20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

02.疚しい気持ち

 

「まあ、あんたと付き合おうって男は相当強くなくちゃ無理でしょうしね」

 

そう昔、言った郷里の姉ちゃんの言葉をふとした時に思い出す。

自分だって人のこと言えないじゃないか、とか。

姉ちゃんの言う強さってどのくらいだ、とか。

色々ツッコミたいという思いはあったのだけど姉ちゃんの言うことだからと黙って聞いていた。

 

郷里にいた頃。

あたしが言い寄る男達が「君を護る」とか言ったんで魔法でその力があるか実践したりして追い返した後だ。

 

その後旅に出て、自分でもあの姉ちゃんの言葉はけして間違ってないな、と時々思う。

何がどうって事があったわけではないけれど、漠然とそう思う。

少なくとも、すぐ何かで倒れるような男には興味無いし、相手が弱いから逆に護ってあげたい、なんて展開あたしにあるわけない。

………まあ、どこぞの自称あたしのライバルみたいに不死身なのはそれはそれでどーかと思うけど。

 

何はともあれ「護りたい」とか、「何かしてあげよう」とか。

あたしの方から相手にそーゆー感情が動くことはないだろうと思ってた。

動くような相手を見つけるとも思わなかった。

今もそう思ってる。

――――思ってるんだけど、思ってたんだけど。

 

 

「うわっ!?」

「なっ……ガウリイっ!?」

火の矢をまともにくらったガウリイの元に、あたしは呪文を中断してすぐさまかけつけた。

 

 

――数ヶ月前になる。

あたしと、ひょんなことからいっしょに旅するようになった自称保護者であるガウリイはいろいろあって魔族と関わる羽目になり、

そのために彼が持っていた伝説の光の剣を失ってしまった。

その原因がまああたしにちょっとあったりしたのとか……とにかく色んなことからあたしは彼に、光の剣に代わる剣を探すたびに出よう、と言った。

今日この遺跡に来たのは、その伝説の剣の噂を聞きつけてだった。

はっきし言ってまゆつばものもいーとこなのだけど、だからと言ってそんなのを見逃すと探す手がかりなんて伝説の剣なんだからあるわけなかったりする。

なので足を運んでみたら……。

先客がいたのである。これが。

 

「俺が先に来たんだから中の宝は俺のもんだぞっ!俺の術で参るがいい!」

魔道士らしく、そう高らかに自信まんまん宣言して呪文を唱える男。けれど自信の割には火の矢程度の呪文。

 

あーはいはい。

あたしはため息をつきつつ同じく呪文を唱えた。

あたし位の天才美少女魔道士になるとこの程度のザコは朝飯前である。こっちには2人いるけれどもガウリイが出るまでも無い。

火の矢を発動させてきた。あたしの方に。

けどこの術なら簡単に避けられる。避けた後あたしが術を奴に放てば終わりっ。

 

―――と思ったのだ。

しかし、あたしの前にかばうような形でガウリイが出て刹那、来た火の矢を受け止めようとするように、剣を――いや、柄だけの状態を前に突き出した。

ばかっ!

 

様子から見ると光の剣を使っていた時の癖が出て剣で跳ね返そうとしたらしい。

あたしはすぐさま駆けつけて、彼の怪我を見る。

もがく彼。どーやら致命傷に至るほどじゃないらしい。これくらいの火傷ならあたしの『治癒』でも治せそうである。

三流魔道士の放ったものだったから威力がさほどなかったのと、彼の鋭い反射神経でどうやら急所直撃などは逃れたためだろう。

けれど放っておいていい傷でもない。

 

「はっはっは!大した事ないやつらだな!」

ぷちむ。

「霊氷陣!」

かきぃん!

たわごとをのたまう男は一瞬にして氷漬けになった。

「飛翔界!」

すぐにあたしは術を唱えガウリイを抱えて町へ戻った。

 

 

宿を取って彼を寝かせてからすぐ術で手当てをした。

術で体力を奪ったためか手当てが終わると規則的な呼吸をしながらそのまま眠る彼。

その彼の姿を見て、あたしは思わず安堵のため息をついた。

 

「……ったく……自称保護者の癖に心配かけさせんじゃないわよ……」

その思わずこぼれた愚痴はきっと彼は聞いてはいない。

 

 

姉ちゃんがこんな状態を見てたら呆れるかもしんない。

郷里にいた男どもとは目的と言うか意味が違うんだろうけれど。

この男もあたしを護る、とかのたまってるのにこんな状況だ。

―――だけれどそれでもあたし達は変わらずいっしょにいる。

というかあたしが理由を作っていっしょにいる。

姉ちゃんが呆れたとしたなら彼へなのかあたしへなのか。

 

護ってくれた部分も今回も含めていくらでもある。

けれどもそれ以上にその数ヶ月前のあたりから、結局あたしが逆に彼に何かすることも増えた気がする。

彼が剣を持たず力がないためなのか。それとも別の理由からなのか。

仮に姉ちゃんに言われるまでも無くそれだけは自分で予想外だったりする。

今までのあたしならきっと見切りつけて一人旅に戻ってる。

 

彼にとってはあたしは被保護者であり、別に何一つそんなような言葉のやり取りもしてないしするつもりもないのに。

それでも構わなくて、そう、あたしは動いてる。

彼を護っている。……いや本当は望むべきことじゃないんだけど。無いほうがいいんだけれど現実はそうもいかなくて。

剣を探してやる、と言ったのはただ彼との旅への理由だけじゃあなくて、無意識にその1つでもあったんだと思う。

彼のため、というタテマエの中、あたしの為。

そしてあたしがそうしなくてもいいように、彼が一方的にあたしの保護者でいられるように、そのために必要。

勝手な感情。

―――彼には間違っても言えない。

 

 

彼の寝顔を見ながらなんとなく少しだけ苦笑いした。

付け足すように、あたしはまた呟く。

「……ま、早くちゃんとした剣持てば運とか生命力は、あんた相当強いからそんなに心配しなくて、済むけど」

 

魔族に連れ去られてもこうやって、彼は生きている。

 

その強さがあるからあたしは彼だと安心できるのかもしれない。

彼を選んだのかもしれない。………たとえ、それを口には出せなくても、あたしだけの感情だとしても。

姉ちゃんの言う強さが最近ようやくきちんとわかってきた気がする。

「頼りにしてるんだからね。……自称保護者さん」

 

――あたしの為に強くあって。

 

 

 

―――次の日の朝。

「よーおはようリナ」

食堂に降りてきて、のほほんとした口調で昨日自分が怪我したことも忘れたように挨拶するガウリイ。

「おはよ。……ってあんたはああっ!なんで自分が持ってる剣のこと忘れるかっ!?」

挨拶するとあたしはすぐさま思わず手を伸ばしてガウリイの首を締める。

「げほっ……な、なんだよ急に……」

「昨日怒鳴る前にあんた眠っちゃったから今言ってんのよっ!

ったく大事に至らなかったからよかったもののっ………」

あたしは腹を立てながら彼の首から手を離して席につく。

どんなに勝手な事を思っていてもなんでも、いつもどーり言いたい事は言っておくのは変えない。

怒るべきところは怒っておく。

―――感謝とか心配は昨日の夜呟いたのであたしには充分。

 

「ああ」

思い出したように彼があたしの頭を撫でる。

「お前さんは、どこも怪我してないよな?」

「……あたりまえでしょ」

どうしてこんなに妙に嬉しそうに言うのか。優しく撫でるのか。

そしてあたしは結構これに弱い。

怒る気も、何か口にする事もできなくなる。

ずるい。

あたしも言わないけど。彼が寝ている間でしか。

 

 

「とりあえず明日にはここ出るからねっ。剣の噂をまた集めないと」

チキンの照り焼きを頬張りながらあたしは昨日新たに固く自分の中に誓った決意を言う。

「おまえさん気合が入ってるなー」

「なあに言ってんのよっ!噂全部あたんないと…いやあたったとしても駄目かもしんないけど、とにかく伝説の剣なんていつまでたったって手に入らないんだからねっ!?」

昨日夜あんまし食べてなかった分きっちりと食べながら言う。いやガウリイもその点は同じなんだけど。

「しかしなあ……伝説の剣が見つかってもオレのにならないで、なんか最終的にはお前さんに取られて持っていかれそーな気が……」

「んなことするわけないでしょ」

あっさりと言いながらあたしは次の料理に手を伸ばした。

「ずいぶんきっぱりと言いきったな」

「……あんたから剣取ったら何もなくなるじゃない」

「……をい」

ガウリイが抗議の声をあげる中、胸のうちであたしは呟いた。

 

 

何も無くなるじゃない。

持っている運の強さも。生命力も。あんた自身の強さ全て。

あたしがあんたといて構わないと理由付ける物何一つ。

 

―――悟られた時が、きっと何かが終わるとき。