20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

12.治癒(リカバリィ)


「ミリーナっ、大丈夫か!?」

 

レッサーデーモンの襲撃に遭い、私とルークは呪文や剣でなんとか倒した。

最近こういう場面が増えてきた気がする。

けれど量が多くないのとこういう輩との戦い方が少しずつ呑みこめてきたことと。

「怪我はないか!?」

………前と違い一人でないおかげで事無きを得ている。

 

「平気、よ」

乱れた髪を後ろにやって私は答える。

一緒に戦っていても、戦いで目が届かないことがあれば、彼は私をこうして必ず心配する。

戦っている間でも私から目が離せない、なんて言わないだけまだましかもしれないけれども。

けれど。

 

傍にきたルークの腕をつかむ。

「……あなたの方が怪我を、しているでしょう」

見れば赤く目立つ傷。

私が腕をつかんだせいか、悟られたせいかわずかに顔をゆがませるルーク。

さっきレッサ―デーモンを斬りかかるときに小さく彼がうめいた声には気づいていた。

 

「なんてことねーって。これくらい」

「………」

誤魔化すようにもう片方の手をぱたぱたとふるルーク。

―――ふと、微かな疑問が頭をよぎり、彼をじっと見つめて言う。

そう言えば彼が回復呪文を唱えているところをまだ一緒に旅して間もないにしろ見たことがない。

「……あなた、もしかして、『治癒』が使えないんじゃあないんですか」

 

しばしの無言。

 

それを肯定ととり、私はため息をついた。

「……あれだけの呪文が使えてどうして使えないんですか」

 

 

彼は剣が主の様だけれど、攻撃呪文・黒魔術に長けている。

はっきり言って治癒はそれに比べてほとんど呪文さえ覚えれば簡単に使えるレベルなのに。

 

 

「独学で魔法は使えるようになったからな」

怪我をした自分の腕を見て彼は言う。腕を見ているはずなのにその目はどこか遠くて。

「魔道士協会で金払ってきちっと学んだ奴らは当たり前に学ぶんだろーけどな。知るチャンスがなかったし、ちょっとした傷なら薬でも治せるし」

「………」

その時には呪文を唱えている最中なので何も私は答えなかった。

 

 

彼は少し前まで人を殺す仕事をしていた。

『怪我をすること』時点が致命傷の世界で生きていた。

『治癒』なんて知っていても知らなくてもどちらでも『使うことがあっては困る』世界。

『人を救うことを、知らない』世界。

 

言葉の端々に彼のいた自分とは違う世界を感じる。

けして彼の性格からして望んで入ったのではないであろう世界を。

今は抜け出したと、私と出会ったと言うことでそうしたと言う彼。

一緒に旅したい、と言う彼の申し出をなんとなく断れなかった。

 

 

私がかけた治癒の力で、彼の傷は消えて彼も楽そうな顔をする。

「この術では傷は消せても、体力をその分消耗しますから。次の町についたらぐっすり眠りなさい」

「おおっ。ミリーナ、俺の事心配してくれるんだなv」

「……目の前で痛そうな顔をされてもこちらが迷惑ですから」

さらりと返すとうっ、と情けない表情になったのを見てからわたしは街道の前を向いた。

「……明日にでも教えますから『治癒』の呪文を覚えてくださいね。簡単ですから」

「え?」

「これからこういうことがあっても毎回私が治さなければいけないのは困ります」

前を歩いて後ろに残された彼に言う。

 

 

「……ああ!」

少しだけ間を置いて弾んだ相棒の声が私の耳に届いた。