Short Story(not SFC)-短い話-
強く、儚いもの
「別に一人で生きていけるし。一人の方が楽だし」
――どうして一人旅をしているのかと聞かれたら。
昔のあたしならそう答えていたと思う。
そして一人で生きていく事こそが『強さ』だと思っていたと思う。
前なら。
「リナ=インバースさん、ですか?」
ふと立ち寄った町の協会を出るとき、そう呼びとめられた。
振り向くとそこには見習い魔道士らしい女の子。あたしより3つ4つ年下だろうか。
初々しい雰囲気であたしに微笑みかけてきた。
「…そう、だけど?」
「わたし、ラルタって言いますっ!
あの『デモン・スレイヤー』のリナ=インバースさんに出会えるなんて嬉しいですうっ。話を聞いてて、いつか会いたいと思っていたんです!」
「……」
嬉しそうにそう言う彼女にあたしはちょっと戸惑った。
あたしに会いたかった、って言うのは悪い気はしない。けれど。
その呼び名をされることに、そしてそれを嬉しそうに、となるとやっぱりいい気にはなれない。
まあ詳細を知るわけない彼女がそう言うのは仕方ないかもしれないけれども。
「詳しく色んな旅の話聞かせてもらえませんかあっ」
しかもやたらきんきん高い声でまあ。
「あー……悪いけど連れを待たしてるんで、ね」
頬をかきながら苦笑してそう言うあたし。すると。
「ええええええええええ」
更に彼女は馬鹿高い声を出した。
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「…で?」
「で、って?」
「いや、それでその子をどーしてきたんだ?って訊いてるんだが…」
何故か心配そうな顔をしながら旅の連れであるガウリイがあたしに言った。
宿で待ってたガウリイに先ほどの見習い魔道士の事を話したのである。
「どーしてきたって、別に呪文でふっ飛ばしたりしてないわよ。一応魔道士協会の中だったんだし」
ぱたぱたと手を振るあたし。
もっともあの時傍にあった花瓶をちょっと使ったらあっさり静かになったけど。
前なら「やかまし」と構わず呪文を使っていたと思うのでこーゆー時成長したなああたし、とほんと思う。
「でも、そんなおかしいことだったのか?リナがオレと旅してることが」
不思議そうに、とゆーより少し困ったように彼は言う。
あたしは首を横に振って違う、と答えた。
「あたしが『ガウリイと旅してること』がおかしいんじゃなくて、あたしが『一人で旅をしていないこと』がおかしかったのよ。彼女には」
そう言うとガウリイは言葉の意味がわからない、と言った顔をした。
『ええっ、『デモンスレイヤー』のリナさんが一人旅じゃないんですかああああっっっ』
そう絶叫した後言ったのである。彼女は。
あたしはその言葉にいやあの、と説明しよーと思ったのだがあまりにうるさいんで花瓶で収めたのだった。
そんな異名を持つあたしは、きっと一人でこの世界をきりぬけて来た、とまるで武勇伝のようなエピソードを期待していたのだろう。
一人で生きるのが好き、強いから一人で生きてきたのだと。
「……でも思ったより怒ってないんだな。リナ」
「へ?」
「いや、多少気には障ったことだったみたいだけどいつもほどは怒ってないなあと」
「いつもって何よ」
ツッコミを入れながら、あたしは苦笑する。
長い付き合いのせいかそんな事にも気づいていたんだ、と。
「……昔のあたしもその彼女と似た様な考えかただったしね。別にあんなんじゃなかったけど」
一人で旅をする。
あたしは何よりもそれは楽な事だと思った。
生きていく為の強さだと思った。
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「ほーっほっほっほっ!見つけたわよリナ=インバースっ!」
「炸弾陣。」
出会いがしらに攻撃呪文で吹っ飛ぶ露出狂魔道士のナーガ。
すぐさま復活して戻ってくる。
「ちょっとリナ、何するのよっ!せっかく久々に食事でもおごられてあげようかと思ってたのに」
「誰がおごるかああっ!……ってゆーかまたあんた、一文無しなわけ……?」
じと目で睨み付けて言うあたしにミョーに胸を張って、
「ふっ。自慢じゃあないけど最近の食事は町の野良猫と格闘して手に入れてるのよっ」
……だんだんプライド無くなってるなこいつ。いや元々ンなもんなかったけど。
「でもそれにもだいぶあきあきしていたところに、一般市民から金品巻き上げていつもそんな目にはあっていないあなたがきたじゃないの。
ふっ、罪滅ぼしの為にもこのわたしにおごるのが筋ってものよ」
「どーゆー筋が通ってるのよそれはっ!?
ってゆーか人聞きの悪い事言うなっ。あたしは依頼受けたりちゃんとしごとしてるわあああっ!
働け。いいから。あたしは付き合わないけど」
「ふっ、しごとがあるならとっくに受けてるわっ。どーも不況らしくてこの町周辺はお呼びがかからない上にわたしの斬新なセンスにおののいて後ずさりするひとばかりなのよ」
……なるほど。どーやらこの町はまともな連中ばかりの様である。考えてみたらこいつに依頼頼むやつらってろくなのいないし。
「そんなわけで食事はあなた持ちに決定よっ」
「勝手に決定するなあっ!そんなんで何度おごったと思ってるのよっ。……ってところで不意打ちで『眠り』」
「きゅう。」
さすがに不意打ちだったか眠りの術で道端ですぴょすぴょ眠るナーガ。
さ、こいつは転がしておくとして。
「じゃ、次の町、行きますか」
あたしは迷わずナーガを置いてその町を出た。
そんなのと長くいた事が多かったかもしれない。
その頃のあたしは、一人でいる事がとても安心できた。
一人で生きていくほうが楽だった。誰かと旅するなんて面倒。
ってゆーか旅すると余計に金かかるし。別に役立たないし。時々しか。その『時々』のためだけに誰かといるなんてそんな馬鹿馬鹿しいことないと思った。
一人で生きて行けるのに。
一人で旅しない人はそれだけの能力が無いからだ、ともどこかで思ってた。
強さを持たないから、誰かといる。
強い人は、一人でいる、と。
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「昔の、ってことは今は違うのか?」
ガウリイがあたしに問う。
その顔は妙に笑顔。
……知ってるくせに。
「今は、ね。大体あたし一回も一人で旅したいなんてあんたに言ったこと無いでしょーが」
なんとなく、ぷい、と顔をそむけて答えた。
いつからか。
ガウリイ・ゼル・アメリア。……ルーク・ミリーナ。
出会って一緒に旅をしているうちにあたしは、その空間に居心地の良さを気がつけば感じてた。
誰かがいること。頼れる事。これは弱さなんだろうかと思ったことがある。
けど仲間がいてよかった、と。
思ったのは、これは弱さじゃないと思ったのは―――あの時。
『みんなでガウリイさんを助ける、それで充分じゃない?』
ガウリイがいなくなって、一人で助けに行こうとするあたしに詳細をあえて訊こうとはしないで一緒に戦ってくれると言ってくれたアメリア・ゼル。
弱さじゃない。
別の『強さ』なんだ、と。初めてあの頃のあたしは思ったのだ。
それは、きっと説明しても理解できない。ああ言った事で初めて気づき、身につくこと。
その事をあたしは―――誰よりも知ってる。
そして。
誰かと一緒にいたい、と言う想いも。
「さーて気分直して、食事にでもでかけますか?」
あたしはそう言って傍にいる相棒にいつもの様に言った。
ああ、と微笑む彼。
今のあたしは一人じゃない。
一人で生きていけないわけじゃない。
けれども生きていきたいと思うことと生きていける、と言うのは別だと思う。
一人でないことで得た強さがある。逆に弱くなった部分もあるかもしれない。
けれどその状態を望んだ。
それが―――今のあたし。
強く、儚いもの。