20 Topic for Slayers secondary creations
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-
11.探索
ことん、とガウリイが一階の食堂から持ってきてくれた香茶の入ったカップを置く音に、疲れからか一瞬どこかに飛びかけてた意識が戻る。
「あ、ごめん。ありがと」
「……大丈夫か?疲れてるだろ?」
「……そんなこといってる場合じゃないでしょ」
静かな声で心配する彼に、あたしは香茶を飲んで、目の前のテーブルに広げられたこの町の地図を睨みつけながら答える。
いくつか×をつけた。どこもこの町の中では外れたところ。
裏街道と呼ばれる部分が多い。
「西のほうは…今日会った情報屋曰くそれらしいのはいなかったらしいわ。
で、東のここ。この辺りの情報はあまり知っている人がいないらしいから……この辺りを聞き込みして……
直接見つけるか、それこそ新しい情報屋を見つけるか、ね」
地図の1箇所を指差して言う。
あたし達は人を捜していた。
その人を捜すために情報を集めて、探して。
相手の顔はわかっていて特徴がある。
大きな町だけれど、訊きこみをしていけば捜せないわけじゃない。
けれど今の所、人を捜しているのか情報を探しているのかどちらなのかわからなくなるような状態。
何しろ思わせぶりで焦らす情報屋とかも多い。それでしばき倒して訊いたら何も知らないなんて事も多いのだ。
これを絞って一つにまとめるのに正直どこか焦ってる。
「明日は二手に分かれるか?ここで」
しばしガウリイの問いに考えてから、首を横に振る。
「情報は多いほうがいいけど、今は何が起こるかわからないから」
下手にばらばらになったところを狙われる可能性もある。
ごろつきやら暗殺者やらが町に溢れている以上その辺は注意が必要。
―――もっとも、その捜している目的がその暗殺者なのだけれど。
――――目の前でへらへらと笑うごろつき風の姿をした男がありありと頭の中で思い出せる。
あたし達といっしょにいた『彼女』を崩れさせた男―――
「リナ」
ガウリイがあたしの頭にくしゃり、と触れる。
「――――今日はもう休め。今日だけでもだいぶ絞れたし、明日には叩くことになりそうだし。オレももう休む」
よほどあたしが疲れているようにでも見えたんだろうか。それともそんなに自分が疲れていたのか。
けれどそれは確かに正論だった。
捜索の為に―――いや、探索の為に昨日やらおとといはあまり眠っていない。
それ以外にも勿論理由はあるんだけとれど。
「―――そうね」
自分の飲んでいた香茶のカップを持って、あたしは自分の部屋へと戻ろうとする。
「リナ」
もう一度ガウリイがあたしの名前を呼ぶ。
「………何?」
振り向かないまま、片手を扉のノブにかけてその声に反応するあたし。
「………ルークも、明日には見つかるといいな」
『彼女』―――ミリーナが息を引き取った後。
姿を消した。
多分あたし達と同じく別で探索しているのだろう。
彼女に毒を盛った―――暗殺者ゾードとその仲間を。
少なくとも衝撃のあまりこのセレンティアの街を飛び出した、なんてナンセンスな事はありえない。
だから。
「会えるでしょ」
疲れた声で言っているのが自分でわかった。
「――――会うわよ。きっと」
目的が一緒な以上。
今の所出会うことがないのが不思議なくらいだ。
「どっちにしろゾード達を今度は完全に叩いて。その雇い主をはっきりさせて。
―――後の事はそれから考えましょ。ルークのことも」
自分に言い聞かせるようにあたしは言った。ガウリイの方に振り向かないまま。
わかってる。
責めるべきことや、言いたいことなんていくらでもある。
捜しているゾード達以外に。
けれど今やるべき事は―――――
「おやすみ」
そう短く言いつつガウリイの部屋を出ながら、今夜もぐっすり眠れる自信はないなと思った。
気を張っていないと今はもたない。
彼はそれを心配してわざと色んな話題に触れて気を紛らわそうと考えているのかもしれないけれど、今のあたしにはそれは逆効果だ。
できるはずが、ない。
―――翌朝。
やはり予想通りうとうとと浅い眠りだったものの起きたときの体調は思ったよりすっきりしていて自分で内心ほっとした。
食事をしてすぐ、昨夜地図で指した場所へと向かい訊きこみをした。
「そ、その辺のウラ的な宿の人捜しなら…あそこに見える建物の中にいるテリーって情報屋のが詳しいよ。多分知ってる」
そこで見つけて胸ぐら掴んで問いただした情報屋に言われてあたしとガウリイは顔を見合わせ無言で頷く。
無言で、そこへと歩く足は2人とも自然と速くなった。
やっと探索、が捜索、に切り替わりそうだと思った。
漠然としていない。手がかりを探すんじゃない。人を捜し、見つける。
一つにまとまる。
もちろん見つけたからと言ってすぐに解決するわけじゃない。
その先に何があるのかなんてわからない、けれども。
考えられない、けれども。きっと、今やるべきことの1歩にはなっている。
何かすべきことの、何かできることの糸口にはなっている。
元々のあたしたちが、そしてルーク・ミリーナが受けていた依頼にだってきっと繋がっている。
目の前のものを見る。
『彼女』の為にも、自分のためにも。
悼んだりするのは全てが終わった後。今はただ感情を押し殺してでも気を張ってその1歩へと走っていける自分をただただ信じていた。
「ルゥゥゥゥクゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!」
――その後すぐ起こる憎悪の暴走に出くわし、止められない事実に行き当たるまで。