥ずかしさを抜け出して、ほんとうに精神的に大人になって、自分に向き合ってくるのを。

あたしからいかなきゃ、絶対自分からはこないと、あたしの演技に付き合っていることで徹底的に宣戦布告しているんだわ、あいつ。

なんか悔しい!!



でもどうしてだろ、うずうずと嬉しい。

きっと、あたしとあいつとの距離は、こぶし一つ分しかないに違いない。

たったこれくらいの距離で、お互いバチバチ、どちらが先に折れるか、デッド・オア・ライブ。

この距離を縮める気は、今のところ、ない。

ない、と言うか、その勇気は今のところない、ってのが、正しいわね。

こんなにも、息づかいを肌で感じるくらいの近さなのに、触れられない。

それが、今、あたしが決めている、あたし達の距離。

この距離は、変わらない。そう、まだしばらくは。

アイツがあたしに、決めさせている距離でもあるのよ。

悔しいから、しばらくはこのままの距離でず〜〜〜〜〜っといってやるんだから!。

いつかあたしが突然この距離を縮めたら、ちゃんとアンタは受け止める気でいるんでしょ?。

そんなの、言わなくても聞かなくても、お互いわかっているから、だからこの距離。

ね?甘くなんかないでしょ?



さっき。デッキの上。向かいあわせでチェアーを並べて。

コイツはあたしの前で、またのほほんを完璧に装って。

でも、手に持ったグラスの横から、ちらちらと足、見てたでしょ?。

わかっているんだから。わかってて、見せつけてやる。

今の距離だから、出来ることなんだけどね。

演じてるあたしと、待っているあんた。

先に折れるのは、あたしだとわかっているのに、でもまだ、もがきたい。

悪あがきだけど、いいの。

きっと、あいつは、こんなあたしも可愛いと思っているに違いないんだから。





こんな感じ。
続き等が気になる方は是非本のほうで。




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