Topic of 10 with the image from the numbers  
-数字からイメージして10のお題-

06.六枚の花びら




 

 

「あたしもいーきーたーいーっ」

「我慢しろ」

地団太踏んでこれでもかと懇願するあたしに対して、いつもの調子でしれっとゼルは言った。

 

とある街道を離れた山奥の遺跡の入り口。

ここに眠るらしい書物を調査したい、とゼルがいろんな情報を書き殴った羊皮紙の束を抱えて言い出した。

で、あたしもいつもの通りゼルについて行くことにした。そこまではよかったんだけど。

 

「中にはガーディアンだのトラップがいくつかあるらしい記述がここを示す書物にあった。今のお前がついてくるのはリスクが高すぎる」

「―――っ、簡単な呪文なら使えるもんっ」

 

そう。先ほどからなんというか。予定外にいわゆる魔法が使えない日に突入しちゃったみたいで。

あああああ。もう。この時ほどゼルに言いたくなかったことったらない。普段なら平気なのに。むしろゼルが聞きたがらないのに。あああああ。

 

「おとなしくここで留守番していろ」

「イヤ」

きっぱりとあたしは言う。にらみ合い。ため息をつくゼル。

「言い方を変えよう。俺が出てくるまでここで見張りしていろ」

「何を見張るのよ」

「他に書物を狙っている輩がくるかもしれない。そいつらからだ」

苦しい話だ。

ゼルが一生賢明調べたから出てきたようなこんなお宝もなさそうな遺跡にそうそう似た時間に誰が来るというのか。

 

「…もしきてもそいつらが強かったら、今のあたしじゃ太刀打ちできないじゃない」

「それなら逃げろ。迷わず。中にいるよりここのが思う存分逃げられるだろう」

「〜っ」

ああ言えばこう言うんだからっ、とあたしが言うとそれはお前だと言う。埒があかない。

「お前好みの宝があれば必ずお前に土産としてもってくる。無茶はしない。なるたけ早く帰ってくる。おとなしくその辺で休んでいろ」

「……」

睨みつけるあたしに頭を撫でて、気になるところを的確に突いた言葉で諭す。どっかの二人を真似しているんだろうか。

 

「……それに今日の夕飯もおごってくれたら、いい」

仕方なくそんなゼルに不機嫌ながらも妥協案を出す。ますます呆れたように、でもほっとしたようにゼルは、わかった、とその妥協案をのんだ。

交渉成立。

 

 

 

一人になったところで仕方なくあたしは適当な野原に座り込む。山奥だけど遺跡のおかげか一部分だけ木がなく日がよく当たった野原状態になっていた。

ぽかぽかいい天気。ほどよい風。

―――さて。どうしよう。

お昼寝には向いてるけどそこまで気を抜くのもあれだ。ないとは思うけど言っていたように他に人来る場合を考えて。

書物でも読んでればいいんだろうけど今そのたぐいは手持ちにないし。こんなことなら持ってくればよかった。

 

「……」

野原を眺めてればいくつもの白い花が風に揺れていた。

かわいい。小さすぎず大きすぎずの複雑な花びらデザインの花。

「…これでなんか作れたら時間つぶせるんだけど」

子供の遊びでそんなのがあるのは誰かにきいたけどやり方は知らないし。冠だったかなんだったか。

試しにやってみようかな、と思いつつ、もうひとつ花で遊ぶ方法をやはり誰だかに前教わったことを思い出す。

 

「……ゼルの帰りが早い。遅い。早い。遅い。早い。遅い」

花びらを数えながら二択をつきつける。

その花は後者という答えを出してくれた。

「……」

 

―――冷静に考えれば六枚の花びらでやればそうなるのは当然なのだけど思わずその答えにむっとしてしまう。

他の花を手に取るあたし。

「ゼルがおみやげ持ってくる。こない。くる。こない。くる。こない」

 

そんでもって同じ種類の花ならめったに花びらの数は変わらない、というのを後でゼルから聞く。

けど知らなかったものだからあたしはランダムにまた花を選びなおして今度こそはと数え出す。

複雑な花びらの形と合わさり方をしている花だったから、実際は六枚しかなくてもすぐにわからない。えいやっと二択をあたしは花につきつけ続けた。

「おにょれーっ」

 

 

「…おい」

背後から声をかけられびくっとしてあたしは我に返り振り向く。

怪訝そうなゼルの姿。

「あ、お帰りーゼル。早かったわね」

「……そうでもないと思うが」

言って彼は空を見る。確かに彼が行ったときと太陽の傾きがおもいっきり異なっていて若干暗くなりつつある。あれ。いつのまに。

 

「残念ながら書物も宝もアウトだ。誰かが入った跡があった。…まあその分敵も少なかったが」

手を広げてゼルは言う。うわ。占い当たってるし。

「そっかー…」

「…で、お前は何していたんだ」

「んー…占い?何度もやってたらおもしろくなってきちゃって」

立ち上がって肩をすくめながら説明する。それに呆れる顔をするゼル。

「何度もやるって時点で占いになるのかそれは」

「何度やっても同じ結果ならその答えがあたりそうだなって」

「ということは何度も同じ二択を問いかけたわけだな。何を問いかけたんだ」

言われて、一瞬すっとぼけようかなーと思ったけど、今回残念な結果だった彼を力づけてやることにする。

 

 

「……ゼルが自動的に元に戻れるか。元に戻る方法が見つかって戻れるか」

「……」

どれやっても同じ結果だったから大丈夫、とあたしは言う。

こうなったらどっちでも嬉しいことつきつけた方がいいやと思ったのだ。結果がばらけても嬉しいし。まあ結局後者しか結果でなかったけど。

 

「次は見つかるってことでしょ」

「……お前な」

呆れたまま、でも笑いをこらえたように言ってあたしの額をピン、とこづく。

「そもそも占い方が間違ってる。普通は花びらはちぎっていくものだろう」

野原の花たちを見ながらゼルは言う。花はすべて自然のまま。つまりあたしはどれもちぎってはない。単に触って数えていっただけ。

 

「知らなかったのか」

「知ってたわよ」

あたしが答えるとそれに意表をつかれたような顔をする。

いやそれ位はあたしだって知ってました。本当に。でも。

「…でもどーがんばったって花って踏んじゃったり燃やしちゃったり台無しにしちゃうときはしちゃうじゃない?

戦いの時とか」

まあ花に限った話じゃないけれど。

「そういう理由じゃなく遊びで壊しちゃうのもったいないもん」

あたしも野原を花たちをみる。

六枚の花びらがきれいに風で一斉に揺れてる。

うん。やっぱりもったいない。何の花か知らないけど。

 

「……お前らしいな」

やっぱり苦笑して言うゼル。でもその苦笑はなんだか嬉しそう。

あたしにとって一番のほめ言葉。だってゼルは、あたしがさすがコピーだけあってリナに似てるって意味ならそう言わないから。むしろ逆。

あたしだけのもの。

 

 

「他には何か占ったのか」

遺跡を跡にして町へ向かいながらゼルが言う。

「んー。宝にめぐまれますようにとか」

「それは既に願いで占いじゃない」

そんなやりとりを繰り広げる。いつもの調子。

 

本当は、ゼルの傍にいつまでいていいかとか。そんなのも占ったんだけど、それは今は教えてやらない。

ただその結果を思い出して笑って、そんなあたしに怪訝そうなゼルに、また調査するところ探さなきゃね、とごまかして前をあたしは向いた。