Short Story(not SFC)-短い話-

専業奉公



 

「ああもう!たまにはあたし抜きで一人で稼いできたらどうなのよ毎回役に立たないんだからっ!」

 

我ながら言い過ぎた感が否めない、その言葉はついつい口に出てしまった。体調のせいもあったのかもしれない。

けれどそう思って反省したのは、その言葉に怒るでもなく悲しそうな顔をした彼を見た瞬間。つまりは言った後。

ごめん言い過ぎた、とつい言いそびれてるうちに彼はその場を立ち去った。

 

―――――話は少し前にさかのぼる。

先日ちょっとした依頼を受けた。薬草取りのしごと。

まあ内容が内容だからガウリイには期待しないし、あたしが一人で受けたようなもんなのは今更なのだが、なんだかそれが今回気に障ったのだ。

ガウリイが何もせず、頑張れよーと一人のほほんとあたしを見ながらその辺でくつろいでることが。図書館で昼寝されたときのイライラ感に似ている。

何でよくあることなのにそう気に障ったかとゆーと、今ならわかる。その。なんてゆーか。多分あの日が来るのが何かしら影響してるんじゃないかなみたいな。

魔法が使えなくなるだけあたしの精神集中力は落ちている。つまりは若干感情的になりやすい。

 

「どうしよっかなー…」

てくてくと町の中を歩いてあたしは一人つぶやく。

彼が宿から出てった形跡はあるけれど、荷物はおいたまま。と、言うことはあたしの言葉にどっかでいじけてるのか、それとも言葉通りしごとを探しに行ってるのか。

後者ならば下手に探して謝るのもどうかと思う。言い過ぎたとは思うけど、ガウリイが長いことまともに単独で稼ぎに行ってないのは間違いないし。

傭兵とは思えないくらい自覚がない。おまい誰かに雇われて働くこと忘れてるだろと今日じゃなくとも突っ込みを心の中で何度か入れていた。だからそれならばほったらかすのだが―――――

 

「…逆ギレでもしてくれれば喧嘩になったのにねー」

あの悲しそうな顔は卑怯だ。ガウリイにだって非はじゅーぶんあるのにあたしだけが悪いみたいじゃないか。

そんなわけでかくして、なんか気分転換に美味しいものを食べようと街を散策しながらついつい金髪の男の姿を探してしまうあたしがいる。

 

「やめてくださいっ」

そんな女の声が聞こえて、あたしは歩みを止めて声のした方を見る。

町娘が、柄の悪いごろつき達に絡まれている―――――まあよくある光景ではある。

ため息一つついてあたしはそちらに向かう。正直魔力はもうかなり落ちてきているのだが、まあ人数的に魔法なしでも十分あしらえるはず。

声だけならばあえて見過ごしたかもしれないが、見ちゃったし、他にその光景を止めるそぶりを見せる人間もいない以上仕方ない。

 

「そのくらいにしといたら?イヤがってるじゃない」

「ああ?」

よくみると顔が赤く独特の臭いを発している連中。うわ昼間から酔っぱらいか。

「なんだーねーちゃん」

えへらえへらとよろめきながらこちらに来る男たち。その隙を見て逃げる町娘。

足取りもたどたどしい様子のこいつらを倒すのは容易だろうしさっさと片づけるか。

 

ぼぐっ!

腰を落としてこぶしで急所を突きまずは一突き。

「なっ…てめえっ」

あたしが倒した男以外があたしの行動に驚き、そして怒り出す。

「女だと思って甘くみてりゃっ」

やかましい。

女のせいでこの程度で今済むことをありがたく思ってほしい。ああもう。普段なら呪文で全員いっぺんに片づくのに。

 

「げぐっ」

「ぐおっ!」

引き続いて二人もあっさり倒す。残り一人。

「なめんなっ」

「っ」

酔っぱらってる割に素早い動きであたしに向かってきた最後の男をすぐさま避ける。手にはいつのまにか剣。

今の動き、そこそこやる――――少なくとも他の連中と違ってある程度訓練された職業の人間――――剣士か。呑んでないでまともに働けよおっさん。

あたしも剣を引き抜こう――――――というところでひゅっと風のような早さで何かが現れる。

――――――金色の髪の剣士。

 

「ぐわっ!」

瞬時に彼の当て身で倒れる最後の男。いきなりで、素早すぎて何が起こったのかよくわからないままやられた感じじゃなかろうか。

男を倒した彼は、ため息ついて振り向きあたしを見る。

――――――――ちょっと怒った顔をしていた。

 

「……お前さんなあ」

「…何よ」

「魔法使えない時にやっかいごとに首突っ込むことないだろうが。しかもオレがいない時に」

あの日であることに気づかれてたことに思わずあたしは顔を赤らめる。

「こいつら程度ならなんとかなったわよ」

思わず軽口を言う。

「剣出されてちょっと焦った癖に」

返される。どこから見てたんだおまい。

ぽん、とガウリイがあたしの頭に手を置きながら言う。

「ったく、やっぱりほっとけないよなあお前さん」

苦笑している。それは、まるで。

「…あたしの保護者やってるから他のしごと出来ないみたいに言わないでよ」

言うと照れたようにガウリイが笑った。

 

考えてみれば。

この男は一応一つのしごとをずっとしてるんだなと気づく。

あたしを守る、というしごと。いや、まあこれをしごとと言ってしまうのはどうかなとも思うんだけど。別にあたし雇った覚えないし。

けど、ガウリイが戦いでがんばったときとかはその後ごはんおごってあげたりとかしてるのは結果的に報酬の扱いになるのかもしれないとか思う。

もしかして―――――本人もその自覚があるのだろうか。

 

「でも、今少しは役だっただろ?」

そんな台詞をわざわざ言うあたり。

 

あたしに雇われてる、あたし専用のしごとびと。

「少し、はね」

嬉しいような、寂しいような。釈然としないような。そんないろいろ複雑な気持ちが生まれる。

ばか、と小さく呟いた声はきっと彼に届かない。

 

「じゃあ、お昼食べよっか。おごるわよ」

あたしの言葉に喜ぶ彼。どうやらそちらの機嫌は直ったようだ。

「おう!」

 

ごめんを言いそびれたのはわざと。彼が機嫌直ったのならいいか、という思いと――――――挑戦的な理由。

 

―――――きっと何にも考えてない。考えてないだろうけど、もしあたしの保護者をしごとと思ってるなら、あんたに与えてる報酬は食事だけじゃないってこと覚悟なさい。

ものすごいとびきりの報酬を与えてるんだから。あたしは。

これからも、あんたが勤めるつもりなら、危険手当分差し引いても、一生かけても分相応にならないだけの報酬をきっと与え続けるんだろうから。

そっちもそれだけの働きをしてもらうから、それ以上の働きを期待するんだから覚悟なさい。

 

「じゃ、あたし明日からちゃんと休むからその間だけでも依頼一人でなんか受けてきてよ保護者さん」

あたしの言葉に苦笑する彼。

あたしの頭を撫でてごまかそうとするから、あたしは自分の手でそんな彼の手をつかんで、そのごまかしを牽制した。