20 Topic for Slayers secondary creations
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

05.信頼



ふ、と手放していた意識を取り戻して天井を見つめる。

横には暖かなぬくもり。

 

「……起きたのか?」

優しい声がその隣から降ってきて、何度重ねたかわからない唇をまたどちらからともつかないまま求める。

「ん……」

彼の金色の髪があたしをくすぐる。

 

―――優しく重ねられた唇が離れて、目の前の自称保護者が上半身を浮かせて起き上がる。

その時、ふ、と昨日の昼間のことを思い出した。

「……あ」

横たわったまま思わず自分の手のひらを天にかざして暗い闇の中じっと見る。

手のひら、というより指先を。

 

「……どうした?」

そんなあたしを見て言う。

「うしろ。向いてみて。ガウリイ」

あたしもゆっくりと上半身を起こした。

とくん、と彼があたしに与えてくれたものを感じて、少し戸惑いながらも、手を彼に伸ばす。

 

少し困惑した表情。

けれど彼はあたしが言う通り身をねじってくれる。

金色の長い髪をあたしは掻き分けた。

見えたのは――普段隠れた背中。

赤く深く刻まれた傷痕がいくつかあった。

戦いの傷痕で無いのは明確。

何故なら本当にさっき出来たばかりで、血をにじませているものもある。

爪痕。

 

それに触れると、あ、とガウリイが思い立ったような声をあげた。

「……やっぱし。結構ひどい傷になってる」

「でも別に痛くないぞ?」

「……嘘つき」

あたしは言って治癒の呪文を唱える。

 

この前から、歩いているとき妙に自分の背中を気にするように後ろを肩越しにちらりと見る彼を見たのだ。

初めてこういうことになってから、その翌日によく見られることに気づいた。

理由は考えれば明確。

 

「……ちゃんと言ってよね。あんた剣で戦うときにそんな余計な痛みで反射神経鈍っても困るでしょうに」

そう言ってこちらに向かいなおさせる。

「治しちまったのか?」

「だって。あたしがつけた傷じゃないのよ」

顔を少し赤らめながらもあたしは答えた。

 

初めてのときも、それから今日までも。

彼の腕の中であたしはそのたびに溺れて。

しがみつく力加減なんて考えられなくて。

彼に爪を立てたことも傷をつけていることもその場では憶えてなんか、なくて。

 

治したことに少し落胆した表情をするガウリイ。

あたしは眉をひそめる。

「……なんで?…がっかりしたよーな顔」

「あ、いや。だって、な」

そう言って彼があたしの腰をさらう。

包むように抱きこんで言葉を紡ぐ。

「お前さんが、つけてくれた傷だから」

 

「……そーゆー趣味?」

「あのなあ」

苦笑いしてガウリイはあたしの首筋に口付ける。

「オレは、こーやってお前さんに印つけてるから。

リナからはこれが印だと思ってたんだ」

そう言う彼の唇は、また首筋を這って、あたしの唇に辿りつく。

「っ……何の…印よ?」

甘く漏れてしまいそうな声を抑えて、あたしは訊く。

「信頼されてる、って印」

その言葉にあたしは思わず笑った。

「独占してる…とかじゃあなくて?」

「それはもうとっくのとうにだし」

抱きしめる力を少しだけ強めてくる。

時々『束縛』になってるんじゃないかと心配になる、と耳元で小さくささやかれて苦笑する。

 

「無意識的にでも、シーツとかにじゃなくてオレ自身に頼ってくれてしがみついてくれてる、と思ったら『信頼』、が近いんじゃないかと」

「…今まで信頼されてないと思ってたの?」

顔がその言い分に今更ながら赤くなる。

暗い中でも、きっとこの近距離に彼の良すぎる目では捕らえられているに違いないのだけれど隠したくなる。

隠せない分憎まれ口。

 

ガウリイがゆっくりとあたしをまたベッドに寝かせる。

みしり、ときしむ音がした。

体重がかからないように上にのしかかる彼を見つめたままあたしは言う。

「あたし見る目はあるって前言ったじゃないのよ。

…出会ったときから、今まで信用できないだの、言ったことあった?」

「ないけど」

彼の腕があたしの胸に触れる。指がすべるように、肌を這う。

「『信用』と『信頼』って違うだろ?」

 

 

信用と、信頼。

それは同じことばの様に聞こえるときもあるけれど。

彼の言う通り、誰かに委ねる・任せる部分の比率が違うのかもしれない。

あたしがガウリイを『信用』じゃあなくて『信頼』したのはいつだったんだろうか。

そして彼にとってのあたしも。

―――きっとお互い、それは大分経ってしまっていて、憶えていない。

そして、とても自然にその感情に移行してしまったから、分けることが出来ない。

 

 

「……でも痛い『信頼』って何かイヤじゃない?しかも一方的に」

「お前さんのが痛かったときもあるだろ?」

……いや、まあそれは確かにそうなんだけど。

どうしてそういうことをさらっと言うかな。この男は。

 

彼の顔が目の前に近づく。

「…もう一度つけてくれるか?」

―――その言葉の意味に、あたしが顔を火照らして何かを口にする前に。

それを遮るように深く唇が塞がれて、あたしは彼の背に腕を廻した。