10 of us die from converting  -変換してから10のお題-

03.さいかい(再会)




正直―――この再会の仕方に―――半分は驚き、半分はどこか納得していた。



 

「・・・ミリーナ、か・・・・!?」

向こうから驚きの声。黒い布で顔を隠したその男はそうつぶやいた。

片手に抜き身の剣を携え。

―――足元には人だったものが転がっていた。

 

 

その場所を通ったのは本当に偶然だった。

安い宿屋を選んでしまったせいか食堂というのがなく、外で食事をしてきて宿に戻る途中だった。

静寂な闇に微かに聞こえてきた悲鳴。

路地での酔っ払いの喧嘩―――というのではなかった。悲鳴は立派そうな家の中から聞こえた。

足を止め、訊ねてみる。

メイドらしき人が死に物狂いで逃げてきたように私の姿を見てしがみつき言った。

「あ、あ、暗殺者が、旦那様を・・・・!」

彼女をなだめてしがみつきを解いて、私は彼女の指す部屋の方へと行った。

 

暗い中月明かりがちょうどその部屋の中を明るく照らしていた。

明かりの呪文を唱えるのを忘れるほどに。

 

 

「・・・・ルーク、ね」

私もつぶやく。

声と体格ですぐにわかった。

同郷の―――幼なじみだった。

自分から旅に出た私と違い、村を追い出されるように消えた男。

境遇が不遇なのと、彼自身の性格からあの村には溶け込めなかった。

そんな彼が今どうしているのか―――。

想像しなかったわけではなかった。

けれど。

 

「前からだけど更に美人になったな。何年ぶりだ?」

「・・・・・・」

こんな状況でも、久しぶりの再会に懐かしさがこみ上げたのか昔の調子で言う彼。

その問いには答えず、私は静かに問う。

「―――その人を殺す依頼を受けていたの」

「・・・・ああ。こーゆー金持ちはあちこちから恨み買ってやがるからな。依頼が多い」

「そして何も知らない殺した相手の家族とかから今度はあなたが恨まれるのね」

「・・・・・・・」

息を飲み彼はしばし黙った。

 

変わらない。

変わってない。

自分のしていることに対する感情を間違えて、言われるまで気付かない。

いや―――言われても気付かなかったから村を出る羽目になったのか。

 

「―――で・・・・・ここに何しに来た?どうする気だ?」

ぽつり、と彼が再び口を開いた。

言われて私は彼を見据えて答える。

「そうね。暗殺を目撃した以上あなたに口封じされる。このままじゃあ。そうでしょう?」

呪文を唱え始める。すると彼は苦笑った。

「惚れてる弱みでできない―――ってったらどーする?」

 

言われて思わず呪文を中断してしまった。

昔から私に対してそう言う台詞を言う男なのは知っていたのに。

それを知ってるなら流してしまえば終わりなのに。

その声には困惑の色が含まれてるのがありありとわかったからだった。

 

彼は多分本当に私を殺せない。

 

「なら辞めてしまいなさい」

自分の口から無意識のようにするりとその言葉が滑り出した。

「・・・・ミリーナ?」

「目撃者も殺せない、殺す事に理由を探しているようなら――――暗殺者には向いてないし、なる必要なんてないわ」

強い口調で言う。

 

まだ―――間に合うかもしれない。

今まで間違ってきたこと。

それに気付ける感情。

変化。

 

彼の返答次第。

 

「これ無くしたら――俺に何があるって言うんだ?」

 

真剣な―――けれども戸惑いの声。

私はひそやかに、けれど強い口調のまま言った。

 

「それを探す為に旅をする、って選択肢もあるわ。逃げる為の旅じゃあなくて」

自分が旅に出ることを決めた時の事を思い出す。

「・・・・ミリーナはそう言う旅をしているのか?」

私の無言を肯定と取ったらしく彼はそれっきり黙りこんで剣を鞘にしまった。

そして。

「――――その旅に付き合う事はできねえか?」

・・・・今度は私が内心戸惑った。そしてとっさに言う。

「私、今赤い髪の人は好きじゃあないの」

彼が村から出た後、色々な面で赤い髪の人間にろくな目に会わされてないせいかそれが一番に思いついた。

また彼は苦笑する。

「じゃあ染めるから。それならいいだろ?」

「・・・・・・」

 

彼にとって気付けるきっかけになれたのだろうか。

自分以外の人を拒絶しがちな彼に。

―――なら彼の申し出を受けるのも悪くはないと思った。

 

「あともう一つ。ここをなんとかしてからよ」

メイドには姿を見られているし彼が殺したこの人をこのままにしておくのも私がしたわけでないにしろ気が咎める。

ルークはその言葉に、すまねえ、と気まずそうにその相手に黙祷を送った。