Short Story(not SFC)-短い話-

テキシタミカタ



あたしがそのことを意識しだしたのはアメリアの一言が発端だった。

 

「ほんと、リナってガウリイさん好きよね」

ずべしゃあっ。

 

あたしは、ためいきまじりでしみじみと発されたその言葉に、思わず盛大にすっころんだ。

――たまたまガウリイとゼル、あたしと彼女で事情あって町の中二手に分かれ別行動してたときのことである。

 

 

「だいじょうぶ?リナ」

がばり。

起き上がってすぐにあたしは叫ぶ。

「いきなり何言い出すかあんたはっ!?」

脈絡ないあまりのその発言に驚いたじゃない、と言う。いやだって実際そうだしそれ以外ないしないったらないし。

 

あたしの剣幕にびびりながらもアメリアは、あ、と声を漏らし、涼しい顔。

「やだ言葉が抜けてた。ガウリイさんを甘やかすの好きよねーって言いたかったのよ」

ぱたぱたと手を振る。しかしその表情からしたら絶対わざとだこの女。

あたしは彼女にじと目で言う。

「甘やかす?あたしが?」

気付いてないの?と逆に問う様に言われる。

「だってなんでも何かを決めるのはリナでしょう?旅の予定とか、こうした行動の指示とか、宿決めとかいろいろ」

「だって、あの男にそんな能力ないじゃない」

 

彼が自分で決めるのは最近は食事位な気がする。

何も考えてない、って言ったってもーちょっとモノを考えるべきだとは思うのだが。

 

ほら、と苦笑してアメリアは言う。

「ガウリイさんが何もしないのを許しちゃうでしょ。できなくてもとりあえずやらせてみるとか、リナなら、いいから無理でもやれって他のひと相手なら言いそうなのに」

「……いや、それは」

「ガウリイさんが何もしようとしないのってリナに甘えてるんだと思うんだけど。リナは、許すと知ってるから」

「……なんでそーゆーもののとり方するかな」

あたしは呆れた口調で彼女の先を歩き出す。

顔が赤らんだのに気付かれないように。

それに何故かくすくす笑ってアメリアはあたしの後ろについて歩く。

 

「単にあたしは自分で決めたりしきったりのが得意だし、楽だし。ガウリイは逆になんにも考えないで、従う方が得意で楽って言う役割分担が上手くできてるだけよ」

振り向かず歩きながらあたしは言う。

「大体自称保護者が、その相手に甘えてどーすんのよ。普通逆でしょ」

「じゃあリナはガウリイさんに甘えてるの?」

 

ぴた。

後ろ振り向きフレンドリーにアメリアの首ねっこつかむ。

「だから。自称だって言ってるでしょーが。あたしは認めた覚えないんだから甘えるわけないでしょ」

「ちょっ、苦しいんだけどリナっ」

ごほごほ、と咳き込む彼女に仕方なく腕を解いてやる。

「……全く。あんた好きよねー、そういう話にするの」

溜め息一つついて言うとだって、とつまらなさそうに言葉を紡ぐ。

「面白いし…って冗談だから首掴み直さないでっ」

単に二人の場合見ててそうなってもおかしくないのにって思うから、と言われ、あたしは再び彼女から背を向けて歩き出す。

 

「ないから。そーゆーこと。あいつはあたしにとってはあんた達と同じ仲間だし、彼にとってはあたしは単なる子供」

言って、なんとなく胸がざわついた。

なんだろうか。子供と自分で認めたからか。

 

「甘えても、甘やかしてもいないわ」

強い口調であたしは言った。

不満げに、えー、と言う声が後ろからしたもののあたしは無視した。

 

 

―――昔姉ちゃんが言っていたことがある。

自分を全面的に甘やかす人間と言うのは、敵にしかなり得ないから気をつけろ、と。

甘やかされて、それに委ねれば何かできる力をどんどん削ぎ取られて行くから自分の為にはならず、それは味方のふりをした敵だ、と。

だから姉ちゃんに甘やかされた記憶はあたしにはない。

うちでは若干父ちゃんがあたしに甘いと言えば甘い部類だったのだろうけど、やってもないことにできない、と言わせる事やそれを許す真似はしなかった。

 

だからそんなこと当然だと思ってた。当然自分もそうしてると思ってた。

今もそう、思ってる。

ガウリイがあたしを甘やかしたがってるのは事実だと思う。自称保護者の役目だと思ってるんじゃないかと思う。

でもあたしはいつもそれを抗ってる。

そしてアメリアの言う様な逆のパターンをした記憶はない。

単に本当、役割分担なだけなのだ。

 

「甘やかしてなんか、ないもの」

無意識にもう一度つぶやいた言葉は、多分その時はまだ自覚してない感情からのものだった。

 

 

********

 

「だーかーら。たまにはいい加減あんたがそれ位決めてみなさいってば」

 

街道を歩く中あたしはガウリイに向かって言う。

あれからいろいろなことがあって、結局二人旅に戻った。

今は目下、ガウリイの新しい剣探しにあまりあてのない旅、である。

 

「そう言われてもなあ」

困った様に頬をかいてガウリイが言う。

「次の町選び、って。どっちに何があるかわからんしなあ」

 

この街道をもちょっと行くと二つの道に分かれてるのだ。無論、たどりつく町が違うわけなのだが。

「何があるかわかんないから適当にあんたが決めろって言ってんの。別に決まった旅じゃないんだから。あんたいつもいつもあたしに全部決めさせるつもり?」

「それでもいいと思うんだけどなあ」

「ちょっとは考えろー!」

あたしは怒鳴る。

 

ああ。もう。

アメリアの言葉が、あれから意識しだして、最近身に染みてる。

あたしがそれまで何も言わなかったのいいことにこの男、本気で最近あたしにしか物事を決めさせない。

甘えてる。自称保護者の癖に。もしかしたらやっぱり逆で、あたしの好きにしていいと言う彼なりの甘やかしのつもりなのかもしれないけど。

 

あともひとつ。アメリアの言葉以降、別に彼女のせいではないのだけれどあたしが自覚したことがある。あんまし認めたくないけど。

そのせいもあってあたしは最近、彼にいろいろ自分で決めさせるように仕向ける様になった。

 

 

そんななか、分かれ道にさし掛かる前にいかにも柄の悪そうな連中が道をふさいだ。

1、2、3…8人か。

通常なら楽勝中の楽勝である。あたしが呪文で一撃。ガウリイの出る幕もないだろう。

―――が、今日はそうもいかなかったりする。いわゆる、その。あたしは魔法が使えない日に入ってしまってる。

剣でひとりひとり倒していくしかないかー…。

 

「痛い目にあいたくなかったらおとなしくしろ!」

お決まりの台詞もそこそこにあたしは剣をぬき、ガウリイはそれに合わせて動いた。

そしてそれぞれが別々に倒し始める。

 

 

「思ったよりは腕あったなー」

全員片付けたあとガウリイが感心したよーに言う。

多分元傭兵だとかそんなやつらだったのだろう。最終的にはあたしでも倒せたものの、確かにただのごろつきよりかは腕が立っていた。

「まあね」

剣を収めて彼の元に歩み寄る。すると。

「うひゃあっ!ちょっと何すんのよガウリイっ!?」

いきなし彼があたしを抱えた。

「足怪我しただろ。さっき」

 

う。

いや確かに戦ってる時足をくじいた。あの時にそれほどでもなかった痛みは、今は少しずつ増して来てる。

多分腫れてると思う。本当にうかつ。

治癒程度で直せるだろうが、今のあたしじゃ使えないし、どーしよーかなーとは思ったのだが。

そもそも、あたしが今魔法が使えないことは口にしてなかったのだけどやっぱり気付かれてたらしい。でかい仕事ややっかいな敵に狙われてるとかじゃなければまず言わないのに。

 

「わかってたん、だ」

「そりゃお前さんわかりやすいし」

言われてなんとなく腹がたつ。

「だからって。いーわよ別に歩けるからっ」

おろして、とばたばた暴れるものの彼はあたしを下ろす気はないらしい。

呆れ顔であたしを見る。

「おんぶとどっちがいいんだ?」

……。

 

こういう時はやっぱり、あたしのが甘やかされてる、と思う。

そしてそれに抗いながらも結局甘えてる自分がいる。

 

 

―――で、結果そのまま近くの町まで行くことになった。

誰も通らないのがかなりの救い。

 

「疲れたらほんとに、おろしてよ」

平気平気、と笑う彼。

「お前さんめちゃくちゃ軽いからなあ。全然問題ないぞ」

 

――その言葉に、その軽さは、単純な軽さではないのかもしれない、とふと思う。

彼の担うあたし、はどれだけの重さなんだろうか。自称保護者として。相棒として。単純な負担、と言う意味ではなくて。受け止める、受け止められる範囲内でのあたしの重さ。

あたしは極力甘えないよう、よりかからないようにしてるけれど。

 

「あんたのが、重いわよね」

思わず口にすると彼は当たり前だろ、と笑う。

 

きっと、彼の方はあたしみたいに極力甘えないように、なんて思ってない。

だから、重い。重く感じるのだろう。

それはあたしにとって良くも悪くも。

きっと背負ってるものは何も自分のことは語らない、語ろうとはしない彼のが上で、結局は同じなのだろうけど。

 

 

彼は軽いと感じるあたしに意識的ではなく甘えて、わざとあたしを甘やかして、バランスをとる。

あたしは重いと感じる彼を意識的ではなく甘やかして、わざと仕方なく甘えてしまうことでバランスをとってる。

 

多分、そう。

そしてこれは本来あまり望ましいとは言えないのだろう。姉ちゃんの言う事そのままにしたら。

けれど、それを止められないのはその罠にはまってしまったからか、それとも気付いたあたしの感情からか。

 

「で、どっちに行く?やっぱりリナが決めた方がいいだろ」

分かれ道に立ち止まり彼は言う。

じゃあ右、とあたしは仕方なく答えた。そっちのが若干町が近い。この状況から逃れられる。

 

わかった、と彼は右の道に行く。

「ほら、やっぱり最初からリナが決めた方がいいじゃないか。すぐ決まるし」

さもあたりまえのように言う彼にあたしは溜め息ついた。そして一言。

「…あたし、あんたの味方になれないかもしんないわ」

 

 

そして彼もあたしの本当の意味での味方にはなれない。

お互い違う感情で、でも同じで敵同士。

でも、それのおかげで一緒にいられる。

甘やかして甘やかされて、それでどこに行くかわからないけれど。

少なくともあたしが認めたくなくても認めてなくても、抗いは形だけするけれど、気づいた感情を持ってるうちは。

 

 

苦笑してつぶやいたそれにガウリイが不思議そうな顔をした。