20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

14.セイルーン王宮


「………まづい」

あたしは額に汗を浮かべつつ一人呟いた。

そう。一人。

はっきし言ってあたしは今、道に迷っていた。

 

……これが、でかい森の中だとか、ならよくある話なのだけれど。

あいにく木は外にしか生えてないし、ここに広がるのは敷き詰められた冷たい石のタイルのみ。

そう。建物の中なのである。建物―――セイルーンの城の中。

 

つい先ほど、久しぶりにセイルーンに訪れたあたしと、旅の連れであるガウリイ。

アメリアやフィルさんに顔を出しておこう、ということになりこの王宮にも訪れたのだ。

クロフェル公がすんなり中にいれてくれた。

で、今姫は勉強の時間だから待っていてくれ、と言われアメリアに会う前にちょっとトイレに……とガウリイを客間に置いて一人王宮の中を動き回ったのがそもそものきっかけ。

気がついたら迷ってた。

あたしは前、ここのお家騒動に関わったときにこの城を動き回っているから大体の場所はわかってる。そして行きのイメージでは客間からトイレはそう遠くなかったはず、である。確か。

なのに戻ろうとしたら帰れなくなってた。ってゆーか見覚えの無い道が多いこと多いこと。

大体の場所をわかってるつもりだったのだが思ったよりもこの王宮ってでかかったのかも……。

 

こーゆー時に限って誰も人を自分の見える範囲に見当たらない。

だからと言って大声出しながらいかにも迷ってるやっかいな客だって思われるのもなんだか恥ずい。

一端窓から外に出て浮遊の術で場所確認したほうが早いかもしんない。

あたしは窓の戸をがらりと開ける。と。

「あら、リナ」

それを遮るよく聞き覚えのある声。

誰でもなく、あたしが訪ねてきた前の旅の連れの一人である、アメリア。



「久しぶり!どうしたの?こんなところで。勉強終わって今から客間に行こうと思っていたんだけれど。迎えに来てくれたの?」

「久しぶり。あー……それが、ね」

歯切れ悪く言うと彼女はすぐそれを察知したようだった。

「わかった。迷ったのね」

「前からこんなにわかりにくい作りしてたっけ?」

「このあたりはね。最近輪をかけて迷いやすいように今王宮一部改装中」

………迷いやすいようにって。

あたしがつっこむ前にアメリアが説明を続ける。

「こっちの方って城が保管している重要文献とか書類の保管場所への道に通じてるのよ。だから相当城内把握して無いとたどりつけないように。

最近なにかと物騒だから」

なるほど。防犯の意味で、ということか。

 

「ただ内部のものがまだ把握できてなくて迷う人も増えてるのよね。

この前まで城に戻ってきてた姉さんが何も知らずにここらに足を踏み入れて、城内で三日間迷って大変だったこともあった位」

そんなになるまで複雑にしたのか。

てか、皇女が3日迷うって。もしかしてこの辺に人がいないのはみんな近づかないようにしてるのか。迷いたくないから。

「そのお姉さんは?」

「そのあとまた旅に出ちゃったわ。またどこかで道に迷ってるかも」

「……方向音痴?」

城にいても城の外でも迷ってるのか。

慣れた足取りでアメリアが歩き、あたしも後に続く。

「あー、母がそうだったみたい。わたしも道に自信がある方じゃないけど姉さんほどではね」

ところで、と話を切りかえる。

「セイルーンには観光に?それとも何か目的があって?ガウリイさんも一緒なんでしょう?」

左右に別れた廊下を右に行く。

「うん、まあ。ほんの通り道。たまには、って思って」

「通り道ってことはどこか目的地でも決まってるの?」

きた。この話題。

ためらいながらも答える。

「………ゼフィーリアに、ね。ブドウ食べに」

「え?ゼフィーリアってリナの郷里でしょう?ってことはー…」

意味ありげな表情で笑って言われてあたしは慌てて言う。

「だからっ、ブドウの季節だからっ……」

「あー、わかったわかった。そうなのねー。式には呼んでね。何がなんでも行くから」

「違うってばっ!」

楽しそうに言うアメリア。

絶対言われるとは思ったけどやっぱし誤解された。

 

「でもリナが変わらず元気そうで良かったわ」

笑顔でそう言うアメリア。複雑に曲がりくねった通路。

「どうして?」

「ん、なんとなくね。元気無いんじゃないか、って思ったのよ。なんとなく、なんだけど」

――――巫女の勘、ってやつなのか。

「郷里に行くのも、他に、骨休み、って意味もあるんでしょう?ずっと旅してたんだし」

 

そう、かもしれない。

そう言えばセイルーンでアメリアにどーせだから会おうと言い出したのもガウリイだった。

あたしはもう平気なつもりでいるけれど。

色々気を使ってくれているらしい、保護者としては。

 

 

「あ、でもやっぱりガウリイさんにとっては骨休みじゃなくて頑張ってもらわないとね。

リナのお父さんだったら相当手ごわそうだし。うちの父さんとは違う意味で」

「アメリアっ!」

とあたしは顔を少しだけ赤らめなから怒鳴る。

そして、ふ、と自分の廻りの風景に気付く。

「……ところでアメリア」

「……何?」

「さっきここ通った気がするんだけど」



ぴたり。


二人して足を止めて沈黙。

それを先に破ったのはアメリア。


「あ。あははははは」

「って、もしかして迷ったんかっ!?」

あれだけ慣れたような足取りに見せかけて。

「だって。思わず勉強部屋に地図置いてきちゃったのよ。二人が来てる、って聞いたら早く行かなくちゃ、って思って。

わたしもまだ地図なしでだとやっぱり多少ね」

ちょっと頭痛い。

思わず頭を抑えるあたしにアメリアは自信満万に言う。

「大丈夫よ!正義の力があればすぐ抜け出せるから!多分さっきの所を左に行けばよかったんだわ!」

向かう先を人差し指で指す。

始まった。変わってない。


「それに、迷ったおかげで、リナとこうして久しぶりにいっぱい喋れてるんだし」

 

―――無邪気な明るさも、変わってなくてあたしは安心して思わず笑みをこぼした。