Short Story(not SFC)-短い話-
The right hand of glory
久しぶりの魔道士姿に、やっぱり落ち着いてる自分がいる。
思ったより長く郷里にいたな、といまさらながら思う。
ブドウ目当てに帰ってきたはずのそれは予想できないほどの安らぎとか、驚きとか、いろんな充実感をくれた。
でも、まだまだ世界を見ていきたいなーって気持ちは揺るげなくて。
やっぱり、旅を再開することにした。
もちろん、相棒のガウリイとともに。
家を後にして、大通りを二人で歩く。
やっぱり久しぶりの旅は、なんとなく新鮮で。
でも今まで癒されてきたせいか、やっぱり落ち着いてる。
「それだけじゃ、ないだろ」
何故か苦笑して右隣を歩くガウリイが言う。あたしが珍しく素直に、そう久々の旅についての感想を述べると。
「…何が?」
「今なら気にしなくて済むからだろ?指」
言われて、あ、とあたしは自分の右手を見る。
グローブのはまったそれは、なんの変哲もないように見えるけれど。
実は外せば、薬指には指輪がはまってたりする。シンプルなシルバーリング。
「そんなに気にしなくてもいいのに」
その指輪をくれた当人はちょっとすねたように言う。それにあたしは口をわざととがらせて答える。少しだけ顔が赤らむ。
「あたしが気にしなくても周りがやたら気にするじゃないのよ」
家族だけならともかくとして、誰が広めたんだかさておき近所の人やらうちの店の常連さんやら、やたらみんなしてあたしの指に注目する。
そのたんびにあたしは、顔赤らめていやこれはそんな深いもんじゃなくて、ほら右にしてるしと必死に言いつくろってたのだ。
包帯巻いてみるとか、いっそのこと外そうかと思ったのだが、それはそれでこの男が悲しそうな顔するし。
ある日、突然ガウリイが贈ってくれた。
まああたしの誕生日が近かったのもあるだろう。それと、これからも一緒に旅を続けていきたいなとかそういう事をお互い口にして、確認してみた、というのもある。
だからといって、プロポーズだ、式はいつだの子供はだのとそんな突き詰めたところまではまだお互い考えてないし、それもなんか違うな、と思った。
単に二人でいられる限りいこうか、みたいなそんな感じ。
そう言ったあと、何か形として表したかった、と彼がくれたのだ。どこからそんな金、と思ったけど持ってた路銀は意外と使っていなくて持っていたらしい。
もらった時、暴れたいくらい恥ずかしかったけど、でも正直にそんな彼の気持ちは嬉しかった。
なんの宝石もついていないシンプルなのが彼らしい。
これなら四六時中つけててもおかしくはない、と思ったのだけど、さすがに注目されると。
「でも、ま、いいか」
わしわしとあたしの頭を撫でる彼も今更、どこか照れたような表情を見せる。
「肌身離さずつけてくれてるだけで嬉しいし」
でもどーせ隠してするなら左にしたらどーだ?と言われ、嫌、とあたしは即答。
「……なんで?」
「左だと若干ゆるいし。まあぶかぶかって言う程じゃないんだけど、遊びがあるから、グローブ脱ぐときひっかかって一緒に脱げちゃうもの」
それに、と言って前を向いて歩きながらあたしは言う。
彼のほうはわざと見ない。見れない。
「本当にいかにもじゃない。それじゃあ」
未だそれ以外特に何か変化したとかなんていうかそういうことも何一つないのに。
というのは口には恥ずかしすぎて出せない。
「この方が、らしいって気がしない?」
とか言ってみる。
でも実際それは嘘じゃない。
どうせ一緒にいる意思があるなら式あげときなさいよ、と母ちゃんとかにも言われたのだけれどあえてそれは断ったのだ。それは、あたしが単に照れたから、というだけではなくガウリイと話した結果で。
どこかに落ち着きたいとかごくごく普通の家庭生活を望むのならそれもありだろう。もし将来それを未来として考えるならばそう思えたときにそういうことはしよう、という結論に至ったのだ。
でもとりあえずは当面あたしたちにその意思はない。
世界を見てまわりたい。旅を続けたい。
今までと変わらないものを続けたいと思っている以上、あえてその一般的なことにこだわる必要はない、と思うから。
「まあ、な」
お前さん左だったら絶対誰にも見せないし、そもそもグローブどんなときでもはずせないんだろうしなあ、とか聞こえるか聞こえない程度につぶやく。あたり、やっぱしあたしの考えはばればれらしい。
今更だけど。
しばらくすると、街道の向かう先で悲鳴が聞こえた。と、同時に人の声ではないものの声。
レッサー・デーモンか!?
「いくわよガウリイ!」
「おうっ!」
同時に二人で走り出す。
そして二人で目の前の敵を倒していく。
この瞬間がすごく満ちている。
これからも、きっと。こんな風に別に敵がいなくてもいいから、別にそれは望んでないから、とにかく二人で。
倒したあと、顔は見合わせて、お互い笑んで右手をぱん、と合わせた。
なんとなく、その右手が、グローブの中にこっそりはめた指輪が自分の中で誇らしくて、同時にくすぐったかった。