10 of us die from converting -変換してから10のお題-
08.しゅうかん(習慣)
「なんか、寂しいな」
ぽつり、と部屋の壁にかかったものを見てガウリイがつぶやいた。
その何気ないつぶやきに、その壁とは向かい側に位置するベッドに腰掛けてたあたしは反応して眉をひそめる。
「・・・・・何が?」
あ、とつい口から滑り出してしまったかのように、そのあたしの声に逆に驚きの反応を示す。
苦笑い。
「いや、だって明日オレ、何も出来ないし、明日で最後かな、と思うと」
「・・・は?」
ガウリイは眉をひそめたままのあたしの傍に来て隣に並んで座ると、手を伸ばしてあたしの頭をわしゃわしゃと子供を愛でるように撫ぜる。習慣。
でもその表情は彼の言うようにどこか寂しげ。
「お前さんの花嫁姿見ることになると、思ってなかったから」
そう言ってまた壁にかかったもの―――白いドレスを見つめる。
誰がどぉ見てもそれはウェディングドレス。
あたしの為に用意されたもの。
明日着る事になってる。
用途は言わずもがな。あたしが結婚するのだ。
まあ別にンなの着て派手に発表するのに夢見てたわけでも望んでもなかったけれど成り行き上。
「最後って、何が?」
「こうやってお前さんの保護者でいられるのが」
だって、と彼はまだあたしを撫でながら言葉を続ける。
「明日リナの隣を歩くのはオレじゃないし」
・・・・そこまで言われて彼の言わんとしていることがやっとわかった。
「そりゃ、あんたは歩けないでしょーが。自称保護者なんだし」
ってゆーか、と呆れてあたしは目の前の彼を見つめて言う。
「隣を歩きたかったわけ?で、あたしを祭壇で待ってる男に自分の手で渡したかったと」
「それはそれで寂しいだろうけど、やればこんな思いしないのかな、と。
親父さんの代わりにやれたらな、って」
「・・・・・・馬鹿じゃないの?」
思わず言うあたしに、まあまあ、と彼があたしの髪のひとふさを自分の指に絡めた。
「あんたはいればそれでいーの。明日はその役目だけで充分よ。自称保護者さん」
自称、の部分を特に強く言ってみるとまた苦笑するガウリイ。
あたしの頭を撫でるそれはまだ止めない。
「・・・・で、本気で最後にするつもり?」
「え?」
「だから。こうしたりするの今を最後にできるのかって言ってんの。もぉ習慣になってるくせに。止められるわけ?」
「だって、止めなきゃ駄目だろ?」
自分に言い聞かせるようにガウリイが言う。
・・・・そんな彼にあたしはなんだか笑えて、そんなことないけど?とあえて軽い口調で言う。
え、と予想外のことばだったのか戸惑ったような表情。
「・・・あんたがあたしの保護者どうしたって辞められないのは知ってるつもりだし。
別に無理しなくてもいいのよ?結婚したってあたしがあたしなのはかわんないんだから変える必要なんてないんだから。
・・・・ま、明日は確かに無理だけど」
そう言うとガウリイはとたんに嬉しそうな表情になってなにも言わずあたしをそのまま抱き締めた。
「・・・・・ったく。何が寂しいんだか」
彼に抱き締められたままあたしは言う。
「その保護者から、あたしを渡される役目のくせして」
そう言うと抱き締めた腕とは逆の手で彼は自分の顔をかく。
「でも、やっぱしお前さんが嫁に行くと思うと寂しい」
「相手があんたなのに?」
ああ、とうなづかれて、呆れるのを通り越す。
どこまでも保護者。それが優先。普通なら花婿よりもそっちの立場になんかなりたがらないし考えないだろうに。
これでよくもまあ、あたし達はこんな展開にまで来たと思う。
「・・・・・本当に、馬鹿じゃないの?」
苦笑うあたしに、だって、とガウリイが言葉を紡ぐ。
「親父さんに、保護者の肩書きはこれから使わせねえぞ返しやがれ、って言われたし」
・・・・どーやら保護者にこだわってたのは彼だけじゃないらしい。
どいつもこいつも。
こめかみに思わず手をやってからあたしは訊く。我ながら意地の悪い質問を。
「じゃあ結婚することで保護者やめなきゃいけないとか寂しい、って悩むんなら結婚の方をやめようとかは考えなかったわけ?」
「それはない」
即答。
あまりの言いきりに思わず顔が赤らむ。冗談でも、ちょっと思ったとか言ったらスリッパではたいてやろうかと思ったのに。
誤魔化すように強気の口調で話す。あえて彼の顔を見上げてしっかり睨んで。
「・・・・大体ね、結婚の為に態度変えて習慣やめて。なら、することになんの意味があるってのよ」
あたしは、とそこまで言ったところでガウリイが言葉をのせる。あたしの言葉でふっきれたように。
「そーだよな。今のままのリナがいいんだし、そのリナを変わらず護りたいから結婚したいんだし」
「・・・・・」
馬鹿だやっぱし。さらりとそーゆーこと言えて。本当は知ってたくせにそんなに嬉しそうに言うな。
「でも、みんなの前で保護者だって言うのはやっぱし今日が最後だしなー」
やっぱり複雑だ、と笑って自分の腕の中にいるあたしの頭をガウリイは撫でまくる。体を抱き締めた腕は離さないまま。
その言葉に、あたしもこの感覚が習慣になってしまっていたせいか少しだけ見えない寂しさをどこかで感じて、そのままそれを受け入れてた。