Short Story(not SFC)-短い話-

secret to produce confidence



―――お互い、言わなくてもわかる、というものがある。

もちろんそれに甘えすぎてはいけないし、逆に言わなきゃいけない時もあるのを知ってる。

でも。こと一点に関しては、多分、お互い、口にしなくてもなんとなくわかる自信がある。

そしてその自信が間違ったことはない。



「ガウリイさんに謝ってきたら?リナ」

「へ?」

依頼人にあてがわれた部屋であたしはいろいろ考えているとアメリアが不満そうな顔であたしにそう言う。



ちょっとした事情でものすごく久しぶりに彼女とあたしとガウリイの三人旅を期間限定だけれどすることになった。

その矢先にしごとが舞い込んできた。断ってもよかったのだがアメリアが正義のために受けようと率先したのでまあいいか、と受けた。

依頼はよくありがちなもの。とある資産家。先日黒ずくめの男に命をねらわれた。それも家の中で寝しなに。

あやうくその時は難を逃れたが、強盗というには状況としておかしく、暗殺者のような玄人でもなさそうだった。となると犯人はおそらく親族の中にいる―――。

まあ要は用心棒。そして犯人探し。

親族とはいっても人数は少ない。依頼者ロイ氏の異母弟とその妻。息子。あと仲のいいという従兄。

この屋敷には彼の奥さんも含め六人の人間が暮らしている。と言っても人間関係は複雑で、一緒に暮らしているのもこれまた事業経営のいろんなしがらみでとかであってけして和気藹々とした一家でないのは空気でわかった。

夫婦同士でも微妙な空気だったり親子でもあからさまにいがみあってたり。かと思えばなんでここ仲良しなんだってところが存在したり。

そんなわけで現時点で一番怪しいのは誰か、どう動こうか考えていたのだが。

そこでなんでガウリイの名前が出てくるのか唐突で眉をひそめるあたし。



「・・・・・・何を?」

「何をって。さっきのあれ。ガウリイさん怒ってるんじゃない、さすがに」

言われてさっきまでの出来事を思い返すけどアメリアの言う台詞にピンとこない。

首を傾げるあたしに、業を煮やして彼女は言う。

「・・・・・・なんてことなく『旅の連れ』って。わたしといっしょくたにしなくていいのに。ちょっと冷たいじゃない」

その言葉にもう一度あたしは出来事を思い返す。



――――先ほどまで一通りのこの家の人間に会いに行き挨拶していた。

「初めまして。ロイ氏から依頼を受けこの家の警備にしばらくつくことになりました。リナ=インバースともうします」

ロイ氏の部屋の隣の、従兄であるトムさんにまず挨拶。言って後ろにいたガウリイとアメリアをちらりと見てから言葉を続ける。

「後ろのは旅の連れのガウリイとアメリアです」

至極シンプルにそっけなくあたしは紹介した。



「何が問題なのよ?事実をただ挙げただけじゃない」

言うあたしに何故かため息を彼女はつく。

「ただ、ね。でもリナにとってガウリイさんってそれだけじゃないはずでしょ?」

「・・・・・・」

そこまで言われてやっと彼女の言いたいことを察する。

今度はあたしが困ってため息。

「あのねえアメリア」



彼女と久しぶりに再会してまず速攻つっこまれたのがそれだった。

ガウリイとどうなったか。

まあ、どうなったも何も未だにいっしょにいるし。いることでいいじゃないか察してくれとはぐらかしたのだけど猪突猛進のアメリアには通じず。

仕方ないから先日恥ずかしながらためらいながらもあたしは観念した。ガウリイといっしょに。

ある程度はアメリアが思ってる方向に進んでいるのを二人ともで認める、と。



要はそれのことを言ってるのだろう。いくらなんでもそういう間柄になった相手に対して、と。



「リナが恥ずかしがるのはわかるけど。『こいびと』、がアレだとしても『相棒』でいいじゃない?なんでわざわざあんな冷たい言い方するの」

言われてそういやそういう紹介をしたことなかったなと思う。それは認める。けれど。

反論しようとすると更にアメリアの言葉。

「怒ってると思うわよガウリイさん。だって少しぴくりと表情堅くしてたもの、リナが言ったとき」

「・・・・・・え」

その事実にあたしは言葉をつまらせる。

それはあまりに意外というかなんというか素直に困る。

再び考え込むあたし。だから、とアメリアは言う。

「素直にガウリイさんのところに行って謝って・・・」

そこまで言ったところで扉をノックする音がし言葉を中断する。

「はい」

アメリアが扉を開くと噂をすればでガウリイ。

と、見知らぬ男―――ガウリイと同じ位の歳だろうか。黒髪の中肉中背の傭兵がガウリイの隣にいた。



「おう。悪いな、二人とも」

「どーしたんです?こちらの方は?ガウリイさん」

「昔の傭兵仲間で・・今さっき偶然会ったんだ。トムさんに今は雇われてこの屋敷の外を警備しているらしい」

トム、というのはさっきも言ったように例のロイ氏と仲のいい従兄の名である。

「イタック=レイモンドだ。よろしく。ガウリイ、ちゃんと紹介してくれよ」

入ってくるなりその男はそう歯切れよく言う。ちょっと目つきが悪いが軽そうな印象。昔似たようなタイプに会ったことがあるのをふと思い出す。



ガウリイはああと言って、ちらりっとあたしを見てから考えて言葉を発した。

「この子がアメリア。でもって向こうがリナ。・・・・・・オレの旅の連れ二人だ」

「・・・・・・」



アメリアがそれにあからさまに反応する。あたしは黙ったままガウリイの表情をうかがう。

ガウリイは目をゆっくりそらし、あたし達の部屋の壁にかかった絵画を見つめる。





「・・・・・・初めまして。リナ=インバースよ」

ガウリイをとりあえず無視してあたしはイタックとやらに挨拶する。

「へえ。もしかしてあのリナ=インバースとかって言わないよな」

「―――トムさんの依頼って、ことですけど。この家の主人はロイさんよね。何故彼があなたを、というか傭兵を?」

彼の問いには答えずあたしは訊く。

それに気を悪くした感じもなくイタックは答える。

「大事な親友兼従兄弟が狙われていて、うちの中の警備は彼自身が雇ったみたいだけど心配だから、と。俺だけでなく一部はトム氏の雇ったものだよ」

ああ、あと、と彼は付け足す。

「ゼン氏も同様に雇って配置させてるとか何人か。誰がそれか俺は知らないけどな」

ゼンはロイ氏の異母弟の名。

「でも肝心の狙われてるロイ氏は君達しか雇わなかったみたいだな。よっぽど信用されてるのか。まあ確かにガウリイは腕よかったからな昔も。今もそうなんだろ?」

「・・・・・・」

ありがとなガウリイ、とイタックは言う。満足したように。

「お前が今どんなやつと組んでるのか見ておきたかったんだ。ありがとな」

「・・・・・・」

邪魔したな、と言いながら去るイタック。それに続いてガウリイも部屋から去ろうとする。

「悪いな。じゃあ」

「ガウっ・・・!」

アメリアがなにやら言おうとするのをあたしは彼女の傍に寄り手で口を抑えて制する。

ガウリイはイタックの方を向き、黙って行った。



「やあっぱり怒ってるじゃないガウリイさんっ!」

抑えていた手を離すと開口一番にアメリアは言う。

「・・・・・・いや・・・あれは、なんてゆーのか・・・」

困って頭の後ろに手をやるあたしにアメリアはさらにまくしたてる。

「ガウリイさんがあんな言い方するの今までなかったじゃない。まだせめて仲間って言い方する人なのに。わざわざ旅の連れの部分強調してたわよ」

まあ確かにそうだけど。

「アメリア。あんたはさ―――」

言いかけて。あたしは黙る。そしてガウリイと同じあさっての方向を見る。

しばしまたもや考え込むあたし。

「・・・・・・や。なんでもない」

あたしの態度に首を傾げるアメリア。そして呆れたように言葉を紡ぐ。

「ガウリイさんと仲直りしてきなさいよ、リナ。早い方がいいわ」

「―――明日ね」

どうして、と訊く彼女にあたしは答えない。

その時には既に今夜の動向に、行動に意識をやっていたから。





夜も更け、大きな屋敷のあちこちについていた明かりが消される。

命を狙われていることを考えたらロイ氏の部屋の明かりは消さないままがよいのだろうけれど、ちょっとでも明るいと眠れないタチだ、という彼はそれを眠るときに必要としない。

だからこそ前回は相手の顔を見ないまま逃がしたし、逆に闇に紛れて助かったようなのだが―――。

けれどそれはこちらとしても好都合でもある。

彼の部屋の中に潜んで気配を消し護衛をする。

あたしは一人―――部屋の中にいた。



なんとなく直感というか予感はしていた。

今夜、また犯人は来る。

それならば―――とあたしは提案した。




真っ暗な空間に静謐な空気が占める中―――気配が生まれた。

もちろんあたしではない。ロイ氏でもない。

音もさせずそろそろとそれは部屋の上から降りてくる。どうやら天井裏に細工をしておいてそこから入った、というところか。

暗闇の中彼は―――近づく。ロイ氏が寝ている場所。ベッドに。そして―――。



ざんっ!

剣でベッドを貫き突き立てる音。



「―――!?」

驚愕の息づかいが聞こえる。

あたしは呪文を唱えながらその気配に近づき――。

烈閃槍っ!」

「何っ!?」

寸でのところで避けられる。正確には剣ではじいた。

魔力剣かっ!

「明かりっ!」

向こうが部屋を明るくした。魔法も使えるのか。

明るくなった部屋にはあたし。そして―――イタック。それだけ。

そう。ベッドの上にはロイ氏の姿はない。

あたしが立てた作戦により、彼はガウリイがあてがわれた部屋で寝ている。ガウリイはそちらで念のため護衛。



「なっ・・・何故、お前が」

純粋に驚いてる様子の彼に思わず笑ってしまう。

「そーねー。なんででしょねー。今あたしは自分達の部屋でアメリアのヒロイック・サーガを延々聴かされてるはずなのに、ね」

「!」



今頃アメリアがさもあたしに聴かせてるようにいるようにそう言った発言を一人しているはず。彼はそれを参考にして警備が薄いのを見計らってここに来たのだろう。耳で聴いて。

部屋の中にあったレグルス盤を通して。



先ほど調べたら発見したのだ。

―――部屋の壁の絵画の裏から。



それに気づいたあたしは筆談でアメリアと作戦会議をし、同様の方法でロイ氏、あとガウリイにも隙をみてやりとりをした、というわけである。



「あんたがこうして出てくれたおかげで黒幕がわかったわー。やっぱし。トムなわけね」

盗聴されているのはわかったものの犯人に関しては現行犯を取り押さえる方が証拠として手っとり早い。おそらくそうだろうとは思ったし、イタックが何のために雇われてるのかも想像はついたが同様。

最初の命を狙ったのはおそらくトム本人だろう。玄人ではなかったとロイ氏は言ったがこの男は、今の行動をみる限り手慣れてる。



「やっぱし、か。最初っから疑ってたような言い方だな」

「まあ、ね」

苦笑して言うイタックに肩をすくめるあたし。

単純にロイ氏と仲がいいことをやたら強調していたところとか妙に気になる部分が多かったからなのだが。

でも十分他の人間も怪しかったから確定はしなかったが。



「でも配役が逆じゃないのか?ここに来るのはガウリイのが確実だろう?俺を倒すなら」

今度はあたしが苦笑する。

「・・・・・・大した自信ね」

自信がなければ言えない台詞と強気な表情。あたし相手なら勝てると踏んでいるようだ。

「リナ=インバースの偽者になら、な。ガウリイが本物のリナ=インバースを恋人にするほど落ちぶれたとは思えないしいくらお人好しでも。まあロリコンなのは意外だったが」

「ちょっと待て。」

思わず顔に青筋が入るのが自分でわかる。



「もう一人のアメリアって子だったらまだ納得したけどなあ。お前と恐ろしく違って胸でかかったし」

ひきききっ!

あたしの怒りが増していく。

おのれ言ってはならんことをっ!



ゆらり、とあたしは呪文を唱え出す。

多少の破壊はやむなしとロイ氏も言ってたしいいだろう。うん。



「偽者かどうか。教えてあげるわ」



―――かくして。一つの爆音とともに事件は解決したのだった。



「・・・・・・情報って、一つの『武器』なのよ」

町を出て街道を歩きながら。あたしはアメリアに説明する。

犯人が見つかりトム氏を役人につきだしたあとが長かった。

実はロイの弟のゼンも別で同様にロイの命を狙ってたとか、トム氏はロイの奥さんと不倫していて彼女に頼まれただの、

実はゼンの子供と思っていた息子はロイの隠し子だったとかいろんなものが次から次に発覚し修羅場に巻き込まれそうになったところを依頼料だけなんとかもらってさっさと逃げてきた。

まあ後は話し合いでそれぞれ解決してください。あたしは知んない。



「だから、初対面の人間には情報を極力与えない。警戒している相手なら尚更よね。

―――『相棒』、とかさ。『仲間』って。その言葉だけで弱みを見せることになるでしょ。自分の弱い部分」

かつてガウリイを人質にとられた時のように。

あたし達があまり関係変わってないように見せてるのはそれもあるのだ。絆が深まることは強さでもあり。そして弱さにもなる。

・・・まあ、恥ずかしいから、と言うのも否定はしないけど。



「だから、基本『旅の連れ』でいいのよ」

ガウリイがイタックにあたしと同じ台詞を紡いで紹介した時、逆に嬉しかったのだ。それを知ってるとわかったから。アメリアの言葉を聞いたときはちょっと心配になったけど。

そして同時に、その彼の行動でイタックが彼にとって信頼に値する人間ではないとこちらには伝わった。

ガウリイは早くに気づいたのだろう。部屋が盗聴されている事実に。彼の持つカンなのかどうなのかは知らないけど。だからああして伝えた。

そして絵画が怪しいということも目で伝えた。

・・・・・・まあ、前者に関しては、その前にあたしとアメリアが知らずに女同士でトークしていたから結局はばれていたわけなんだけど。



「ガウリイさん、本当にわかってたんですか?」

一人後ろをちょっと離れて歩くガウリイに、振り返ってアメリアは問う。

ああ、とガウリイは気のない返事。

「まあ、リナのことだからそういうことじゃないかな、とは。なんとなくだけど」

ありがたい言葉。そしてやっぱり今更ながら確信する。戦いやこう言ったときの相性はいい。言わなくてもわかる。伝わる。

―――だから一緒に進んでいける。自信がある。



「オレもあのひと、なんとなく怪しいなって思ったし。金のためならいろいろやってたイタックを雇ったんなら尚更、な」

困ったような表情でそう言う。きっと、忘れやすいガウリイが覚えていたのだから相当だったのだろう。

「でもイタック相手ならリナの腕なら剣ででも軽く勝てたと思うんだがお前さんなんであんなに派手に魔法使ったんだ?部屋の中で」

「てっとりばやいから。」

本当の情報を隠してあたしはきっぱりガウリイに答えた。

悔しいから腹たつから絶対その情報は伝えない。



街道の分かれ道にさしかかる。

「じゃあ、わたしはここまで、ね」

アメリアが言う。そう、期間限定だったのは行く先が同じ方向な間だけで。

あたし達が行く方向とはここからは逆の方向に彼女は外交のしごとがあるのだと言う。



「セイルーンにも遊びに来てね。式挙げたくなったら用意するから」

「アメリアっ」

顔赤らめるあたしに彼女は笑う。



「……リナが弱み教えてくれて、よかった」

彼女は笑みを浮かべたままそう小さく呟く。



あたしは、ん、とそれに、少しだけなんとなく照れながら笑みで返して彼女を見送る。

そして再びガウリイと距離を縮めて並んで。歩幅をお互い何も言わず合わせて、自信を持って笑み合いながら目の前の道を歩きだした。